表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
再生の物語 つながりを紡ぐ  作者: 冷やし中華はじめました
土と炎と知識の苗床

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/56

焚き火の前の告白

 病の流行が収束に向かったある夜。  澤北とタケルは、村外れの見張り小屋で火の番をしていた。  雪明かりに照らされた森は静かで、時折、枝から雪が落ちる音が響くのみだ。

 タケルは焚き火に薪をくべながら、ぼんやりと炎を見つめていた。  その横顔には、いつもの快活さはなく、深い影が落ちていた。

「……怖かったか?」

 タケルが唐突に尋ねてきた。

「病気のことか?」 「いや、人が死ぬことだ。……俺は、怖かったよ」

 タケルは膝を抱え、ポツリポツリと語り始めた。

「俺が前の村を追い出された理由、話してなかったな」

 澤北は無言で頷き、続きを促した。

「前の村でも、流行り病があったんだ。俺の妹もかかった。……俺は、何とかして助けたくて、薬草を探しに森に入った。でも、知識がなかった。俺が持ち帰った草は、薬じゃなくて毒草だったんだ」

 タケルの声が震えた。

「飲ませる前に村のババアが止めてくれたから、妹は死なずに済んだ。でも、村中から責められたよ。『役立たず』『疫病神』ってな。……妹は結局、病気で死んだ。俺がもっと賢ければ、正しい薬草を見つけられていれば、助かったかもしれないのに」

 タケルは拳を握りしめ、悔しさに顔を歪めた。

「だから俺は、お前を見てるとすげえと思うのと同時に、自分が情けなくなるんだ。お前みたいに知識があれば、俺は……」

 そこまで言って、タケルは言葉を詰まらせた。  澤北は静かに、自分の過去を重ねていた。  「もっと賢ければ」「もっと上手くやれていれば」。その後悔は、澤北自身が何十年も抱え続けてきたものだ。

「タケルさん。俺も同じですよ」

 澤北は火を見つめたまま言った。

「俺は知識があっても、それを活かす勇気がなかった。誰かのために動くのが怖くて、部屋に閉じこもっていた。……俺の知識は、誰かを救うためじゃなく、自分を守るための殻だったんです」

 澤北はタケルの方を向き、真っ直ぐにその目を見た。

「でも、あんたは違った。知識がなくても、妹さんのために森へ飛び込んだ。その『誰かを助けたい』という思いは、どんな知識よりも尊いものです」

 タケルが顔を上げる。

「あんたが森で俺を見つけてくれたから、俺の知識は初めて役に立った。あんたが村人たちを説得してくれたから、俺はここにいられる。……俺一人じゃ、誰も救えませんでした。あんたがいたから、今回の病気も乗り越えられたんです」

 焚き火がパチリと爆ぜた。  タケルの目から、涙が一筋こぼれ落ちた。彼は荒っぽく袖で顔を拭い、鼻をすすった。

「……慰めるのが上手いな、お前は」 「事実を言っただけです」

 タケルはしばらく無言だったが、やがてニカっと笑った。いつもの、少し悪戯っぽい笑顔が戻っていた。

「ありがとな、澤北。……よし、決めたぞ。俺はお前の『手足』になる。お前の知識を、俺が実行する。そうすりゃ最強だろ?」 「ええ。最強のコンビですね」

 二人は拳を合わせた。  その夜、澤北とタケルの間には、単なる協力者以上の、魂の絆が結ばれた。  過去の傷を舐め合うのではなく、背負ったまま共に歩む覚悟。  それは、来るべき春の試練に立ち向かうための、何よりの武器となるはずだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ