ショックな事
省吾の絵は完成とまではいかないけど、大まかには描けていた。
僕の所まで来ると省吾は、絵を覗き込んできた。
「こんな感じでいいなら、完成でもいいんだけど?」
僕はもう省吾を描く事に飽きていたので、そっけなく言った。
「もっとしっかり描いてよ。1日で簡単に描き終わるとか、愛情なくない?」
「愛情って…」
その言葉に惰性で描いてる事を見透かされたみたいで、ちょっと驚いた。
「ちゃんと稔が納得するまで描いてよ…ね?」
そう甘えた様に言われて、僕も仕方ないな~っと思っていた。
「わかった。自分が納得できるまで描くよ」
「サンキュ~」
僕の頭をガシガシとすると、省吾は部室の方へと歩き出した。
自分も帰る準備をしようと立ち上がり、部室へと向かった。
—side杉山健吾
部活が終わり猿渡先輩は、走って増田君の所へ向かった。
なにやら話をしている様だけど、彼の頭を撫でている姿を見ると、何故かモヤモヤしてしまった。
あの二人って単なる幼馴染ってだけなんだろうか?そう考えた自分の思考に驚いてしまった。
「杉山~?どーしたん?」
同級生が話しかけてきて、フッと我に返った。
「別に…」
「お前ってめっちゃクールだよな~付き合ってる人とかいんの?」
ずけずけと質問してくるコイツを、俺は好きじゃなかった。
「いないけど?」
「杉山モテそうなのにな~告白できない空気纏ってるもんな~」
そう言われて、そんな事した覚えもないし、モテるとか言われても、ピンとこなかった。
「そんな空気纏ってない…それに、恋愛に興味ない」
「だよな~興味なさそうってか、部活一色って感じ?好きな人もいなそうだし…」
好きな人いなそうと言われて、ふと何故か増田君が浮かんだ。
「ま~杉山に彼女とかいるとムカつくから、今のままで頼むよ~」
そう言いながら、ソイツは部室へと向かって行った。
なんだよそれ…ま~彼女とか作る気ないし、どうでもいいけど。
部室へと向かうと、丁度猿渡先輩が出てくるところだった。
「杉山!おつかれ!」
「お疲れ様です」
先輩は足取りも軽く、昇降口に向かって行った。
多分増田君を迎えに行っているんだろう…
また3人で帰るのかな?と思いつつ部室へ入って行った。
—
荷物を持って昇降口まで来ると、省吾がそこに待っていた。
「稔~一緒に帰ろう」
「あ、うん…今日は杉山君はいないの?」
なんとなく聞いたその言葉に、省吾の顔色が曇ったような気がしていた。
「なんで…杉山も一緒がいいの?」
少し冷たい声色に、驚いた。
「え?そういう事じゃなくて、最近いつも一緒だったから…」
慌ててそう言うと、省吾が僕に近づいてきた。
その省吾の雰囲気が、いつもの感じと違って少し怖く感じた。
咄嗟に後ろに下がると、省吾は僕の腕を引っ張って、抱きしめてきた。
「え…」
一瞬何が起こっているかわからなくて、固まっていたけど思わず省吾を突き飛ばしていた。
「なに?省吾どうしたの?」
問いには何も答えず、省吾はカバンを漁って一枚の紙を広げて僕に見せてきた。
それはあの日どんなに探しても見つからなかった、杉山君を描いたスケッチだった。
「え…なんで…」
「俺が拾ったんだよ…これ…杉山だろ?」
省吾に拾われてるとは思ってなくて、僕はかなり動揺した。
そのスケッチを取り返そうと手を伸ばすと、背が10センチも高い省吾が手を上にあげている紙に、手が届くはずもなかった。
「返して!」
ポンポンとジャンプしながら紙を取り返そうとしていると、省吾は僕の身体を静止した。
「返して欲しいの?」
僕を見ている省吾の顔は、光の加減でどんな表情なのかわからなかった。
「返して欲しい…」
そう返答すると、省吾は息を飲んだ感じがした。
少しの間があったあと、省吾は言葉を発した。
「返して欲しいなら、俺と付き合って」
「え?」
何を言われているのか、僕には理解できなかった。
「どういうこと…?」
「どういうって…わかるだろ?俺は稔が好きなんだよ…だから付き合って欲しい」
省吾が僕を好き…?頭の中がグルグルして、言われている事はわかるけど、理解ができなかった。
僕が動揺している間に、省吾はカバンに紙を仕舞いこんだ。
「返して欲しかったら、俺と付き合う。簡単な事だろ?返事が決まったら言って」
矢継ぎ早にそう僕に言うと、省吾はそのまま一人で帰って行った。
僕はその場から動けなくなっていた…
省吾の気持ちを知らなかった僕は、色んな事が起こりすぎて頭の処理ができなかった。
—side杉山健吾
着替えて部室から出ると、つい昇降口の方を見てしまった。
もう居ないと分かっているけど、つい見てしまった。
少し暗い昇降口に、影が見えた気がした。
まるで引き寄せられるように、昇降口に近づくと、そこには先輩と増田君が抱き合っている姿が見えた。
その姿を見た瞬間、息が止まる感覚になって、その場から走り出した。
やっぱりあの二人って付き合ってるのか?
心臓がバクバクしているのは、走っているせいだと思いながら、二人が抱き合っていた光景が頭から離れなかった。
先輩が男性を好きっていう事がショックなのか、それとも増田君が先輩と付き合っているのがショックなのか、よく分からなかった。
こんなに自分でもモヤモヤしているのが、考えても分からなくて…。
2人の距離が近かったのは、幼馴染ってだけじゃなく、恋人だからって事なのか?
増田君は可愛いし、あまり不思議に思わなかった。
彼の纏っている空気は、少し儚げで守ってあげたくなる様な感じがする。
相手は男子なのに、こんな風に感じるのはなんでなんだろう…
もし2人が付き合ってるのだとしたら、俺はこれからどう接していいのか分からない…
もしかして、菊地は知っていたのだろうか…
そう考えると少し納得できる態度だった気もする…
俺は頭をガシガシとかいて、頭を振ると空を見上げた。
このなんとも言えない感情は、一体なんなのか分からなくて薄暗い空をぼんやりと眺めた。
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