黒い石の発見
組織の地盤が固まり始めた頃、澤北は次なるステップへ踏み出した。 タケルとガロウ、そして数名の精鋭を連れて、赤狼村があった山岳地帯への遠征を行ったのだ。 目的は「資源」だ。
「この辺りか?」 「ああ。俺たちの村の裏山だ。何も育たねえ、呪われた山だよ」
ガロウが指差した先には、赤茶けた岩肌が露出した禿山があった。 植物が育ちにくい地質。澤北の胸が高鳴る。
川辺に降り立つ。水は澄んでいるが、川底の砂は妙に黒っぽかった。 澤北はしゃがみ込み、川底の砂を掌ですくい上げた。 ずしり、とした重み。 掌に残る、黒く輝く粒子。
「……あった」 「なんだ、ただの泥か?」
タケルが覗き込む。
「泥じゃない。砂鉄だ」
澤北は懐から、現代から持ち越した数少ない所持品の一つ――壊れたスマートフォンのスピーカー部分から取り出しておいた、小さな磁石を取り出した。 それを砂に近づける。 黒い粒子が、生き物のように磁石に吸い寄せられ、ハリネズミのような形を作った。
「うおっ!? なんだその石! 魔法か!?」 「磁石です。そして、これにくっつくのが『鉄』の素です」
澤北は立ち上がり、周囲を見渡した。 川底だけでなく、崖の断面にも黒い帯が見える。さらに、少し離れた場所には白っぽい岩場――石灰岩の露頭も確認できた。 製鉄に必要な材料が、セットで揃っている。ここは宝の山だ。
「ガロウさん。この山は呪われてなんかいませんよ。この黒い砂は、金や銀よりも価値がある」 「……これがか? 食えもしねえのにか?」 「ええ。これで道具を作れば、畑を今の十倍の速さで耕せる。この石で矢じりを作れば、熊だって一撃で倒せる」
「鉄」という言葉の響きに、男たちの目の色が変わった。 この世界でも鉄製品は流通しているが、非常に高価で、農民が持てるのは小さなナイフや、先祖伝来の錆びた鎌くらいだ。 それを自分たちで作る? 夢のような話だった。
「やるぞ。ここを採掘場にする」
澤北の宣言に、タケルが拳を鳴らした。
「へへっ、面白くなってきやがった。で、どうすんだ? この砂を鍋で煮れば鉄になるのか?」 「いいえ。もっと熱い炎が必要です。……『タタラ』を作ります」
澤北の頭の中には、かつてドキュメンタリー番組や書籍で得た「たたら製鉄」の知識があった。 粘土で作った炉。木炭による還元反応。三日三晩の操業。 理論は知っている。構造も頭に入っている。 だが、澤北はまだ知らなかった。 「知っている」ことと、「できる」ことの間には、深くて暗い谷があることを。




