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19世紀パリ転生シリーズ

19世紀パリに転生したので画家やってみたら大画家だった件

掲載日:2025/11/09

-注意-

現実に存在する地域・人物が元になったお話ですが、史実には一切関係ございません。

また、過去に実在した人物が登場します。愚弄する意図は一切ございませんが、そうとも取れる描写が含まれておりますので御注意ください。


1837年、パリ。俺、5歳。

唐突に、おおよそ200年後の日本でサラリーマンやってた記憶が蘇る。


あまりに唐突だったもんで、俺は頭がクラクラして、「やったー!転生したからにはチートが貰えて魔法で無双できるぞー!」なんてアホなことが頭によぎったりもした。だが、それはどだい無理な話なんてのは直ぐに分かった。

だってここ、ファンタジー世界じゃないもん。

19世紀パリ。バリバリの過去。俺のいた世界と地続きの現実。そりゃ魔法もドラゴンも実在しませんわなー、って、ああいうなろう系の舞台が軒並み中世ヨーロッパ風だから騙されたよ…一瞬でもワクワクしちゃった俺の少年心、返して欲しいよ…

でも転生しちゃったもんはしょうがないので、俺はこの世界で生きていく決意をした。死ぬほど柔らかいベッドの上で、記憶を取り戻した衝撃で熱出してぶっ倒れた俺を死ぬほど心配する両親に見守られながら。


この身体に記憶が馴染んできて、ひとつとんでもないことが分かった。

俺の実家、死ぬほど裕福。

こういうの何て言うんだっけ、ブルジョワジー?ツヤツヤの革靴にたっかいシルクハット、廊下を闊歩するメイドさんたちに専属の乳母。この光景を見た時はさすがに心躍ったね。まあともかく、俺はそんな極太両親の元に生まれたらしい。

そうと分かればやることは一つ。



スローライフじゃオラァアアアアア!!!!!



俺はまだなろう的展開を諦めちゃいねえぞ!お家引きこもって!!メイドさんに囲まれて!!趣味に没頭して一生暮らすんだぁああああ!!!


と思ってたら普通に働かなきゃいけないみたいです。そう簡単にはいかないね。ぴえん。俺の第二の夢も儚く潰えた。

まあ実家太いのは事実だし、この時代にしてはかなりの人生イージーモード勢と言えるかな。

それからちょっと悩んだ末に、俺はスローライフに近しいことをしようと思い立った。


職業 : 画家。


実は俺の生前の趣味ってやつが絵を描くことなんだよねー!

中学生のころ、夕暮れの美術室。俺は割とデッサンとか上手いほうで、すごいすごいって先生やら友達やらにわっしょいわっしょいされた…俺の学生時代の数少ない青春ですよ。

まあ所詮は片田舎のほぼ帰宅部。美術の先生におだてられて参加した全日本コンクールであえなく落選。上には上がいることを知って、その頃の俺の希望も儚く潰えてしまった。

でもこの世界なら!?親は太いし!死ぬほど太いし

!!学校行く必要も無いし!

遠慮なく夢を追いかけられるって訳だ!!ひゃっほー!!!!

両親も最初は反対してたけど粘り強く懇願してたらついに折れてくれたよ!なんでかね!

めっちゃ関係ない話するんだけど俺前世ではドアホで成績表オール1だったこともあってさ!そのせいかこっちでも勉強はてんでダメ、学校みたいなところにも一瞬通わされたんだけど、すぐに来なくて良いって言われちゃったよ!いやーほんと、なんでだろうね!


「いいか息子よ。画家になるんだったら、絶対にちゃんとした画家になれよ。ちゃんと売れてサロンにも入選するようなちゃんとした絵を…」


「やだなぁお父様!そんなの当たり前じゃないですか!」


「いやお前、割と小さい時からなんというか、自由奔放傍若無人がすぎるというか、考えることが斜め45度というか…」


「じゃ、行ってきまーす!」


そんなこんなで、祝・独り立ち!

実家からの仕送り充分!家もある!お手伝いさんもいる!ブルジョワ最高ー!!

画塾みたいなとこにも通わせてもらっちゃった!前世では行かせてもらえなかったら嬉しいなー!

まあ、合わないところもあったけど。主に先生との折り合いが…

キリスト教の主題だかばっかテーマに選んで、なかなか俺の描きたいものが描かせて貰えなかったんだよな。まあそれならそれで勝手に描くだけですが。

そんなこと繰り返してたらなんか周りからすごい目で見られてた。…何?また俺なんかやっちゃいました?

そんなこんなで、画塾には6年ほどお世話になった。長い下積み時代を経て、ついに俺は画壇に上った。


「サロンかあ。なんかすっごい高貴な響き〜。」


「そりゃそうですよお坊ちゃん。このサロンに入選できるかどうかで、画家の人生は決まってくるんですから。」


聞けば、このサロンとかいうコンクールはすごい権威あるもののようで。

サロンに入選できれば「良い作品」。出来なければ「悪い作品」とみなされるらしい。

…なんかそれって、審査員の好みじゃないの?そんなもんで画家人生左右されるとか本当理不尽極まりないんですけど…まあ、二十世紀も似たようなもんか。


「じゃ、真面目にやるかぁ。」


構図は有名な絵画を参考にして…それを現代ナイズしてパロディっぽく…古典主義的なモチーフに、ちょっとオリジナリティのエッセンスを…

そうして出来上がったのは、青々とした草の上で昼食をとる男女というありふれたピクニックの風景。

うん。中々いいんじゃない!?かなりの自信作だよこれ!?古典絵画の文脈もありつつ現代のヨーロッパを見たまま描いた目新しさもあるし印象に残るっしょ!

よっしゃいけー!!これでサロン入選は間違いなしじゃー!!





落ちました。





 

なんなんだよ!!

落ちるのはまだ良い。まだ分かる。俺が自身の実力を過信していたというだけだ。

なんでこんなケッチョンケチョンに言われなきゃなんないんだよ!!!


やれ「ハレンチ」だの「不道徳」だの「何が言いたいのか分からん」だの、「色が変」だの「遠近法がめちゃくちゃ」だの、「妊婦に見せたら流産する」「これは新しい兵器になる」に至っては本当に何なんだよ!!

あれか?すっぽんぽんの女の人描いたからいけなかったのか?お前らが「素晴らしい」って言ってる女神様だってすっぽんぽんじゃねぇか何が違うんだよ!!


腹立つ…腹立つけどそれ以上に傷つく…!

せっかく頑張って描いたのに今世でもこんなんかよ…くそう、ここが二十世紀だったら今直ぐ裁判場に駆け込んで名誉毀損で訴えてやるのに…

なんかTwitterでアンチにボロクソ言われてる絵師さんもこんな気持ちだったのかな…ゔっ、そういう批評(アンチコメ)って見ても傷つくだけって分かってるのに見ちゃう…もうマヂ無理…ヤケ食いしょ…


もぐもぐ。

もぐもぐもぐ。


よし。復讐しよう。

復讐といっても、あれだよ?物騒な方の復讐じゃないよ?俺はこれからもこのスタイルで描いて描いて描き続けて、それでいつか認められてやろうっていう、平和な方の復讐。

あいつらのために筆を折るなんて絶対にしてやるもんか。スタイルを変えるなんてもってのほかだ。

今度こそ、俺はやりたいことをしたい。夢を叶えたい。それができる環境に居るんだから周りの意見なんかに流されてたまるか。

決意完了!

そうと決まれば次のサロン作も頑張って描くぞー!!







落ちた。

落ちた。

また落ちた。

落ちて、落ちて、落ちまくった。そのたびに批評家たちの言葉(アンチコメ)は容赦なく俺の心を抉った。それでも描き続けた。

そのうち俺はすっかり変わり者扱いだ。まあ、良いけどね。今に見てろって感じだけどね。何?泣いてなんかないけど。



「ーー先輩!ーー先輩っ!!」


「ああもう、何でこんなことに…」


サロンには全っ然認められなかったけど、同じ売れない新進気鋭の画家たちからは支持されて、俺はすっかり彼らのリーダー扱いだ。


「俺はサロンに認められたいの!」


そのファンの中には、学のない俺にも覚えがあるような名前のやつもいて、それはちょっとだけ優越感だけど。

けど一緒くたにされるのは困るんだよ!俺ちゃんと古典に沿って描いてるのに!


「せんぱぁ〜い。僕今月厳しくてぇ〜…マトモなもの食べれてないんですぅ〜…パン一切れでいいからおごってくださいぃ〜……」


今俺の後ろをついてきてるやつもその一人。

「睡蓮」で有名な「光の画家」…クロード・モネ。

これは前世抜きにしても中々可愛い。俺がサロンで絵を描き始めてすぐの頃名前を混同されたのがきっかけで話すようになったんだけど、俺の絵べた褒めしてくれるし、度重なる炎上にちょっと心が折れかけたところにこの出会いがあったからチョロい俺はすっかり絆されてしまった。

よしよし。パンを買ってあげようね。うちお金だけは有り余ってるからね。お菓子も買ってあげる。生活費渡したげる。


「あー、ついつい孫を甘やかしちゃう爺ちゃんってこんな気持ちだったのかな…」


「ふぇ?」


「おい、あんまりモネを甘やかすな」


そうそう、こいつのことも忘れちゃいけない。

エドガー・ドガ。正直名前見た時はいまいちピンと来てなかったんだけど、「踊り子」の絵を見て確信した。美術の教科書に載ってたのが綺麗で覚えてたんだよね〜。実際に見るとパステルのふわふわってした筆跡がまた良いんだ〜。

その絵柄から勝手におっとりした人だと思ってたんだけど…実物がこちら。


「本当にアホだなお前らは…大体サロンに入選したからって何だと言うんだ?あんな見る目無いやつの集まりに…」

(サロンの評価が得られなくたってお前の絵の価値は揺らがない。ていうか、俺はお前の絵好きだし…ここに居る皆そうだろうが…)


「あ"ぁ!?」


はい、このとおり。

めっっっっちゃくちゃ口悪い!!気難しいし顔を合わせりゃ喧嘩ばっかり!!何だ嫌味か!?自分は何回もサロン入選しておいて!!まあ同じブルジョワ階級の出身がドガくらいしかいないからそのつるみでよく話すんだけどね!?

でもなんだかんだ気にかけてくれるし、多分ツンデレなだけなんだろうけど…正直、そういう「ツンデレ友人」のポジションは美少女の方が良かったな…前世でツンデレ好きだったから余計に…


そんなこんなで、俺の周りは変人ばっかり。世間には全然認められてないし、思ってる方向とは違うところにばっか進んでいく。


「あー、ママ見て!いんしょーの人!」


「違うっつってんじゃん!」


「いや、もう諦めろよ。お前世間一般にはむしろ印象派の代表的な存在なんだよ」


「違うったら違うの!俺は君たちみたいな変人とは違うんだから!」


「…は?」


「先輩まさか、自分が常識人だとお思いで…?」


「そうじゃん。むしろ一番の苦労人だよ?」


「…自覚なしだ。」


「やっぱり、モノホンは違いますね…」


サロンから反発して、独自の技法を発達させるはねっかえり画家集団“印象派”。こいつらはそんなとんがった派閥のメンバーで、俺は世間一般的にはその首領(ドン)ってことになってるらしい。

だから違うっての!!

あ〜、それにしてもこれ大丈夫なのかな…こんな過去の世界で暴れまくって、重大な歴史改変とか起きてない…?


「あ、あのっ!そこの紳士(ミスター)!」


「ん、なあに?」


「えと…」


あら可愛い女の子。モデルにしたい。生まれ変わったこの身体は割とイケメンらしくて、結構な頻度でこういうことがある。


「どうしたの、可愛いお嬢さん(レディ)」


「はうっ…!」


すっと腰を折って目線を近づけると、豊かな金色の髪を揺らして空色の目をキラキラさせる。

…うん、こういうことあると転生チートって実在するんだなって思うよね。思えば生まれも高貴だったし。


「ち、父が、この先で食堂をやってて、あの、お安くするので、よかったら…!」


「だってさ、良かったねモネ」


「先輩さっすがぁ〜!」


「俺は遠慮するぞ」


そんなふうにワイワイ喋りながら昼下がりのパリを歩く。


「あ…あの、印象派の画家さん、なのですか?」


「う〜ん…なんかそう言うことになってるみたい…」


「あ、えと、父がファンで、あとでお店にサインを…!」


「いいよそのくらい。お安いご用さ」


こんな可愛い女の子に頼まれちゃあね。断るわけにもいかないでしょ。

印象派ってのは間違いだけど、絶対これから価値上がるから!と念押ししておくと、薔薇色の頬がふっと綻ぶ。

…ハーレムには憧れないけど、モテとは無縁の人生だったから弱いなぁ。




「そうだ、未来の大画家さん。あなたのお名前をお伺いしてもいいかしら?」



勿論だ。俺は石畳に反射した眩しい光に目を細めて、愛らしい少女に笑いかける。





「エドゥアール・マネだよ」





 「19世紀パリに転生したので画家やってみたら大画家(エドゥアール・マネ)だった件」

                    おしまい

ここまで読んでくださりありがとうございました。

史実のエドゥアール・マネのエピソードが「どこのなろう主人公だよ…」と言いたくなるようなのばっかりだったので、いっそ本当に転生者だったら?というアイデアのもと制作いたしました!

転生チートって言われてやっと納得できる偉業!これを素でやってた本家マネの異常さが際立つぜ!



おまけ・主人公のプロフィール的なもの


ごく平凡な日本人男性。

わりと田舎の生まれ。あまり裕福とは言えない実家で学業成績も良くなかった為、ついに芸術の才能を開花させられることができず失意のうちに死亡。

絵を描くことが誰よりも好きで、夢は画家になること。

ちなみに、エドゥアール・マネについての知識は一切なかった。

「えっ俺がマネ!?マネってあの睡蓮の人じゃなく!?名前が似てるから同じ人かと思ってたんだよ〜!」…本人談

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