新学期と学園祭準備
夏休みも終わり、新学期になった。
久しぶりの登校に、少し憂鬱になっていた。
新学期ということは、そう…学園祭があるからだ。
何をやるか次第で、僕の運命は決まる…
その死の宣告が今日という日というのは、分かっている…
ため息をつきながら、足取り重く歩いていると、いきなり背中を叩かれた。
「いたっ」
叩いた相手を見ようと振り向くと、そこには省吾が笑っていた。
「省吾…」
「よう!久しぶり!相変わらず肌白いままだけど、海とか行ってないわけ?」
省吾を上から下まで見ていると、どんな夏休みを送っていたか容易に想像できる。
「省吾は相変わらずの夏休みだったみたいだね」
そう言葉にしながら、普通に接してくれているってことは、僕も普通にしなければと思った。
「まあ、殆ど部活関係だったけど、最後は外に出っ放しだったな!」
「じゃあ、学園祭が終わったら受験だね」
省吾は少し不貞腐れた顔をして、僕の背中をもう一度バチンと叩いた。
「いたっ!叩かないでよ!」
「それを言うなよ!一番避けて通りたい話なのにさ…稔だってすぐ受験一色になるんだからな」
明るく言う省吾は、今までの様に話をしてくれて、とても嬉しかった。
「そんな事より、僕は今日の学園祭のやる事が恐怖で仕方ないよ」
「は~ん…稔の苦手な文化祭だもんな!クラスの出し物」
大きくため息をつくと、省吾は笑っていた。
「まぁ、がんばれ!応援だけしとくわ」
「薄情だな!省吾は」
そう話していると、昇降口についてお互いのクラスへと別れた。
一か月くらい話をしてなかったけど、普通に話せてよかった。
このまま話せなくなるのは、流石にちょっと寂しいから…
でも、それって…省吾にとっては…
本当に自分勝手だな…
本当の意味で普通に話せるようになるには、まだまだ時間が必要だって事はわかっている。
今は省吾の気遣いのおかげだと言う事も…
僕はかなり卑怯だと思う…こんな僕に想われている杉山君が不憫に感じた。
とうとう…この恐ろしい時間が始まった…そう、学園祭のクラスでの出し物決め…
「今回のうちのクラスの出店は、女装メイドカフェに決定しました!」
お分かりだろうか?この絶望的な提案が…
「今回は基本女子は裏方に回ります。男子が6人くらい女装メイドしてもらいたいので、立候補誰かします?」
クラスの女子が率先して進行しているが、当然誰も手を挙げない。
「これじゃあ、話が進まないんだけど?男子は決める為のいい案ないの?」
進行役の女子がそう言うと、クラスのカースト上位の男子が言いだした。
「じゃあさあ、女装の似合いそうなヤツ3人と絶対に合わないヤツ3ってのはどうだ?楽しそうじゃね?」
「それ!いいんじゃない?皆はどう思う?」
皆がその意見を了承する形で、選考方法を決める事になった。
そう提案していたけど、まぁ、僕が選ばれる心配はなさそうだから、大人しくその話を聞いていた。
「決めるのは女子でいいわよね?男子は一列に後ろに並んで」
女子は教壇の前に並び、男子は後ろに並ぶ事になった。
まるで品定めするように、メモを片手に話し合いをしていた。
女子はチラチラとこちらを見ながら、輪になる様にキャーキャーと騒いでいた。
「じゃあ、6人が決まったから発表するわね」
そう言って発表されたメンバーは最悪だった…
何故かそのメンバー中に、僕の名前が入っていたからだった。
ねぇ、それってなんの罰ゲーム?
「え?何それ最高じゃん!」
「は?」
絵を描きながら、直人は笑っていた。
「絶対遊びに行くからな!」
僕はため息をついて、直人の反応にイラついていた。
「僕は女装なんてしたくないよ!しかも似合いそうって何?似合う訳ないでしょ!」
直人は筆を僕に合わせて、デッサンのモデルを見るように被写体を捉えていた。
「ん~…似合うと思う」
その言葉に僕は落胆していた…
「他に選ばれた人は、2人とも小柄で可愛い感じだから分かるよ?でも、僕は影は薄いしスタイルもよくないし、背だって172もあるんだよ?似合う部類に入るのはおかしくない?」
「似合う側に選ばれて、なんでそんなに嫌がるんだよ…似合わない方に選別される方がきつくない?」
僕はためいきをついて、直人を睨んだ。
「そりゃ…直人が女装したら、完璧に似合わないっていうより、イケメンすぎの面白い感じになると思うよ」
「はぁ?俺が女装したら、モテモテだよ!」
体をクネクネさせながら言う直人に、僕は怒る気も失せていった。
「あーハイハイ…」
大きく息を吐くと、スケッチブックを机に置いた。
「直人はもう時間ないんだから、ソレ仕上げちゃいなよ…学園祭まで1か月だよ?」
直人はこちらを見て、微笑むと筆を動かしはじめた。
僕はため息をしながら、少しボーっとしていると、廊下を走る音が聞こえて来た。
「あ~こんな所にいた!」
そこにはクラスの女子2人が、僕を見ていた。
「増田くん!もう絵は完成してるって言ってたわよね?」
「え…あぁ…まぁ…」
「じゃあ、部活関係休んで大丈夫なんだから、手伝ってよね!それに、接客練習もあるんだから、サボらないで!」
そう言われながら、椅子に座っている僕の腕を引っ張った。
「あ、片付け…」
そう言いかけたら、直人が言った。
「片付けは俺がしとくから、稔連れてっていいよ!」
ニヤニヤと笑いながら言う直人に
「ありがとう!菊地くん!じゃあ、増田くん借りていくね~」
直人は手を挙げると、嬉しそうに僕を送り出した。
(直人のヤツ…絶対に許さない…)
女子達に連れられて教室に戻ると、それぞれ大道具や小道具を作成している面々が居た。
「お~美術部の増田じゃん!これ手伝ってよ!」
「あ…うん」
看板やら、メニュー表やら、やる事は沢山あって、そういう感じは僕の得意分野だから、クラスの役にたっているのは、やりがいはあった。
そして後の1か月は僕にとって、本当の地獄の日々になった。




