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第8章-1 拓雄達の決断 SIDE A-①:行った場合

 和可菜と打ち合わせをした通り、営業一課の染岡に事情を説明して彼から判田に連絡を取って貰い、翌週の日曜日に会う約束を取り付けた。平日の業務中ではお互い時間が取れず、また同じく仕事中の和可菜を同行させるには土日しかなかったからだ。

 ちなみに式場でのドレス選びなどは延期し、本契約と内金の支払いだけは待ち合わせの時間までに済ませることとなった。

 染岡には警察からの不必要な疑いを晴らす為、目撃者である拓雄が直接目で見て他の容疑者を確認したいからと説明した。協力しないのなら、今後リュミエールへの同行回数を減らさざるを得ないかもと匂わし、渋々了承させたのである。

 全く見知らぬ相手から被害に遭った歩について話を聞きたいと告げられた判田は、当初警戒していたようだ。

 しかし彼女と交流のあった友人の和可菜を同席させる、と言ったからだろう。驚きながらも興味を持ったらしく、面会を了承してくれたのだ。ただ拓雄が目撃者であり近くにいる点などは伏せておいた。

 約束の時間は十一時で、指定されたのは彼の会社近くにある喫茶店だった。

 少し早めに着いた拓雄と和可菜が先に中へ入ると、日曜だからか客は少なかった。その為一番奥と斜め手前の席を確保できた。そこなら余程大きな声を出さない限り店員を含め、他人に会話を聞かれる心配はないと判断したからだ。また周囲からやや死角になっていた点も好都合だった。

 遅れて染岡が到着し奥の席に座らせ、手前に変装した拓雄達が陣取った。店員が来て二人は注文したが、染岡の飲み物は待ち人が来てからと告げていたところ、丁度判田らしき男性が店に入って来た。手に目印となる新聞を持っていたからすぐに分かった。しかも小ぶりのビジネスリュックを背負っていた為、思わず和可菜と目を合わせた。

 指定された歩の書いた畑外山走名義の作品を染岡がテーブルに置いていたので、判田も気付いたようだ。もちろん彼が勤めるキラメキ出版が発行したものである。

 彼は軽く頭を下げつつ近づき、染岡の前の席に座り横の席へ荷物を置き、小声で言った。

「染岡さん、だったね。あなたも走の件で警察に疑われたとは災難だったな」

 ぶっきらぼうな口調に染岡はイラっとしていたようだが冷静を装い、事前打ち合わせした通り先に飲み物を決めさせ、二人はアイスコーヒーを頼んでいた。店員が去って行くのを確認してから染岡が頭を下げた。

「お忙しい所、有難う御座います。会社近くにされたのは、休日出勤されているからですね」

「ああ、まあ、一番忙しい時期は過ぎたけど、ちょこちょこ雑用があるからな。ところで走の父親の会社と取引があるようだが、奴の性癖については知っているのか」

「はい。存じています。前任者がそれを暴いたせいで、当社とトラブルになりましたから」

 それは本当だが、彼にアリバイがあると知らない判田は頷いた。

「なるほど。だから警察に疑われている訳か。それより、あの女と付き合いがあった後田って女はどこだ。多分、以前一度だけ会った記憶があるんだが」

「おかしいですね。先程メールがありましたから、もうすぐ着くと思います。ところで今日お時間を頂いたのは、私の無実を証明する為、他に疑われている人と会いたかったからです」

 表情が変わり、判田の眉間に皺が寄った。

「ほう。俺が疑われていると誰から聞いた。まさか警察だなんて言わないよな」

「あなたを含め、他の編集者との間でもトラブルを抱えている話は、被害者の父親から色々伺っていますから。あとはガンマプラム社の中東さんと、辻脇編集長ですよね」

 実際は拓雄が与えた情報であり、彼は全く知らなかった話だ。それでも判田は信じた。

「なるほど。走と交流があった女を同席させると言って、俺に面談を申し込んだ本当の理由はそれか。しかし警察がまず疑うのはかつて付き合っていた女だ。痴話喧嘩か何かで揉めて突き落とされたのだろう。後田って女は、あんたの同僚と婚約しているんだろ。つまりその女がバイで、それをばらされたくなかったから揉めた。俺はそう思っている」

 判田がそう口にする可能性を考え、この点も事前に伝えていた。警察からそう疑われているが嘘だと伝えていたので、染岡は平然と答えた。

「らしいですね。彼女からもそう聞きました。しかし私は被害者と面識がなく、後田さんとの関係も今回の事件の後に知ったので、突き落とす理由がありません。また彼女が同性愛者だとの情報は間違っています。今日はその点をはっきりさせる予定だったのですが」

「だから自分達が無罪だと証明する為に、真犯人を突き止めようとしているのか。ご苦労さん。だが俺は違う。もし後田という女が違うなら、次に怪しいのは中東だと俺は睨んでいる」

「どうしてそう思うのですか」

「中東って女は見た目がボーイッシュで凛々(りり)しいタイプだ。多分あいつも同性愛者だと思うな。印税の件だけじゃなく、痴情のもつれがあったとしてもおかしくない」

「そうなんですか?」

「いや、カミングアウトしたとは聞いていないから確かな証拠はないが、警察の聴取を何度も受けているのは間違いない。そういう噂はこっちにも入って来るから」

「だけど判田さんも警察から事情聴取されていますよね。疑いが晴れていないのは、揉めていただけでなくアリバイがなかったからじゃありませんか」

「おい。そっちから会いたいとお願いしてきたのだろう。口の利き方に気を付けろ」

 咎めるような目つきと口調になった彼に、染岡は慌てて頭を下げた。

「す、すみません。そんなつもりでは。私がそうだったので、同じだろうと思っただけです」

 下手に出たからか彼は機嫌を直したらしく、頭を搔きながら言った。

「確かに、な。事件が起こった時間帯、家に一人でいたからよ。マンションに防犯カメラもないし、いつもなら会社で仕事をしているのにたまたま早く帰っただけでこれだ」

 彼はさらに愚痴り始めた。揉めていたのも歩が悪いのだと主張し、そんな程度で突き落とすような馬鹿な真似はしないとぼやいた。そんな長々とした話を三人で静かに黙ったまま頷いていると、彼が苛つき始めた。

「ところで後田って女はいつ来る。もういい加減ついても良い頃だろう」

 これ以上誤魔化せないと感じたのだろう。染岡は首を傾げて言った。

「もしかすると、すっぽかされたのかもしれません。または別の場所で覗いていた可能性もあります。というのも、彼女があなたを呼び出そうと最初に言いだしたからです。あの事件には目撃者がいたと、最近耳にしました。しかも現場から逃げていったのは、どうやら男性だと証言しているようです。だから男性の容疑者と会い、反応を探る予定でした」

「おい、それは本当か。そんな話、俺は知らないぞ。警察は何も言っていなかった。だったらどうして、後田って女や中東まで疑われているんだ」

「念の為、じゃないですか。だから警察は、主に私やあなたのような男性を疑っているはずです。それで他の疑われている男性に会い、話を聞きたいと考えました。あなたでもなく後田さんや中東さんでもないなら、もう一人が怪しいですね。どんな人か、ご存知ですか」

 まだ戸惑いを隠せずにいる彼だったが、ポツポツと話しだした。

「ああ、知っているよ。辻脇は会社の上でよくいる、世渡りの上手い奴だ。上司や売れている作家には腰が低いのに、部下や若い作家には厳しい態度を取るタイプさ」

「その人もアリバイが無かったようですね」

「らしい。しかし辻脇が印税で揉めていたあの女を個別で、しかも夜遅く外に呼び出すかな。そんな奴には思えないが」

「どうしてそう思うのですか」

「さっきも言ったように、辻脇は要領がいい。印税の件で揉めていたのは事実だが、一番悪いのは中東だよ。上司としてその責任を取りたくないから、他所の部署に罪を擦り付けようとしたが、それを走に見透かされて巻き込まれたに過ぎない。だから決して矢面に立とうとしない辻脇は、個人的に呼び出し解決しようなんてしないはずだ」

「何か他に弱みを握られていたのかもしれませんよ」

 染岡がそう告げると、彼は首を傾げながら言った。

「そうかもしれないが、それでも腑に落ちないな。おい。目撃者がいて、犯人は男だったと言っているのは本当か」

「間違いありません」

「そいつが誰かは知っているのか。もしかして、その後田って女か。あんたに俺を呼び出させ、どこかで事件当夜に見た男と似ているかを確認するつもりだったのか」

「そ、それはどうか知りませんが、もしかするとそうなのかもしれません。しかしその場合、現れないで何も連絡がないのは、あなたが違ったからじゃないですかね」

 当たらずとも遠からずの憶測に、染岡はドキリとしたようだが何とか上手く答えた。

「だったらいいが。他に俺達やあんた達以外で、疑われている奴らはいないのか」

「それは確認できていません。いるかもしれませんし、いないのかもしれません」

「そうか。ここ最近のあの女の精神状態なら、他にもいそうだけどな。仕事関係だったら俺の耳にも入ってくるだろうから、そっちじゃないのかもしれない」

「他というのは、例えば人間関係ですか」

「ああ。後田って女のような友人関係、家族関係なんかが一番ありそうだろう。しかし男だとすれば単純な痴情のもつれじゃないな。過去付き合っていた女の彼氏か、その相談相手の男という可能性もある。そっちで揉めていた奴かもしれない」

 余計な話をし始め、今度は拓雄が焦った。和可菜が歩の友人ではなく、警察が疑うように本当は交際相手かもしれない、と染岡が思い始めたら面倒だ。

 だが彼は、事前の打ち合わせ通りに話を進めた。

「私が聞く限りは、出版関係のあなた達と私や後田さんだけです。ちなみに後田さんの婚約者である私の同僚は、あの夜のアリバイが証明されているので今の話には当て嵌りません」

「あんたが気付いていないだけかもしれないだろう。警察が隠している可能性は否定できないぞ。そもそも俺は目撃者がいるなんて聞かされなかったからな」

「そうかもしれませんが、アリバイも無い疑わしい人物がそんなにいるでしょうか」

 判田は反論できず黙った。注文したアイスコーヒーを飲み干し、何か考えているようだ。彼なりに誰が犯人なのかを推し測っているのかもしれない。ただ、まさか直ぐ近くにあの現場で揉めていた人物がいるなど想像していないと思われた。

 そこで本来の作戦を実行する為、染岡が口火を切った。

「どうやら判田さんが犯人ではなさそうですね。ところで辻脇さんと連絡は取れますか。もしよければご紹介頂けると助かります。今日辺り、休日出勤しているといいのですが」

「俺みたいに会って反応を探るつもりか。素人がそんな真似をして相手がボロを出すとは思えないが。まあ、俺を犯人じゃないというあんたの判断は間違っていないけどな」

「ではお願いできますか」

「連絡か。この月末だとどうだろう。出版社にとって時期的に五月はそう忙しくない」

「でも判田さんは休日出勤されていますよね。同じようにそう忙しく無くても、溜まっている雑用を片付けにきているかもしれないでしょう」

「連絡して会社にいるようだったら、この後にでも会うつもりか」

「できればそうしたいと思っています。平日だと時間の調整が難しいですから」

 辻脇が勤めるガンマプラス社はここから近い。拓雄が勤める損保会社も同じ業界同士で比較的近い場所に立っているが、出版社も同様だった。よってこちらの申し出は自然だった。

「最初からそのつもりで俺とアポを取ったのか。もしかして向こうにも連絡を既に取っているんじゃないだろうな」

「いえ、それはまだです」

 正直に彼がそう答えると、判田は顔を歪ませた。

「ということは、俺の方が怪しいと睨んでいた訳か」

 ここで彼は慌てて首を振った。

「いえ、たまたまです」

「本当か。まあ嘘でも会って疑いが晴れたならいいが。出版関係は月半ばから月末にかけて忙しい。俺もだが、先週辺りだとかなりの確率で休日出勤している。ただ今日はどうかな」

「連絡して頂けますか」

「一応かけては見るよ。俺も誰が犯人なのかは気になるし、早く片付いて欲しい。その代わり、辻脇と会ってどういう話をしたか、どんな情報を得られたかは後で俺に教えろよ」

「分かりました。では携帯の連絡先を教えて頂けますか」

「駄目だ。そんなものは教えられない。今回と同じく、平日の午後に会社へかけてくれ。席を外していた場合は、折り返し電話するからそっちの携帯番号を教えてくれればいい」

「分かりました。そうします」

「じゃあ、ちょっと待っていろよ」

 判田はそう言ってスマホを取り出し、席を立ち店外に出て行った。中で話すのはマナー違反だと思ったのだろう。ぶっきらぼうな彼だったが、幸いそうした常識は備えているようだ。

 店の窓からスマホを耳に当てている姿が見えたけれど、途中でこちらの視界から外れた。

「今だ」

 拓雄の合図で和可菜は腰を上げ、彼が座っていた席に座り直した。その間、拓雄は染岡を立たせその背後に立ち、窓の外からこちらの様子が見えないよう壁になった。

 彼にはもし判田が手荷物を持っていたら、何か事件に繋がる証拠が見つかるかもしれないので調べたいとだけ告げている。拓雄の代わりの和可菜がその役目を負うのは、目撃者である拓雄の指紋が、容疑者の持ち物から検出されるような事態がもし起これば厄介だからと説明していた。その間、相手に見つからないよう手伝ってくれともお願いしておいたのだ。

「どうだった。目撃した相手か」

 染岡の質問に頷いた。

「似ている気がします。それにしても上手く話を進めましたね。有難う御座います」

 そう雑談している間に和可菜は手にハンカチを持ち、指紋がつかないよう気を付けながら判田のバッグのファスナーを開け、同じく取り出したスマホをその中に押し込んでいた。 

 チラリと後ろを向くと、その中身は大量の印刷物の他に細々(こまごま)としたものが乱雑に入っていた。これなら中に紛れても直ぐには発見できないかもしれない、とほくそ笑む。

 急いで元に戻し、彼女は素早く席へと座り直す。拓雄も染岡と一緒にそれぞれの席に戻り、腰を下ろした。そこで和可菜と二人でささやき合った。

「上手くいったな」

「バッグを持っていたから本当に助かった」

「もし何も持っていなかったら、出た後をつけていかなきゃならなかったところだ」

 二人は事前に打ち合わせし、判田を席から外させその間に持ち物に歩のスマホを忍ばせる作戦を立てていた。もしそれが駄目なら自宅の部屋を特定し、後日どうにかして部屋の中に入り、スマホを隠すつもりでいたのだ。

 アリバイのない判田のマンションには防犯カメラがないと確信を持っていたし、先程の話で一人暮らしだと分かった。それならなおさら都合がいい。

 拓雄にも心当たりのあるケースだが、例えばゴミを捨てに行く時や近くのコンビニ行くなどちょっとした外出をする際、ドアの鍵をかけないでいる場合がたまにある。その隙を狙い忍び込むしかない。そう結論付けていたのだ。

 しかしそうなると、一日中彼を張り込んで行動パターンを把握しなければ、実行は難しい。最悪の場合、十数日以上かかる恐れさえあった。それでも決定的な証拠を警察に発見させるにはそれしかない、と考えていたのである。

 しかし勤め人の場合、会社に出社するなら何らかの手荷物を必ず持っているだろうと期待していたが、その通りだった為に助かった。これで後は早めに警察へ連絡し、このスマホを見つけて貰うしかない。

 一仕事を終わらせ、ホッと一息つき温くなったアイスコーヒーをようやく口にした時、判田が戻って来た。しかしその表情は険しかった。

「駄目でしたか」

 染岡がそう尋ねると彼は頷いた。

「ああ。今日は出社していなかった。それで個人的に知っている携帯へかけたが、あんたと会う理由がないって断られたよ」

「そうですか。残念です」

「しかしあれは痛い腹を探られたくないって感じじゃなく、警察の聴取だけでもうんざりしているのに、自分に無関係な事件の話なんてしたくないという口振りだったな」

「そうなると判田さんが言ったように、辻脇さんは無実の可能性が高いってことですか」

「そうだと思うよ。あと彼も警察から、あの事件に目撃者がいたとは聞いていないようだ。犯人が男だったという話も知らなかった。あんたが言ったのは本当なのか」

「本当ですよ。疑うのなら、警察の人に聞いてみればわかります。もしかすると教えてくれないかも知れませんので、私から聞いたと伝えたら間違いないはずです」

「分かった。そこまで言うのなら信じよう。こっちからわざわざ連絡して確認する気はないが、また事情を聞きに来たらそう言ってみる」

「そうして下さい。今日はお時間を頂き有難う御座いました。辻脇さんについては、また日を改めて私から連絡してみます」

「そうしてくれ」

 立ったままだった彼は、席に置かれた自分のバッグを手に取った。そこで置かれた伝票を掴んだ判田が言った。

「呼び出したのは私ですから、こちらで支払っておきます」

「そうか。じゃあ、俺はこれで」

 最初から(おご)らせる気でいたらしい彼は、そのまま店を出て行った。その背中を見送った後、二人で染岡の正面に移動し座り直して拓雄が呟いた。

「私達もしばらくしたら出ましょう。染岡さん、今日は有難う御座いました」

「あれで良かったのか。警察にはこのことを言うのか」

「十分、助かりました。でも警察にはまだ言いません。染岡さんも黙っていてください」

「どうしてだ。似ていたんだろう」

「夜遅く、しっかり見た訳じゃないので確証はありません。ただ今後必要以上に警察が私達を疑い続けるようなら、今日の切り札を使います。それまで言うつもりはありません」

「そうなのか。まあ、綿貫がそういうのなら、俺はどっちでもいいが。ところで持ち物の方はどうだった。何か出ましたか」

 和可菜がその質問に答えた。

「いえ、残念ながら。お手数をおかけしました。ご協力有難う御座いました」

 そうして三人で店を後にし、染岡と別れた拓雄達は事前に目を付けていた近くの公園にある公衆電話を使い、警察へと電話をかけた。ボイスチェンジャーを使って密告電話をかけたのだ。事件の犯人は判田であり、彼がその証拠を未だ持っているとの内容である。

 半信半疑でも、警察は何らかの動きをみせるはずだ。そこにあのスマホを発見すれば、彼への疑いは間違いなく深まるだろう。上手くいけば逮捕に繋がるかもしれない。

 世の中には思っているより、冤罪で捕まる人は存在する。警察は何よりも犯人を逮捕し、事件を終わらせることに重きを置いているからだ。その体質は長きに渡って変わらない。そう考え立てた計画は、これでひとまず終わった。

 もし判田が逮捕されずとも、スマホを手放せただけでも上出来だ。上手く事が運んで警察から連絡があり面通しされたら、判田があの時逃げた人物に似ていると証言すればいい。

 例え先に判田がスマホの存在に気付き警察へ届けても、指紋は綺麗に拭きとっている為、和可菜が彼のバッグに隠した証拠は何も残っていない。問い詰められても、これまでと同様に嘘をつき続ければ、逮捕まではされないだろう。

 一番問題なのは、歩の意識が戻った時だ。その際、彼女が何というかである。それだけは拓雄達に出来る事など何もない。

 ただ和可菜は、拓雄と一緒にいたと話しても、突き落とされたとまでは言わないはずだと言った。自分で足を滑らせたのならそういうはずとの言葉を、今は信じるしかない。

 これで最悪の事態は避けられた。そう拓雄は自分に言い聞かせるしかなかった。

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