急展開
カラオケへと移動して、みんなで順番に歌をうたっていた。
僕はあまりカラオケが得意じゃないから、少しだけ歌って通路側の椅子に座っていた。
ボーっとしていると、横に杉山君がやってきた。
「あまりこういうところは好きじゃない?」
驚いて彼の方を見ると
「俺もあまり得意じゃないよ?こういう所…」
同じだと思って、ちょっと親近感が湧いた。
「うん。いつも省吾に無理矢理連れてこられてて…でも凄く嫌ってことではないから…」
「増田君って優しいんだね」
そう言われて、驚いた。
「そんな事無いよ…僕なんて…」
「猿渡先輩って強引なとこあるけど、いい人だよね」
僕はその言葉を聞いて頷くと、彼の顔を見た。
「省吾って陸上部だとどう?」
「本当にいい先輩だよ。優しく厳しくて…俺…憧れてる…」
憧れか…まあ、世間一般的に省吾は兄貴肌というか、面倒見がいいと思っている。
「僕はあまりに近すぎて、憧れとかいう感情は無いなぁ…昔は省吾ばっかり描いてたから…」
「え?」
「いつも一緒に居たから、被写体が省吾ってだけだけど、何枚描いたかわからないくらい…」
フッと笑うと、杉山君の視線を感じた。
「昔の省吾先輩の絵を見せてくれないかな?」
杉山君は省吾を尊敬している…だから昔の省吾が見てみたいのかも…
ちょっと恥ずかしいけど、今の絵を見せるよりはマシだと思った。
「分かった…じゃあ、月曜日に持ってくるね」
「ありがとう」
そう言って、微笑んだ杉山君はとても嬉しそうだった。
「な~に2人でイチャイチャしてんの?」
僕の肩に手を置いて、直人がやってきた。
「イチャイチャってなんだよ!」
直人の余計な一言で、少し僕はイライラした。
「菊地ってそういう揶揄い方するんだね…ちょっと失望…」
杉山君も少し不機嫌そうに言った。
「へ~」
そう言われて、直人は杉山君の顔を覗き込んだ。
「元々俺に失望してんじゃないの?杉山君!」
直人はそう言いながら、杉山君の肩に手をかけていた。
「おいっ!俺の歌聞いてるか~?」
歌っていた省吾が、マイクを通してそう言った。
その声で、みんな省吾の歌を聞く事にした。
変な空気がこの省吾の言葉で気まずくならなかったから、本当に感謝しかない。
「あ~楽しかったね~」
省吾は愉快そうにそう言うと、みんな並んで歩いていた。
「増田君、さっきの話覚えてる?」
「さっきの?あぁ…絵の事ね」
僕がそう答えていると、省吾が間に入ってきた。
「なに?なんの話?」
「あぁ、僕が描いた省吾の絵を杉山君が見たいって…」
省吾は少し驚いた顔をした後、何か考えていた。
「ならさ、今から見に行けばよくない?」
その省吾からの提案に一番驚いたのは、僕だった。
「え?大丈夫なの?」
そう杉山君が僕の方を見た。
とても嫌だなんて言えない雰囲気に戸惑った。
「うん…杉山君さえよければ…」
「それなら決まりだな!」
省吾はそういいつつ、強引に僕の自宅へとみんなで直行したのだった。
(なんでこうなる?ていうか、なんで僕の家?)
部屋に通すと、男子高校生4人というむさ苦しい状態になった。
「ごめんね…僕の部屋狭くて…」
ジュースをテーブルに人数分置きながら言うと
「問題ないよな!」
と、何故か省吾が仕切る始末…
(なんでだよっ!)
「急に押し掛ける感じになってごめんな」
優しい杉山君は、そう言っていた。
「俺も稔の家に来るのは初めてだな~エロ本とかないの?」
とても最低な事を言う直人に、僕は蹴りを入れた。
「いって~~~」
「馬鹿だな…直人…稔はそんなもの見ないんだよ!初心なんだから」
何故かドヤっていう省吾にも、僕は蹴りを入れた。
「痛っ!」
そのやり取りを見ていて、杉山君は笑っていた。
「増田君っておとなしいと思ってたけど、やっぱり男子なんだな」
そう言われて、僕は急に恥ずかしくなって、本題のスケッチブックを引っ張り出すと、皆でそれを見ていた。
「へ~すごく上手いね…これいつくらいの絵?」
杉山君は、とても興味深々で聞いてきた。
「これは、中学生の時かな…」
そう言うと、パラパラと違うページも見進める。
「今は猿渡先輩の絵、描いてないの?」
ふとそう質問されて、僕は少し動揺した。
「あ、うん。今は描いてない…もう描き飽きちゃった…かな?」
少し笑い交じりに言うと、省吾が寂しそうに言った。
「もう俺を描いてくれないの?ずっと描いてて欲しかったな~」
冗談まじりに言う省吾に、杉山君は続けた。
「今の猿渡先輩を描いた絵も見て見たいな…この中学の時よりカッコいいと思うよ」
何気ないその杉山君の言葉に、僕は少し傷ついていた。
「アハハ…気が向いたらね…」
「そろそろ帰ろうか、あまり遅くなってもいけないし」
と直人がフォローを入れてくれた。
「そうだな!んじゃそろそろ帰るか」
省吾も直人に同意して、みんな一斉に帰って行った。
ジュースのコップを片付けながら、僕は杉山君の言葉が頭の中から離れなかった。
きっと、杉山君は省吾を描いて欲しいのかもしれない…
僕が杉山君を描いてるなんて、絶対に知られてはいけないと、そう思った。




