最高の親友
遊園地から帰って、省吾の部屋の電気が付いたのは、30分程経ってからだった。
灯りが見えて、少しどこかホッとしていた。
別に省吾が帰らないなんて思ってた訳じゃないけど、窓から影が見えると心からよかったと思えた。
大好きな幼馴染を傷つけた事に、僕は少し罪悪感を感じていた。
嘘を言った訳じゃないけど、今までと違う関係になるのは、正直怖かった。
実際そうなってしまった訳だけど、僕がもし杉山君に告白なんかしたら、省吾とは違った感じで変化してしまう。
だからこそ、この気持ちを杉山君に気づかれるわけにはいかない。
省吾と僕の感じみたいに、気まずくなって杉山君と話せなくなるのは嫌だと思った。
今のままでも十分だ…これ以上を望む事はできない。
普通に話せるだけでも、すごい進歩だから嬉しい。
眺めていただけの存在だった杉山君と、今は話せるまでになった。
これも全部省吾のおかげでもある…ちょっと複雑な気持ちだけど…
でも、これって…省吾も同じだったのかも…
そう考えると、今が幸せなんだと思えた。
何があっても朝はやってくる…
いつものように学校へ向かう道、隣に省吾の姿はない。
少し時間をくれと言った省吾の言葉、僕自身も少し時間が欲しかった。
省吾を傷つけた事には変わりはない…
気持ちに答えられないという事が、こんなに辛い気持ちになるとは、正直思っていなかった。
ここまでの関係性じゃなかったら、普通に断ってそれで終わってたのかもしれない。
近ければ近い程、距離感が難しくなるという事が、今回の事で分かった。
それだけ省吾の勇気も、僕の中で痛みになっていた。
キャンバスに向かいながら、筆を進めていると、直人が声をかけてきた。
「なんだか…風景画にしては、えらく切ない絵だな」
そう言われて、覗き込んでいる直人の方を見た。
「切ないって何…?風景に切ないってあるの?」
思わず聞き返して、絵を見直した。
「ん~うまく言えないけど、タッチのせいなのかな…風景と思えない程見るこっちが切ない気持ちに何故かなるよ…」
僕の後ろから肩に手を置いて、肩越しから絵を見ていた。
「でも…俺は…この絵好きだな…」
そうボソッと直人は言うと、僕から離れて自分のキャンバスに向かった。
そんな直人を目で追うと、自分の絵に向き直った。
省吾の気持ちとか、考えて塗っていたから、それがこの絵に落とし込まれたって事なのか?
僕は筆を置いて、ため息をついた。
「何ため息ついてんの?絵が気に入らないの?」
直人にそう言われて、色々考えさせられたのはお前だよ!っとは言えず…
「言われてる意味がわかんなくて…ちょっと複雑だっただけ…」
そう返して、筆をとり続きを塗りだした。
絵というのは、描き手の心が入ってしまうから、今の僕の気持ちが表現されているって事だろうか?
僕にはその差異がわからなくて、筆を進めながら絵というのは、奥深いな…なんて思っていた。
その後は静かに絵を描き進めて、時間が遅くなってきたから帰る事にした。
随分日が落ちるのが、遅くなってきた。
「最近空が明るくなってきたよな…もうすぐ夏休みにもなるし、そうなったら余計教室から出たくなくなるな」
笑いながら言う直人に、僕は思わず言った。
「元々外に出ないじゃん僕たち…」
「そんな事ないぞ~俺はインドアもアウトドアもできるから~稔と違って!」
直人は手を広げながらおちゃらけて言うと
「たまには息抜きで遊びに行こうぜ!」
そういう直人に、僕は頷いていた。
「じゃあ週末デートすっか!」
直人はそう言うと、微笑んでいた。
「デートってなんだよ?男同士でさ」
そう笑って言うと、直人は優しい目で見ていた。
「やっと笑ったな!稔は笑っているのが似合うよ」
そっか…僕が元気なさ気に直人には映っていたのかもしれない…
直人の優しさに、僕は救われていた。
省吾に対する罪悪感が意外と大きいのだと、今更気づいた…
「直人…ありがとね…」
そう言うと
「さっ帰ろう!」
直人は僕の背中をバシッと叩いて、体で僕に軽く体当たりしてきた。
僕も軽く体当たりし返すと、2人で笑った。
直人が居てくれてよかった…本当にいい友達をもったと、僕は感謝していた。
僕なんかにこんな良いやつがいるのが少し不思議だったが、最初会ったころから割と人の懐に入るのがうまくて、一人でポツンとしていた僕に声をかけてくれたのも直人だった。
直人くらいなら、僕なんかとつるまなくてもやっていけるのに、いつでも誘ってくれた。
唯一無二の友達になって行った…
彼の何気ない優しさや、重い空気を作らないところとか、僕の安心する場所になっていった。
僕の周りには、省吾もそうだけど、直人も居て、本当に幸せなのだと思う。
直人は省吾とは違う…僕の心に踏み込むのがうまい。
だから…なんでも直人には言えた。
それに言わなくても、僕の考えている事を察して、先回りしてくる。
触れられたくない部分も、ずかずかと入ってくる所が最初は苦手だったけど、僕みたいなヤツにはそれくらいがちょうどいいのかもしれない。
言いたい事も言えない僕に、そっと手を差し伸べてくれる。
おせっかいと言えば聞こえは悪いけど、誰にでも分け隔てなく行動できる直人を心から尊敬している。
すぐに自分の殻に閉じこもってしまう僕に、すんなりと手を差し伸べてくれて、その手を思わず取りたくなるようにするのがうまい。
省吾にも甘えていたけど、それよりももっと甘えているのが直人だと思う。
直人を失うのは嫌だ…僕にここまで寄り添ってくれたのは、彼が初めてだったから…
これからもずっと傍に居たい…親友として直人の力になれるように、僕も強くならないといけないと心から思った。
直人の隣に立つのに恥ずかしくないように、彼の機微にも気づける事ができるように…
「直人…僕にできる事があれば言ってね…いつも甘えてばっかりだけど…僕も直人の支えになりたいよ…」
そう僕が言うと、直人は目を細めていた。
「稔の隣で、お前の笑顔が見えるのが、俺としては今は幸せかな」
僕は直人を見ながら、思わず噴き出した。
「直人って…なんでモテないかさっぱりわからないや…」
「何言ってんだ!俺は多分モテるよ!」
そう笑い合いながら、2人で歩いた。
初夏がすぐそこまでやってきていた…これから暑い夏がやってくる…
本当に暑い夏になるなんて、この時の僕は知る由もなかった。




