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再生の物語 つながりを紡ぐ  作者: 冷やし中華はじめました
土と炎と知識の苗床

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次なる一手(土器とレンガ)

 冬ごもりの準備は整ったが、新たな問題が浮上していた。  「生活道具」の不足である。  特に深刻なのが、調理器具と保存容器だ。

 ある日、炊き出しの現場を見ていた澤北は、順番待ちの列がなかなか進まないことに気づいた。  原因は明白だ。村に大鍋が二つしかないのだ。  一度に作れるスープの量には限りがあり、全員に行き渡るまで何時間もかかる。さらに、各家庭に持ち帰るための器も不足しており、木の椀を使い回している状態だった。

「これじゃあ効率が悪すぎる……」

 澤北が呟くと、隣にいたタケルが肩をすくめた。

「しょうがねえよ。鉄鍋なんて、行商人が来た時に銀貨何枚も叩いて買う高級品だ。村にあるだけで御の字だぜ」 「木の器はどうですか? もっと作れませんか?」 「木工職人の爺さんが死んじまってから、まともな器を作れる奴がいねえんだ。俺たちが削っても、すぐに割れちまう」

 道具がない。技術がない。  文明レベルが後退している現実を突きつけられる。  だが、澤北の脳内検索エンジンは、すぐに代替案を提示した。

(鉄がないなら、土を使えばいい)

 土器だ。  縄文時代から人類が使ってきた、最も原始的かつ偉大な発明。  この村には、良質な粘土があることは断熱改修の時に確認済みだ。

「タケルさん、ガンテツさんを呼んでくれませんか。新しいプロジェクトを始めます」 「またか? 今度は何をする気だ?」 「鍋と皿を作ります。土で」

 数分後、呼び出されたガンテツは怪訝な顔をしていた。

「土で鍋だと? 泥遊びでもする気か? 水を入れたら溶けちまうぞ」 「ただの泥じゃありません。『焼く』んです」

 澤北は地面に図を描き始めた。

「粘土を成形して乾燥させ、火で長時間焼くと、化学反応……いや、質が変わって石のように硬くなります。水も漏れないし、火にかけて煮炊きもできる」 「……焼き物か。都の貴族が使ってる『陶器』ってやつか?」

 村長が口を挟んだ。

「見たことはあるが、あれは選ばれた職人にしか作れん秘伝の技だと聞くぞ。かまという巨大な設備が必要だと」 「立派な陶磁器を作るにはそうですね。でも、俺たちが今欲しいのは芸術品じゃありません。実用品です。それなら、野焼きでも作れます。それに、ゆくゆくは簡易的な窯を作って、もっと丈夫な『レンガ』も焼きたい」

 レンガ。その言葉にガンテツが反応した。

「レンガってのは、あの古城の跡地にある赤い石のことか?」 「そうです。あれがあれば、腐らない家が作れる。もっと熱効率の良いカマドも作れる。……まずは土鍋と皿から始めましょう」

 澤北の提案は採用された。  冬の間、外での作業は制限される。室内でできる土器作りは、冬の仕事としてうってつけだった。

 試行錯誤の日々が始まった。  まずは粘土の選定。砂利を取り除き、水を加えて練る。空気を抜くための「菊練り」のような真似事も教えた。  形を作るのは子供たちが上手かった。粘土遊びの延長で、次々と皿や椀の形を作っていく。  ガンテツは流石の器用さで、均整の取れた大きな鍋の形を作り上げた。

「問題は、焼きだな」

 乾燥させた土器を、焚き火の中に投入する。  一度目の挑戦は、大失敗だった。  急激に温度を上げすぎたせいで、焼いている途中でパン! と破裂してしまったのだ。

「あああ! 俺の傑作が!」

 ガンテツが頭を抱える。

「水分が残っていたのと、温度差ですね……。もっとじっくり乾燥させて、最初は遠火で温めてから、徐々に火の中に移しましょう」

 失敗をデータとして蓄積し、改善する。  二度目、三度目。  数日後、灰の中から取り出されたのは、赤茶色に変色し、叩くとコン、と硬い音がする素焼きの皿だった。

「できた……!」

 澤北が水を注いでみる。漏れない。  村人たちから歓声が上がった。

「これなら、各家庭に一つずつ鍋が行き渡るかもしれない」 「保存用のかめも作れるぞ!」

 冬の閉ざされた村の中で、文明の灯火がまた一つ灯った。  土をこねる村人たちの横顔は明るい。  自分たちの手で、生活を良くすることができる。その確信が、彼らの表情を輝かせていた。

 だが、澤北は満足していなかった。  野焼きの温度はせいぜい800度程度。強度が低い。  もっと高温が出せる「登り窯」を作れば、水を通さない硬質の焼き締め陶器や、本格的なレンガが作れる。  そしてレンガがあれば、製鉄のための炉も作れるかもしれない。

(鉄を作れれば、農具ができる。武器ができる)


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