お願い
—side杉山健吾
この前4人で遊びに行ってからというもの、増田君の事が気になっていた。
あんなに何枚も猿渡先輩の絵が描いてあって、なんとなく俺の絵も描いて欲しいなんて、思ったりしていた。
口には出せないけど…
猿渡先輩と幼馴染ってことで、すごく仲がいいのはわかった。
あとは、菊地との距離感も少し近いような…
俺が気にする事ではないけど…何故彼が気になるのか、自分でもよく分からなかった。
校庭から美術室を見上げると、窓が開いているからあそこに居るんだろうけど…
「おいっ!杉山!何ボーっとしてる!」
部長に声をかけられて、ハッとして練習に集中した。
部活が終わって部室に行こうとしていると、丁度増田君と菊地が昇降口から出てくるところだった。
「杉山じゃん!今終わったの?」
菊地が俺に声をかけてきた。
「まぁ…そっちは今帰り?」
菊地の隣に増田君がいて、俺と目が合うとペコリと頭を下げていた。
俺も頭を下げていると、後ろから猿渡先輩の声がした。
「稔~今から帰るのか?」
「うん、そうだよ」
俺を通過して、増田君と菊地の所に向かった。
「これから着替えるから、少し待ってて!一緒に帰ろ」
猿渡先輩はそう言うと、増田君の肩を叩くと部室の方へ走って行った。
「杉山も帰らないの?」
菊地にそう言われて、ハッとして俺も部室へと向かった。
何故か4人でまた帰る事になっていた…というか、俺が早く着替えて先輩に合わせた感じになった。
なんで俺…こんな風に一緒に帰ろうとしてるんだろう…
「こうやって一緒に帰るのっていいよな。なんか楽しいな」
猿渡先輩は嬉しそうに、そう言っていた。
「みんなで~が付くんでしょ?」
増田君はそう笑いながら、楽しそうに先輩と話をしていた。
というか、なんで俺はこんなに増田君の事が気になるんだろう…
「杉山どうした?何考えてんの?」
菊地が俺の顔を覗き込んで、不思議そうな顔をしていた。
「別に…何も…」
「ふ~ん…何もって顔をしてないけどな~ま~いいや」
菊地はカバンを背中に回して、増田君の所へ向かった。
「どうした?杉山!なんか最近ボーっとしてないか?」
「そうですか?」
猿渡先輩は俺の肩に手を回すと、髪の毛をくしゃくしゃと撫でまわした。
「なんですか?髪の毛がぐしゃぐしゃになるんですけど」
「お前可愛いよな~」
「可愛いってなんですか?180もある男が可愛い訳ないじゃないですか」
先輩は俺より2センチだけ高いだけで、そう変わらない程だった。
可愛い身長では決してない…可愛いっていうのは…
そこまで考えて、一瞬頭に浮かんだのは増田君だった。
え…何?この感覚…
「じゃあ、俺らこっちなんで、省吾先輩またです~」
俺の手を引いて、増田君と猿渡先輩と別れた。
少し歩いていると、菊地が話をしてきた。
「どうしたの?杉山く~ん」
「なに?その言い方…なんでもないけど?」
「なんでもなさそうに見えるんだけど?」
意味深な言い方に、俺は少しイライラしていた。
「あ~あれか、自分でもよくわからない的な?」
思わず驚いて菊地の方を向くと、どや顔をしていた。
なんかムカつく…俺の何かを感じ取ってるのか?
「まあさ、何かあったらいつでも聞くよ?俺でよければ~だけど…」
そう言うと、杉山は手を挙げて
「じゃ」
っと言うと、帰って行った。
どうして増田君が気になるのか…なんだろう…先輩と仲良い幼馴染だから?
絵がうまかったから?それで興味を惹かれたのか?
考えてもわからないから、思考を放棄することにした。
—
杉山君と直人と別れてから、省吾は一旦上を向いてから僕を見た。
「稔はさぁ…もう俺の絵を描いてくれないの?」
「なんだよ…描いて欲しいの?」
少し冗談っぽく言うと、省吾は真顔でこちらを見ていた。
「描いて欲しいな…駄目?」
上から見下ろす省吾は、少し威圧的だ。
「はぁ~秋の絵の為に風景を描いてるんだよ。それが終わってからでもいい?」
「そんな時間かけられたら、俺は引退してるよ?走ってる姿を描いて欲しいんだけど…」
えらく食い下がる省吾に、仕方なく了承する事にした。
「分かったよ…秋まではまだ間があるから、スケッチ程度ならいいよ。流石に水彩画は描けないからね」
僕がそういうと、嬉しそうに笑った。
なんだかおかしなことになったと、ため息が出た。
流石に美術室から盗み見る必要もないから、校庭に面したベンチに腰かけてスケッチブックを広げた。
省吾は嬉しそうに、僕を見つけると手を振っていた。
僕はため息をつきそうなのを我慢して、スケッチブックに鉛筆を走らせた。
そこには何故か、杉山君の姿は無かった。
せめて近くで彼の動きを脳内に焼き付けたかったけど、仕方ないなぁ…
絵を描いていると、背後に人気を感じて振り返ると、そこには杉山君がいた。
「杉山君?」
「やっぱり上手いね…猿渡先輩を描いてるんだね」
なんか、少し気まずい感じがした。
「省吾に頼みこまれてしまって…」
「完成したら見せてくれる?」
「うん。いいよ」
そう答えると、杉山君は
「また」
と言うと、練習の輪の中に入って行った。
美術室より杉山君の姿が見えるのは、僕にとっては幸福な時間になった。
ある意味省吾のおかげかな…そこだけは感謝しようと思った。
—side杉山健吾
日直のせいで少し遅れて部活へ向かう途中、ベンチに座って絵を描いている増田君がいるのが見えた。
背後から近づいて見ると、スケッチブックに猿渡先輩の絵を描いているのが見えた。
その時何故か胸がざわついた…あの時確かに俺は増田君に先輩を描いて欲しいとは言ったけど、それは自分を描いてと言えないから出た言葉だった…
その時増田君が、俺の方を振り向いた。
「杉山君?」
振り返った彼を見た時、何故か息が止まるかと思った。
言葉をかける為に、平静を装って言った。
「やっぱり上手いね…猿渡先輩を描いてるんだね」
普通に言えただろうか…
「省吾に頼みこまれてしまって…」
少し戸惑った感じで、彼は俯き気味でそう言った。
「完成したら見せてくれる?」
「うん。いいよ」
そう会話をして、俺は部活へと向かった。
彼に描いてもらえるなんて、猿渡先輩が少し羨ましいと思ってしまった。
いつか俺の事も描いて欲しい…なんて思いながら。
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