表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
再生の物語 つながりを紡ぐ  作者: 冷やし中華はじめました
土と炎と知識の苗床

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/56

パンと鉄の天秤

「待ってください!」

 澤北の声が夜空に響いた。  亡者たちの動きが止まる。

「俺たちは戦いたくありません。あなた方も、無駄に命を落としたくはないはずだ」

 先頭の男――赤狼村の村長と思われる男が、唾を吐き捨てた。

「綺麗事ほざくな! 俺たちはもう限界なんだ! 村の子供は半分死んだ! どうせ死ぬなら、奪ってから死ぬ!」 「奪っても、一度腹を満たせば終わりです。また飢えるだけだ」

 澤北は冷静に返した。

「あなた方が欲しいのは、今日一日の飯ですか? それとも、明日生きるための希望ですか?」

 男が言葉に詰まる。  その隙を逃さず、澤北は畳み掛けた。

「我が村には、あなた方を全員養うほどの備蓄はありません」 「嘘だ! じゃあなぜあんなに煙が出ている!」 「あれは飯を炊いているんじゃない。……『仕事』をしている煙です」

 澤北は背後の土器焼き場を指差した。

「我々は今、冬の間に作った土器や、炭を焼いています。食料も、工夫して増やしている途中です。……提案があります」

 澤北は一歩前に出た。タケルが緊張で弓を引き絞るが、澤北はそれを手で制した。

「あなた方を雇いたい」

 その場にいる全員が、呆気にとられた。

「や、雇う……?」 「そうです。我々の村は今、人手が足りない。畑を広げ、家を直し、炭を焼くための人手が。あなた方が労働力を提供してくれるなら、その対価として、我々の持つ『食料を増やす技術』と、毎日の食事を提供します」

 ざわめきが起きた。  奪うか、殺されるかの二択だと思っていた彼らに、第三の選択肢が提示されたのだ。

「ふざけるな! 俺たちを奴隷にする気か!」 「対等な契約です。嫌なら戦えばいい。我々も全力で守ります。あなた方は大勢死ぬでしょう。勝ったとしても、手に入るのはわずかな麦と、使い方の分からない道具だけだ」

 澤北の声には、不思議な説得力があった。  それは、数々の理不尽な商談やクレーム処理を潜り抜けてきた、現代社会人の胆力だった。

「……本当に、飯を食わせるのか?」

 若い男の一人が、震える声で尋ねた。

「約束します。今日の分として、まずは温かいスープを用意しましょう。話は、腹を満たしてからでも遅くないはずだ」

 相手の戦意が、音を立てて崩れていくのが分かった。  空腹には勝てない。そして、「殺さなくていい」という安堵感は何よりも強い。

 数十分後。  村の広場では、奇妙な光景が広がっていた。  武器を捨てた赤狼村の男たちが、地面に座り込み、涙を流しながらヘビ団子入りの雑炊を啜っている。  それを見守るこちらの村人たちも、最初は警戒していたが、相手のあまりの食いっぷりと痩せ細った体に、次第に同情の色を浮かべ始めていた。

「……美味い、美味い……」 「生き返る……」

 澤北はその様子を離れて見ていた。  隣でガンテツが腕を組んで唸る。

「お前、とんでもねえ奴だな。敵を丸ごと飲み込んじまうとは」 「彼らは敵じゃありませんよ。……貴重な『労働力』です」

 澤北はニヤリと笑った。  赤狼村の男たちは屈強だ。今は痩せているが、体力が戻れば、開墾のスピードは倍になる。彼らの村の土地も活用できれば、生産拠点は二倍だ。  これは慈善事業ではない。M&A(合併・買収)だ。

 その夜、澤北は赤狼村のリーダーと握手を交わした。  二つの村は、緩やかな連合体となった。    春の夜風はまだ冷たい。  だが、その風には、新しい時代の匂いが混じっていた。  人口は増えた。抱える問題も増えた。  しかし、澤北には不思議と不安はなかった。   (さあ、忙しくなるぞ)

 かつて「社畜」としてすり減らした神経が、ここでは「指導者」としての資質に変わる。  澤北の「村づくり」は、ここから「国づくり」への第一歩を踏み出そうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ