衝撃的な告白
窓を見ると、今日は窓に雫が光っている。
今日は雨が降っているから、陸上部は校庭に居ない。
秋に飾る為の風景画をキャンバスに向かって描いていると、いつものスケッチブックとは違って、なかなか筆が進まなかった。
直人は用事の為に一人で部室にいると、省吾が入ってきた。
「稔~1人?」
何故か省吾の声に、怯えている僕が居た。
「うん…今日は直人は用事があって先に帰ったんだよ。省吾はなんで?」
省吾は部室を見回しながら、歩いていた。
「そろそろ返事を貰えないかなって思って…」
返事と言われて、あの事だと一瞬で分かったけど、どう言っていいのかわからなかった。
「えっと…」
「急かすつもりは無かったんだけど、なんか最近稔が余所余所しいからさ…」
僕の変化に一番の理解者である省吾にしてみれば、ここ数日の僕の態度が気に入らないのも分かっていた。
僕の近くまで来た省吾に、少し恐怖を感じていた。
「僕…省吾とは付き合えない…」
省吾が纏っている空気が、変わった気がした。
「絵を返して欲しくないの?」
いつもより冷たいその声色に、僕は怖かった。
「絵は…返して欲しいけど、その条件が付き合うっていうのは、おかしくない?それに僕たち男同士だよ?」
精一杯の言葉で反論していると、省吾はあのスケッチを出していた。
「この絵さぁ…単なるスケッチって言うには、違い過ぎるんだよな。俺の絵と…」
もう一枚、この前描いた省吾の絵を2枚並べて見せていた。
「この違い、稔にはわかるよな?」
両方の絵をつきつけられて、その違いにも気づいている省吾は流石だと思った。
その問いに僕は何も答えられず、省吾を見ていると
「これを杉山に見せたら、どういう風に思うだろうね?」
僕を脅迫するかのように、杉山君を描いた紙をひらひらとさせていた。
「やめてよ…」
震える声で、そう言うと省吾は俺を見ていた。
「杉山に見られたくないよな?なら、稔はどうしたらいいと思う?」
そんな風に言われて、僕は手が震えていた。
「それは…」
言葉に詰まっていると、省吾はため息をついた。
「真剣に考えて欲しいんだよ…俺の事…」
その言葉に省吾の方を向くと、悲しそうな目をしていた。
脅迫じみた事をした相手に、付き合おうと言われても本気に思えなかった。
「考えるも何も…こんな脅しみたいな方法をとられても、考えられるわけないじゃないか!本気にも思えないし、揶揄ってるだけにしか僕には見えない」
そうハッキリ言うと、省吾は僕の側まで近づいてきた。
思わず距離をとろうと椅子から立ち上がると、省吾に抱きしめられた。
「ごめん…こんなやり方ズルいってのは分かってる…だけど、俺の事考えて欲しい…」
抱きしめられた省吾の手は、微かに震えていた。
僕は省吾を押しのけると、彼を見上げた。
「ちゃんと考えるから…絵を…」
そこまで言うと、それを遮る様に省吾は
「ちゃんと考えてくれ!」
そう言うと、部屋から出て行った。
明日からどんな顔して省吾に会えばいいのか、僕にはわからなくなっていた。
ちゃんと考えると言ったからには、省吾の気持ちに向き合うと言う事だ。
僕はため息をついて、帰り支度をして家へと帰った。
家に帰ってからも、食欲も湧かず省吾の言葉を思い返していた。
小さい頃から一緒に居て、いつも僕を守ってくれていた。
人付き合いが決してうまいと言えない僕を、人の輪に入れてくれたり、イジメられそうになった時もかばってくれたり、そんな省吾の事が好きだった。
でも、その気持ちは恋愛のソレではなく、兄としての気持ちの方が強かった。
第一恋愛感情なんて、男性に対してもったことは無かったし、男として省吾の事を見た事なんて無かった。
優しい省吾に、僕はずっと甘えていた。
省吾とはずっと兄弟みたいに、仲良く過ごせると思っていた。
いつから省吾は僕の事をそういう目で見ていたんだろう…
そんな素振り一切無かった…僕がいくら鈍感でも、そんな感じがあったら気づいたと思う。
杉山君の絵を見た事で、僕が遠くにいっちゃいそうで、それでこんな風になってしまったのではないかと、そう思えて仕方なかった。
省吾の気持ちは、本当は独占欲的なもので、恋愛感情とは違うものなのじゃないかと、そう思えてしまった。
それに、僕は省吾とは恋愛的に付き合うとか、どんなに考えても無理だと思った。
一緒に居て居心地はいいし、楽しいし、優しいし、幸せな気分にはなるけど、それはどっちかと言うと、恋愛じゃなく家族的な愛情だと僕は思った。
自分の気持ちを再認識した僕は、きちんと省吾と話し合うべきだと思った。
ちゃんと気持ちを伝えよう…そう心に決めて眠りについた。
省吾に日曜日会う約束をして、2人で久しぶりに出掛ける事にした。
話し合うのに人目を気にせず会話できるのは、カラオケだと思って店へと入った。
「稔がカラオケなんて珍しいな」
省吾がそう言った。
「人が居なくて、2人で話せるのって、ここかなって思って…」
「そうだな…こんな話…人に聞かせる事できないもんな」
省吾はそう言って微笑んだ。
「僕ちゃんと考えたよ。省吾の事…」
「うん…」
僕の目を真っすぐ見る省吾に、意を決して話した。
「やっぱりどんなに考えても、省吾の事は幼馴染のお兄ちゃんで、傍に居て楽しいけど恋愛のソレじゃない」
そう言うと、省吾はやっぱりなっと言う目で見ていた。
「僕は思ったんだけど、省吾は僕が誰かに取られるっていうか、弟が独り立ちするのが寂しいって感情だと思うんだ。それを恋愛的な感情だと勘違い」
そこまで言うと、省吾は僕の両肩を掴んでいた。
「違う!そうじゃない…」
僕の目を真っすぐ見て、真剣な表情で言った。
「中学生の時に、俺は自分の気持ちに気がついた…最初は弟的に可愛いんだと思ってた。けど、稔に対して性的な感情を抱いた事で、俺の好きって感情は恋愛なんだと気がついたんだ」
そう言われて、すごく驚いた。
省吾からそんな風に思われているなんて、一切なかったからだ。
「でも…そんな雰囲気…」
「出せる訳ないだろ!男同士だぞ?」
省吾の言葉でハッとした…そうだ…僕も杉山君に感じた感情ときっと同じだったのかもしれない。
「その頃は思春期ってのもあって、最初は自分の気持ちも受け入れられなかった…稔に対してそんな目で見ている自分が嫌いだった」
省吾の葛藤を聞いて、僕は何もわかっていなかったのだと思った。
「自分でも気持ち悪いって思ってた…だけど、それでも稔の側を離れたくなかった…だから避ける事もなく、今日までお前の側に居た」
僕を掴んでる手は、少し震えていて省吾の気持ちの本気さが伝わってくる。
数日考えた僕の範疇外すぎて、どう受け止めたらいいか分からなくなっていた。
「本気なんだよ…稔の事…一時の気の迷いとか、そんな物じゃない…何年お前に片想いしてると思ってるんだ?今のままで答えなんて出せないのはわかる。隣の兄貴くらいしか思われてないのも分かってたし、だからこれからそういう目で俺の事見てそれから判断してくれ」
省吾にそう言われて、嫌だと言えなくなった。




