彼の秘密side杉山
—side杉山健吾
猿渡先輩と増田君が、一緒に登校している姿を見てしまった。
やはりただの幼馴染じゃなくて、付き合っているのかな…
というか、俺はなんで増田君の事を考えているんだろうか…
自分の席に座っていると、机の前に人影が現れた。
「なに黄昏てるんだ?怖い顔してるけど?」
おちゃらけて言う菊地に、少しうんざりとしていた。
「黄昏てなんて無いけど…」
「ふ~ん…省吾先輩さ…」
その名前を聞いて、少し身構えてしまった。
「先輩がどうかしたのか?」
「ん~や…稔に対して兄貴っぽいよな~やっぱり幼馴染だからかな~」
そういいつつ、その言葉には何か含みのようなものを感じた。
「そんな当たり前の事言う必要ある?」
ちょっとイライラしてそう言うと、菊地はつまらなさそうに俺の元を離れた。
なんなんだよ…全く…
先輩と増田君が付き合ってるかもと思っている俺に、何か言いたい事でもあるのか?
いや…それは考えすぎか…
というか、なんで俺は増田君がこんなに気になるんだろう…
部活の時もボーっと考えていると、2階の美術室を見上げると窓からぼんやりと増田君が見えた。
走ってる最中でも、チラチラと見てしまう。
同じクラスに一度もなったこともなく、関わり合いも無かった。
菊地と友達なのは知っていたけど、アイツともそんな関わりなかったし、気にも留めてなかった。
あの日何かを探している増田君を見て、何気なく手伝おうと思っただけだった。
猿渡先輩と幼馴染だと知って、遊びに行って交流をしている内に、彼の事が気になってしまった。
絵が上手いのが気に入っただけなのか、なんか純情そうな彼に興味をもったのか、自分でもよくわからなかった。
先輩と抱き合っていたのを見た時は、何故かショックを受けた。
なんでショックを受けたのかも、自分でも分からなくて混乱している。
部活が終わって帰ろうとしていると、先輩と増田君と菊地と一緒に帰る事になった。
「夏の大会が終わったら、受験まっしぐらか~だりぃ~」
「省吾先輩って大学行くんです?何を学ぶつもりです?」
いつも通りの感じで菊地は、猿渡先輩に絡んでいた。
「あ~?俺が大学行くのおかしいって言いたいの?」
「そんな事ないですけど~やっぱり陸上で行くって感じですか?」
「俺は杉山と違って、推薦受けれるほどの成績ないしさ~」
俺の方を見ながら、先輩はそう言うと笑っていた。
「そんな言い方したら杉山君に悪いでしょ!」
猿渡先輩を、窘めるように言った。
「そうだな…嫌な言い方して悪かったな」
先輩は、そう俺に言って来た。
「いえ、全然気にしてないので…」
そう答えると、菊地が明るく言った。
「さすがクール男子だな」
「クール男子なんて言われてんの?杉山…」
先輩が不思議そうな感じで、菊地に聞いていた。
「う~ん、一部の女子から言われてますよ~顔がイケメンでカッコよくて、クールだって」
そんなの初耳だった…
「直人みたいに騒がしいのが嫌なんでしょ…杉山君が必要以上に喋らないからクールってなったんじゃないの?」
そう増田君は言って、微笑んでいた。
その時、増田君がとても綺麗に見えた。
体育の時間に少しボーっとしていると、横に菊地がやってきた。
「何ボーっとしてんの?」
「別に…」
他の人達が運動している様子を、見ていた。
「稔さぁ…」
その言葉に驚いて、思わず菊地の方を見た。
「なに?その反応!ははは」
「増田君が何?」
なるべく平静を装って、聞き返した。
「稔って割と流される所あんだよな~強引にされると断れない的な?」
「あー…そんな感じはする…」
優しいから断る事ができないんだろう…
「稔の事を杉山ってどう思ってる?」
「どうって…」
何が言いたいのか、少し分かったけど…意図は?
「でも、増田君って…猿渡先輩と付き合ってるんじゃ?」
「はぁ?」
「え?違うの?」
そう言うと、ため息をついた。
「稔さ…好きなヤツがいるんだけど、言えないでいるんだよな…」
「そうなんだ…」
好きな人がいるって聞いて、なんだかモヤモヤした。
「でさ、好きなヤツの絵を描いてるんだよな。スケッチブックに」
「え?」
「でさ~それを誰にも見られたくないからさ、美術室の棚の中に隠してるんだよ。笑えるよな」
笑いながら言う菊地に、俺の心臓は何故かドキドキしていた。
「好きって言わないからさ、俺…勇気出させる為に一回そのスケッチブックを窓から外に放りだしたんだよ」
「え?」
「必死でかき集めてまた棚にしまってるんだぜ?学習能力なくね?ま~美術部とは言っても、俺と稔だけだしさ。誰も気づきはしないんだけどな」
そこまで言った時に、先生から俺たちは声をかけられた。
「おい!杉山に菊地!サボんな!」
そう言われて俺たちは、焦ってみんなの所まで走って行った。
部活が終わった後、昼間に言われた事を思い出していた。
「杉山~一緒に帰らない?」
猿渡先輩にそう言われたけど
「あ、今日は先に帰ってください。俺ちょっと用事あるんで」
「そ?分かった!じゃあ、また明日な」
先輩が帰った後、俺の足は美術室へと向かっていた。
暗い校舎の中は静かで、もう誰も居ないのは分かっていた。
携帯のライトを照らして美術室まで行くと、ドアをそっと開けた。
確か…菊地は棚って言ってたけど…どこの棚だろう…
棚を一つ一つ調べていると、スケッチブックが何冊も置いてあるところを見つけた。
そのスケッチブックの一つを手に取って、開いてみた。
そこに描いてあったのは、色んな角度から描かれた走っている姿だった。
どんどんスケッチブックを開いてみると、最後のスケッチブックは紙がヨレヨレで何枚かは、ただ挟まっているだけだった。
その数冊のスケッチブックに描かれているその特徴は、まさに俺の様に見えた。
増田君の好きな人って…俺…?
彼に俺の絵を描いて欲しいと思っていたから、これは純粋に嬉しかった。
この絵を見ていると、この数か月では描けない量の枚数だった。
いつから増田君は絵を描いてくれてたのだろう…
スケッチブックを元の場所に戻すと、俺は美術室を後にした。
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