彼との接点
僕はこの窓から眺める校庭が好きだ…
校庭が好きっていうのはちょっと違うか…
その校庭を走っている杉山健吾…彼を見ているのが好きなんだ。
筋肉質だけど引き締まった体…走るフォームがとても綺麗で、彼から目が離せなくて気がつくとペンが勝手に動いていた。
僕…増田稔は至って普通の高校2年生で、目立つ事はなく、容姿だって普通。
いわゆる陰キャっていう部類だと思う。
ひとつ誇れる物があるとすれば、絵が描けることくらいだ。
むしろ絵しか取柄が無いと言ってもいい…
陸上部の杉山君は、この美術部室からでも目を引くくらい輝いている。
最初に杉山君を見たのは、1年の頃だった。
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桜の花びらが舞い散る中、必死で走っている杉山君を見て、俺は一瞬で目を奪われてしまった。
気がつくと僕は、彼の絵を描いていた。
これはいわゆる一目ぼれってやつかもしれないと、気づいた時は動揺した。
今まで女の子に興味がなかった訳でもないし、かといって男に興味があった訳でもない。
だけど…あの瞬間、僕は杉山君の走る姿に目を奪われた。
ただ見ているだけの、淡いこの気持ちを、誰にも気づかれてはイケないと思っていたのに…
「稔~何?また杉山見てんの?」
僕の肩に顔を乗せて、楽しそうに話しかけてくるコイツは、親友の菊池直人。
見た目は金髪でチャラチャラしているが、僕が唯一杉山君の事を話しているヤツ…と、言っても僕からカムアウトした訳じゃなくて、察しのいいコイツにバレたっていうだけの事…
そんなに僕って分かりやすいんだろうか…
「シーッそんな大きな声で言うなよ!」
僕が周りを見回しながら言うと、直人は気にしてない様に言った。
「どうせ美術室に居るのは、俺とお前だけじゃん?」
確かに直人の言う様に、美術部というのは名ばかりで、幽霊部員しか居なかった。
まともに部活をしているのは僕と直人くらいで、先生すら覗きに来ないという、まさに幽霊部だった。
「だけど…もしもって事があるだろ?廊下に人が居たら聞こえるだろ!」
スケッチブックに鉛筆を走らせながら、直人を窘めていると
「あ~はいはい…悪かったよ!配慮がなくてぇ~」
直人は窓枠に腕をかけて、校庭を見ていた。
「でも実際の所…稔は今まで同じクラスでも無いし、接点なんてないじゃん?杉山のどこが好きなん?」
そんな事…恋するのに理由なんてあるのだろうか…
「ならさ…直人は好きになるのに理由ってあるの?」
そう僕が聞くと、直人は少し考えてから言った。
「あるじゃん…容姿が可愛いとか、しぐさが可愛いとか、性格がいいとか、髪の毛が綺麗だったから…とかさっ」
その回答を聞いて、僕はため息をついた。
「だろ?理由なんて他愛のないものなんだよ。どういう角度で言ったところで、説明できないと思うけど…」
「ならさ、逆に接点ないまま1年も稔は杉山が好きなんだよな?性格だって分かってないだろ?話したこともないんだし…俺みたいに杉山と同じクラスっていうならまだしもさ…」
そう言われると、なんとも言えない…
だけど杉山君と僕がどうにかなるとか、どうにかしたいとか、そんな風に考えた事はなかった。
「というか、別に告白とかする気ないし…それに男同士で付き合うとか無いだろ…僕はこうやって卒業まで杉山君が描ければそれでいいんだよ…」
僕がそう言うと、直人は不服そうな顔をしていた。
「あっそう…」
直人はそう言うと、僕のスケッチブックを取り上げると、窓から放りだした。
「おいっ!何すんだよ!」
急いで窓に駆け寄ると、窓から飛び出したスケッチブックは、何枚かヒラヒラと舞いながら下へと落ちて行った。
僕は焦って窓の下を見ると、散らばったスケッチが見えた。
「ふざけんなよっ!」
僕は直人を押しのけて、下へと降りた。
幸いな事にそこには誰も居なくて、急いでスケッチが散らばった紙を拾った。
ざっと周りを見渡すと、これ以上落ちてなさそうだったから、急いで美術室へと戻った。
直人は涼しい顔をして、スケッチをしていた。
「お前な!酷い事すんなよ!」
「なんだちゃんと拾えたのか?」
僕はイライラしながら、スケッチを1枚1枚調べた。
「あれ…?」
パラパラとめくりながら、確認していると1枚足りない事に気がついた。
「ん?どうしたんだ?」
「1枚足りない…」
それを聞いて、直人は急いで窓の下を覗いた。
キョロキョロと見回して、窓から身を乗り出していた。
落ちそうな感じに見えて、僕は焦って直人を引っ張って、窓から離した。
「おいっ!危ないだろ!」
勢いよく引っ張った為、直人は尻もちをついた。
「いっ…てっ!」
ちょっとバツが悪そうな顔をして、直人は言った。
「ごめん…だけど上から見まわした感じだと、無さそうだったんだけど…」
少しは悪いと思っている様で、子犬みたいに耳も尻尾も下がっている様な姿に、僕は思わず笑ってしまった。
「何笑ってんだよ…」
「反省してるみたいだから許すよ」
そう僕が言うと、二人で顔を見合わせて笑った。
「さっきも結構調べたのにな…生垣に挟まってるのかな?」
「俺が悪いし、手伝うよ」
「大丈夫だよ。だいたい2人で探してると目立ってバレそうだから…」
ん~っと考えた様な感じだったけど、僕が
「大丈夫だよ。もう少し探して無ければまた明日探すからさ。その時は手伝えよ?」
僕はそう言って、直人の髪の毛をくしゃくしゃと撫でると、僕を見てからごめんと祈る形にして、謝ってきた。
直人を帰した後、外に出て1枚足りないスケッチを探した。
垣根の所もくまなく探したけど、全然見つからないまま、日が暮れてしまった。
外灯の光と携帯のライトを頼りに探していると、後ろから声をかけられた。
「こんな時間に何してるんですか?」
振り返ると、そこには僕の想い人の杉山が居た。
「えっ…ちょっと探し物を…」
「何を探しているんですか?俺も手伝いますよ」
杉山君が描かれている紙を、本人に見せるわけにはいかない…
「あ…大丈夫です。もう暗くなってきたので、僕も帰りますから」
杉山君は少し間をあけてから
「そう?でも、何かあったら言ってくれれば手伝いますよ」
「ありがとうございます…」
(杉山君ってなんて優しいんだろう…)
「じゃあ、俺はこれで…」
「ありがとうございました」
杉山君は踵を返すと、その場から離れて行った。
(びっくりした~まさか本人が現れるなんて思ってもなかった)
今日はもう探せないから、明日にしようと僕も帰る事にした。
でも、こんなに探して無いって事になると、誰かに拾われたのかな?
大きなため息をついて、僕は帰路についたのだった。




