絵と彼と幼馴染
スケッチを探していると、声をかけられた。
「稔?何してんの?」
振り向くと、省吾が立っていた。
「省吾か…」
僕は少しホッとした…また杉山君だったらと、思っていたからだった。
この省吾は猿渡省吾で、一個上の幼馴染で隣の家に住んでいて、物心ついた頃から一緒に居た。
もはや兄弟と言っても、過言じゃないくらいだった。
「あれぇ?省吾先輩じゃないですか!部活サボってていいんですか?」
直人も一緒に探してくれていたから、近くに居た。
「おう!直人も居たのか」
「居たのかって…こんな髪の毛してる俺を見逃すなんて事あります?」
少し呆れた様に言う直人に、省吾は笑っていた。
直人は省吾に近づいて、何かを話していた。
「猿渡先輩!先生が呼んでます」
みんながその声の方向を見ると、そこには杉山君が立っていた。
「おう!今行くよ」
そう杉山に言うと、省吾は僕の方を向いた。
「じゃあな!探し物見つかるといいな」
省吾はそのまま校庭を走り出した。
杉山君と省吾の後ろ姿を見送って、僕らは探し物を続けた。
「しっかし、あんなに探しても無いって事は、もう誰かに拾われたんかな?」
その言葉に少し絶望を感じながら、体から力が抜けて行った。
「だけど、あのスケッチを見られたところで、単なる絵だとしか思わないだろ?」
直人のその言葉に、僕は確かに…と思った。
単なるスケッチの1枚に過ぎない、あれだけ拾われて杉山君だと分かったところでどうって事ないって思えた。
「それはそうと…さっき省吾と何話してたの?」
「え?別に…」
直人は首元に手をやり、僕から目を逸らした。
コイツのこの仕草は、何か隠し事をしている時にやるやつだった。
だけどそれを追求したところで、はぐらかされるのも分かっていたから、僕はあえてそれ以上聞かなかった。
「あ、そう。まぁいいけど」
「なになに?幼馴染を取られたくないとか?」
僕の肩に腕を回して、顔を近づけて来た。
「近いよっ!そんなんじゃないよ…」
直人の腕を払って、僕は椅子に座り窓の外を見た。
そこには陸上部が、走り込みをしているところだった。
「相変わらず稔は杉山を描くんだろ?」
僕を直人はそう言って見た。
「うん。晴れてる時はちゃんと描きたいんだ」
雨の日は外で練習しないから、僕は雨が嫌いだ…。
「たまには幼馴染の省吾先輩を描いてみたいとか思わないの?」
「省吾を今更書いても仕方ないよ…小さい頃からずっと描いてるし…」
「ふ~ん」
ずっと一緒に育ってきた省吾は、僕の格好の被写体だった。
あの春の日も本当は省吾を描くつもりだった…でも、杉山君が目に入って…気がついたら省吾じゃなく杉山君を描いていた。
「そういえば、直人は人は描かないの?」
直人の絵はいつも風景画だった…人物を描いてないのは、何かあるのかもしれない。
けど、僕には何も話してはくれないけど、踏み込まれたくない領域はあるだろうから、そっとしている。
「あ~まだその時じゃないかなってさ」
「そっか…直人絵がうまいから勿体ないって思っただけ…」
「褒めてくれてサンキュ~」
笑って言う直人は、どことなく儚げに見えた。
「一緒にスケッチ探してくれてありがとね」
「どういたしまして」
そう言って笑いあうと、絵を描き始めた。
「そろそろ帰ろっか…」
「そうだね…そうしようか」
お互いに片付けて、部室を出た。
「そういや、稔は油絵描かないの?まだ春とは言っても、秋の文化祭に向けてさ…」
歩きながら話をしていると、僕はちょっと上を見上げて考えた。
「ん~何を描こうか考えてるんだよね…」
「え?杉山を描けばいいじゃん」
(は?何を言ってるんだコイツは…)
「描ける訳ないだろ…アホか…」
僕は少し不貞腐れた感じで、靴箱から外履きを出しながら言うと、直人は
「ま~そっか」
とどうでもよさそうに、言うと歩き出した。
「そういう直人はどうすんの?」
「俺は…人物を描いてみたいんだよな」
予想外の返答で、僕は驚いて直人を見た。
「え…それって…」
そこまで言った時に、後ろから声を掛けられた。
「おう稔!今帰りか?」
振り返ると、そこには省吾と杉山君が居た。
(えっ?どういう事?)
思わず思考停止していた…省吾と杉山君は同じ部活だけど、一緒に帰るほど仲がいいとは知らなかった。
「あれ?杉山と省吾先輩一緒に帰るほど仲いいの?」
直人は躊躇する事なく、二人に質問を投げかけた。
「って、杉山と接点あんの?菊池」
「ありますよ~なんてたって、同じクラスだし」
そう言いながら、直人は杉山の肩に手をかけた。
「ま~そうですね。同じクラスではありますよ」
低く抑揚のない声で、杉山はそう言った。
「杉山ってさ、なんでそんなクールなん?同じクラスだし仲良くしようと思わない?」
直人は杉山君の顔を覗き込んで、そう言った。
「別に…仲良くも不仲でもないでしょ?」
そう言った杉山君に、直人は面白くなさそうな顔をしていた。
「直人!変な絡み方するな…」
僕がそう言うと、省吾が明るく言った。
「まぁ、ここで会ったのも偶然なんだしさ、4人で帰ろうよ…ね?」
「俺はいいですよ~別に仲良くも仲悪くもない杉山も一緒に帰るのは~」
「そうですね…俺も問題ないです」
静かに杉山君がそう言うと、省吾は僕を見た。
「稔もそれでいい?」
いきなり僕に同意を求めてこられて、少し戸惑ったけど不自然にならないように言った。
「うん…僕は別に…」
「じゃあ帰ろうか!」
そう省吾が言うと、4人で歩き出した。
(何このご褒美な展開は…夢…?じゃないよな…)
「そう言えば、この前の探し物見つかった?」
「へ?」
いきなり杉山君に話しかけられて、僕は驚いてしまった。
「あ…あれ…結局見つからなかったんだけど、大したものじゃないから…」
「そう…」
杉山はどこか納得していない顔をしながら、普通に歩みを進めていた。
「え?何?杉山って稔と知り合い?」
省吾がそう言うと、杉山君は
「あぁ…この前生垣の辺りを何か探してたみたいだったんで、声かけたんですよ」
「な~る程…あ~コイツ俺の幼馴染の増田稔…よろしくな」
省吾は僕の肩に手をかけると、抱き寄せて来た。
「あ…俺…杉山健吾です…よろしく」
「よろしく…杉山君…」
「それに、俺の親友でもあるから、杉山そこんとこヨロシクな!」
そう言って、直人は杉山君に絡みにいった。
僕は、まさかこういう感じで、杉山君と知り合いになるとは思ってなかった。




