花火大会
夕方近くになると、下から音がした。
「あ、帰ってきたのかも…ちょっと待ってね」
杉山君はそう言うと、下へと降りて行った。
「どう?愛しの君の部屋は…」
ニヤニヤしながら、僕の方を見ていた。
「しーっ!」
口に指を立てて、黙る様に言った。
「聞こえないって」
「そういう問題じゃない!」
2人でギャーギャー騒いでいると、杉山君が部屋に入ってきた。
「これから着替えを手伝ってもらうから、下の和式部屋に行こう。
着替えを手伝ってもらうって…それって…なんか恥ずかしい…
和室へ入ると、綺麗な女の人が居た。
「お邪魔してます…」
「お邪魔してまっす」
「あら、いらっしゃい!こんなイケメンばっかりで、お母さん照れちゃう」
そう言っていたから、やっぱり杉山君のお母さんなのか…
「すみません、浴衣お借りするのに、着付けまで…」
僕がそう言うと、杉山君のお母さんは優しく微笑んだ。
「あなた礼儀正しいのね…なんてお名前?」
「あ、すみません。増田稔と言います」
お辞儀をすると、杉山君のお母さんは笑っていた。
「あっ、俺は菊地直人です!よろしくお願いします!」
「増田くんと菊池くんね。よろしく」
笑顔の綺麗な人だった。
「お母さん美人ですね~さぞモテモテでしょう!」
「まぁ~菊地くんは言葉がお上手なのね!こんなおばさんに社交辞令なんていらないのよ」
直人は着付けをしてもらいながら、コミュ力全開で話をしていた。
「ほ~んとおばさんに言う言葉じゃないよな」
そう笑いながら杉山君が言うと、キッと睨んでいた。
「俺は本当の事しか言わないですから、社交辞令じゃないですよ!」
「まぁ~本当に菊地くんは素直なのね~誰かさんとは全然違うわ~」
直人と杉山君のお母さんは、楽しそうに会話をしながら着付けをしていた。
「はい、これでいいわ~。じゃあ、次は増田くんね」
「はい!お願いします」
ちょっと服を脱ぐのに抵抗あったけど、着付けてもらうのに恥ずかしがってる場合じゃないよな。
「あら…少し丈が長いから、ちょっと上にあげるけど、我慢してね」
微笑む顔が、すごく綺麗だった。
「すみません…僕背が低くて…」
「あら、いいんじゃない?可愛くて!うちの子なんて図体だけでかくてね~あ~態度もでかいわねぇ~」
チラッと杉山君の方を向いて、そう言うと
「うっせえ…」
と言って、顔を背けていた。
テキパキと着付けてもらって、最後は杉山君の番になった。
「ありがとうございました」
「本当に礼儀正しいのね…増田くんは…可愛い…あ~こんな子が良かったわ~」
「あ~ハイハイ…さっさとしてくれない?お・ば・さ・ん」
そう言うと、杉山君の衣服をバッと剥ぐと、テキパキと着付けを終わらせた。
「さ~て、いってらっしゃい!下駄も出してあるから、終わったら帰ってらっしゃい」
「じゃあ行ってくる」
「「お邪魔しました」」
そう言って、家から出ると花火会場へと向かった。
浴衣姿の人も結構いるけど、女子が大半だった。
「女の子気合入りまくりだな!ま~俺らもだけどな」
ニカッと笑ってそう言う直人を見てると、楽しそうだな~っと思っていた。
「屋台から買って人が少ない穴場知ってるから、そこに行こうか」
杉山君の提案で、屋台から焼きそばやイカ焼きやジュースとか買いこんで、道案内してもらって、少し高い場所へと向かった。
「結構歩いたな~稔?どうした?」
僕の方を見て、直人がそう言った。
下駄を履きなれてないから、鼻緒のところの皮膚が擦り剝けていた。
「増田君大丈夫?もしかして足痛い?」
「え?大丈夫だよ…」
そう笑って見せると、直人も杉山君も互いに顔を見合わせていた。
「そっかそっか~」
そう言いつつ、直人は杉山君から荷物を取り上げた。
「え?何?」
僕が驚いていると、杉山君が僕をお姫様抱っこした。
「えっ!?えっ!?ちょっと!」
「静かにしといてね。暴れられると流石にきついから」
杉山君は僕の顔を見ると、微笑んでいた。
(カッコいい…でも、この格好…)
「流石に浴衣でおんぶはできないよな~」
それでお姫様抱っこなのか…でも、それでも恥ずかしい…
人目は少ないとは言っても、男が男にお姫様抱っこって…
「稔はそんなに重くないから楽だろ?」
「うん、男子にしては軽いよね…」
恥ずかしくてたまらなかった…
「ごめんね…」
僕がそう言うと
「俺の首に捕まってくれる?そうするともっと楽になるから、寄り掛かってくれる?」
とても優しい声で、僕にそう言った。
「ありがとう…」
しばらく歩くと、少し座れる見晴らしのいい所まで出た。
切り株があって、そこに杉山君は座らせてくれた。
「ありがとう…迷惑かけてごめんね」
「増田君ちゃんと食べてる?軽かったけど…」
杉山君に、そんな事言われて驚いた。
「稔はちっさいから軽いんだよね~」
「何言ってんだよ!直人とは6cmしか変わらないじゃないか」
そうむくれて言うと、直人は笑っていた。
「170cm超えてたら、そんな小さくないよ…大丈夫」
「杉山に気を使わせてるじゃん!」
直人が笑うと、杉山君は「おいっ」と窘めてくれた。
そう言ってると、大きな音がして花火が上がった。
「わ~綺麗…」
思わずそう声を出すと、杉山君も直人も花火を見ていた。
「ね?ここは穴場だから人いないでしょ?ゆっくり見られるから…」
杉山君はそういいつつ、微笑んでくれた。
その優しい笑みを見ていると、綺麗だと感じた。




