思わぬ行事
「稔~部活いこう」
直人はカバンを肩に背負って、僕を誘いにきた。
「うん」
「省吾先輩とはどうすんの?」
歩きながら言う直人に驚いて、周りを見回した。
「誰も俺らの会話なんて気にしないだろ」
直人にそう言われて、小さい声で返答した。
「省吾には本気だから考えてくれって言われた…今からその対象として見てくれって…」
「え?ガチ告白!?」
大きな声で言う直人の口を、手で覆った。
「ちょっと…大きな声出さないでっ!」
直人を引っ張りこむ様に、美術室へと押し込んだ。
「え?って事は…」
「だから絵は返してもらってない…」
僕がそう言うと、直人は大きく息をついた。
「マジかよ…省吾先輩…」
直人はどこか動揺している様に見えた。
「僕の気持ちは伝えたんだけど、それを上回る返答がそれだったんだよ…どうしたらいいんだろう…これからを見てくれって言われても…」
「それって、稔の気持ちは知ったままで、自分を恋愛対象で見ろって?」
コクリと頷くと、直人は頭をガシガシとかいた。
「そんなに僕の事を思って一緒に考えてくれるの?」
その優しさが嬉しくて、つい直人に抱き着いてしまった。
「ありがとうね!でもまあ…真剣に向き合おうと思ってる…あんな風に言われたらね…」
「そっか…がんばれよ」
頭をポンポンと直人はして、2人でハグして笑いあった。
—side菊地直人
俺、やべえ事してしまったのでは…?
杉山にスケッチブックの事を教えてしまって、なのに省吾先輩と稔は先輩の気持ちに寄りそう事になりそうで、杉山は稔のスケッチブック見たのだろうか…
けしかけた手前、どうしたらいいか分からなくなった。
実際は俺も稔の事が好きだ…だけど、気持ちを伝える気はない。
ずっと隣で稔の側に居たい…だから省吾先輩の気持ちはわかる。
でも稔の気持ちもわかっているからこそ、自分の気持ちを押し付ける気はない。
いつか終わってしまうかもしれない気持ちより、一緒に繋がっていられる立場を保ちたい。
稔の幸せが俺の幸せでもあるからだ…
本当は俺の事を見てくれるのが一番嬉しいけど、不安定な関係より強固な関係性でいい。
好きだからこそ、傍に居たい…ずっと…
—
最近4人で帰る事が増えたけど、省吾に対して男性として見てくれと言われてから、いい所も悪い所も見ているけど、やっぱり僕にとっては幼馴染からの域を出なくて、代わりに杉山君を知れば知るほど余計に意識していた。
2人と別れてから、省吾と歩いていると
「結構時間空いたと思うけど、考えてくれてる?俺の事…」
「うん…ちゃんと省吾の言うような感じで見てるよ…」
少し間があった時に、答えを言おうかと口を開いたその時に
「まだ答えは聞きたくない…もう少し…ちゃんと考えて欲しい…」
省吾の声は少し震えていた…僕の口が動いた事で何を言われるか察した様だった。
「な?」
と縋るような目で僕を見ていた…
でも…このままズルズルと先延ばしにしても結果が進展するとは、僕は到底思えなかった。
僕が瞼を伏せると、隣の省吾から張り詰めた空気を感じた。
「今度みんなで遊びに行かねえ?また4人でさ!その帰りに答え聞くわ…それでいい?」
省吾の気持ちを受け入れて、その提案を僕は了承した。
彼なりのケジメをつけたいと思っているのが伝わった…
その日までは、いつもの省吾で明るく優しいままだった。
当日を迎えて、僕も緊張していた。
省吾との事に、決着をつけるつもりだったから。
緊張しつつ家を出ると、省吾が待っていた。
一緒に駅まで向かう時に、普通に会話をしていた。
「今日は遊園地いっぱい楽しもうぜ」
そう言って笑う省吾に、僕も頷いた。
明日から僕たちの関係がどう変わるかなんて、今の自分には何も考えられなかった。
「遊園地なんて久しぶりだな~」
省吾は楽しそうに言うと
「中学校以来だね」
僕がそれに相槌をしていると、杉山君が聞いてきた。
「てことは…猿渡先輩と増田君は一緒に来たって事?」
「あぁ、そうだよ。2家族で来たのが最後かな」
省吾がそう言うと、直人も言った。
「家族と行くくらいで、友達と来るの初めてで楽しいですね~」
「俺も久しぶりですね…小学生以来かも…」
杉山君もそう言った。
「まずはジェットコースターからだな!」
僕の手を引いて、省吾は走り出した。
「ちょっと…」
引っ張られる感じで走ると、後ろから杉山くんと直人も着いてきていた。
ジェットコースターに乗るのは、僕と省吾、直人と杉山君が乗った。
僕はあまり前に乗りたくなかったけど、省吾の強引さは分かりきっていた。
恐ろしい速さに、振り落とされないように必死で安全バーにつかまっていた。
ジェットコースターが終着点まで着くと、僕の足は小鹿の様にプルプルと震えていた。
「相変わらずだな!稔…立ってるのがやっとだな」
笑いながら省吾が言うと、直人が僕の前でしゃがんだ。
「稔乗れよ」
「え…」
困惑していると、直人は急かす様に言った。
「早く乗れ!恥ずかしいだろ」
そう言われて、僕は直人の背中に抱き着いた。
「おんぶって小学生かよ!」
お腹を抱えて笑う省吾は、楽しそうだった。
「絶対許さない…」
思わず低く小さい声で言うと、直人は笑っていた。
「省吾先輩、稔恐ろしい事言ってますよ」
「恨まれるのはいつもの事だからさ」
省吾も楽しそうにそう言うと、こんな格好を杉山君に見せている事が急に恥ずかしくなった。




