ガラスの欠片と未来への投資
商談は成立した。 澤北たちはベンの倉庫へ案内された。そこには、売れ残った塩の樽や、使い古された衣服の山、そして弱った牛が二頭繋がれていた。
「塩は全部もらいます。牛も二頭とも。あと、この古着の山も」
澤北はテキパキと指示を出した。 古着は、繊維をほぐして「紙」の原料にするつもりだ。 さらに、澤北は倉庫の隅に積まれていた木箱に目を留めた。 中には、薄汚れたガラス瓶や、割れたガラスの破片が詰まっていた。
「これは?」 「ああ、それは屑ガラスだ。溶かして再利用しようと思ったが、質が悪くてな。濁っていて売り物にならん」
ベンが吐き捨てるように言った。
「都の職人が作ったらしいが、最近は燃料をケチっているせいで温度が足りず、気泡だらけだ。こんなものを高値で売りつけられるんだから、たまったもんじゃない」
澤北は割れたガラス片を光にかざしてみた。 確かに濁っている。緑色がかっており、気泡が多い。 だが、澤北の目には、それがダイヤモンドの原石に見えた。
(温度不足……つまり、燃料と炉の問題だ)
自分たちの村には、鉄を溶かす高火力の炉がある。 そして、川には良質な石英(砂)があり、木炭を作るための木もある。草木灰を使えば、透明度を上げることも可能だ。 何より、この都市ではガラスが「高値」で取引されている。
「ベンさん。このガラス屑、鉄の小刀五本で譲ってくれませんか?」 「はあ? こんなゴミをか? 持って行ってくれるならタダでもいいぞ」 「いいえ、対価は払います。……これはゴミじゃない。『次の商売』の種ですから」
澤北は不敵に笑った。
こうして、取引は終わった。 荷車には満載の塩と古着、そして木箱いっぱいのガラス屑が積まれた。後ろには牛が二頭繋がれている。 鉄製品はすべてベンの店に納品された。ベンは久しぶりに晴れやかな顔で、「これで農村に行商に行けば、まともな商売ができる」と喜んでいた。
帰り際、ベンは澤北に忠告した。
「気をつけろよ、澤北。あんたたちの村の噂は、いずれ領主の耳にも入る。……あの男は強欲だ。金の匂いがするところには、必ずハエのようにたかってくる」 「肝に銘じます。……その時は、また相談に乗ってください」
ベンとの間に太いパイプができた。 彼はこの都市における、澤北たちの代理人になってくれるだろう。
帰り道。 夕日に染まる街道を、牛の鳴き声と共に進む一行の足取りは軽かった。 特にタケルは、手綱を握りながら上機嫌だ。
「すげえな、澤北! あの頑固そうな爺さんを丸め込んで、こんなに物資を巻き上げるとは!」 「巻き上げたわけじゃありません。Win-Winの関係ですよ」 「うぃんうぃん? よく分からねえが、お前が味方で本当に良かったよ。敵に回したら一番怖えタイプだ」
ガロウも、背中の荷物を直しながらボソリと言った。
「……剣を使わずに勝つ。野盗よりたちが悪いな」 「最高の褒め言葉として受け取っておきます」
澤北は苦笑した。 だが、心の中は燃えていた。 ガラス屑。これが次の切り札だ。 鉄で基盤を作り、ガラスで外貨を稼ぐ。そして、紙を作って情報を制する。
村に戻れば、忙しくなる。 まずは「ガラス工房」の建設だ。 澤北の脳内では、既に新しい炉の設計図が描かれていた。




