彼の思考side杉山
—side杉山健吾
思わず花火に誘ってしまった…
もっと増田君と接点を持ちたくて、浴衣の話まで持ち出してしまった。
それは単に彼の浴衣姿を見たいっていう、下心もあった。
「あら、珍しい事言うわね…ずっと毎年仕立てた浴衣が役に立ちそうね」
母親は嬉しそうにそう言った。
「てことだから着付けも頼むね」
そう俺が言うと、母親は少し手を止めて言った。
「ふ~ん」
「なんだよ…」
「なんでもないわ…用意しとくわね。3人分」
母親は嬉しそうにそう言って、準備をしてくれた。
増田君が家に来ると思うと、いつもより念入りに部屋の掃除をした。
待ち合わせの駅に着くと、後ろから菊地に声を掛けられた。
「お~杉山!早くね?」
「菊地に言われたくね~」
そう言うと互いに笑った。
「稔が来るまでその柱に隠れててくれない?驚かせようぜ」
ガキっぽい提案だったけど、それに乗る事にした。
増田君が来て、キョロキョロと周りを見渡している。
その姿がとても可愛く見えた…柱から俺が出ると、増田君は案の定驚いた顔をしていた。
ガキっぽかったけど、菊池の思惑は大成功ってところか。
増田君は俺たちを待たせたと思ったのか、すごく恐縮していた。
俺の家に来てからも、彼は礼儀正しく、育ちがいいのが見て取れた。
菊地とのアンバランスな感じも、友達としているには少し不思議だった。
確かに菊地は、他人の懐に入り込むのが上手いとは思う。
猿渡先輩は幼馴染だから、少し違うのかもしれないけど、明るいタイプと仲良くしてるのは、やはり先輩の影響だったりするんだろうか…
そう考えると、何か嫌な感じがした。
着付けの為に母親と会わせたけど、やたらと増田君の事を褒めていた。
悪い気はしないけど、なんだか自分以外の他の人に気に入られるのも、なんか嬉しくない…
この感情ってなんだろう…
浴衣を身に着けた増田君は、本当に可愛かった。
俺の浴衣を着ているから、丈がかなり長いみたいだった。
菊地の方は俺と2cmくらいしか変わらないから、調整をする事は無かった。
着こなしも割と似合っていて、なんかちょっと…複雑だった。
増田君も別に女性らしい訳じゃなく、ちゃんと男性なんだけど、それでも可愛いと思ってしまう…
俺がおかしいのか?
屋台で食べ物を買い、舗装されていない坂道を歩いていると、増田君の足取りが少し俺らから遅くなっていた。
「結構歩いたな~稔?どうした?」
先に声をかけたのは、菊地だった。
「増田君大丈夫?もしかして足痛い?」
俺も菊地に習って、そう声を掛けた。
「え?大丈夫だよ…」
明らかに歩く重心がおかしいのに、心配させまいとしているのがわかった。
俺と菊地は見合わせて、目くばせをすると
「そっかそっか~」
と明るく菊地は言いながら、増田君の荷物を持った。
「え?何?」
急に荷物を取られて、驚いている増田くんを、俺がひょいっとお姫様抱っこをした。
あまりに軽くて、驚いたくらいだった。
「えっ!?えっ!?ちょっと!」
暴れそうになる増田君を、窘めるように静かに言った。
「静かにしといてね。暴れられると流石にきついから」
「流石に浴衣でおんぶはできないよな~」
すかさず菊地がフォローに入ってくれて、この格好がおかしくないとアピールできた。
「稔はそんなに重くないから楽だろ?」
菊地は少し笑いながら、そう言うと
「うん、男子にしては軽いよね…」
俺も思わず肯定してしまった。
「ごめんね…」
見ると、耳まで真っ赤になっていた。
「俺の首に捕まってくれる?そうするともっと楽になるから、寄り掛かってくれる?」
「ありがとう…」
そう増田君は言うと、おずおずと手を伸ばして、俺の首に腕を回してくれた。
なんか増田君からいい匂いがする…
多分シャンプーなんだろうけど、汗の匂いがしないとか、同じ男なのかと少し疑ってしまう。
目的地に到着すると、増田君が座れそうな切株があったから、そこに座らせた。
「足が痛そうだね。何も手当するもの無いから、嫌かもしれないけど、人目がつかない所まではさっきみたいに運ばせてね」
そう言うと増田君は顔を真っ赤にして、首を振った。
「いいよ裸足で歩くよ」
そう言う彼に、菊池と同時に言った。
「「それはダメ!!」」
息もピッタリで言うと、増田君は目を丸くしていた。
と言うか、俺と菊池って考え方一緒なのか?
思考回路が同じ感じで、なんか照れくさかった。
でもスケッチブックを教えてくれたのは菊池だったから、きっと応援してくれてるんだろうな…と思った。
帰りもなるべく人が居ない場所を通って帰った。
家に着くと、母親がイソイソ出てきて、増田君の手当をしてたのは、なにか釈然としないものを感じたけど、この幸せな時を過ごせたのも、母親が毎年浴衣を仕立ててくれていたから、実現できた事だったから、目をつぶることにした。
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