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第5章-3 SIDE B-②:行かなかった場合

 DMの送り主の正体が谷内田歩だと阿川から聞かされ、さらに彼女を突き落とした犯人かと疑われ、冷静さを失っていた拓雄に更なる追い打ちの言葉が投げかけられた。

「事件当日の夜、綿貫さんは電話で後田さんとDMの件を始めてされたと言いましたが、その彼女が被害者の谷内田歩さんと交友関係があったことはご存知ありませんでしたか」

「は? え?」

 思わず気の抜けた反応をしたからだろう。彼は頷いて話を続けた。

「ご存じなかったようですね。この人ですが、どこかで会ったこともありませんか」

 横にいた久利がタブレットを取り出し、画面をこちらに向けた。そこで初めて被害者の顔を知った。

 これが噂になっていた谷内田社長の娘なのか。確かに髪型がショートカットで顔つきが男っぽく、同性愛者だと言われたら納得できる容姿だと思った。

 しかしそんな人が何故和可菜と交流があったのか分からない。彼女とデート等で外出した際も、見かけたり偶然会って紹介されたりした記憶はなかった為、首を振って答えた。

「ありません」

「そうですか。黙っていて申し訳ありません。実をいえば、後田さんには既にお話を伺っています。被害者とトラブルがあった人はいないか、交友関係を洗う中で彼女の名前が挙がったものですから。お聞きになっていませんか」

「聞いていません。先週の土曜日に会ってから、今週は電話でも話していないので」

「なるほど。私達とは別の刑事ですが、後田さんに話を伺ったのは事件から四日ほど経った火曜日でして。婚約者がいるとの話は伺っていましたけど、それがあなただとまでこちらもつい先ほどお伺いするまで把握していませんでした。ただ被害者を婚約者に紹介したかと伺ったところ、否定されています。あなたの供述と矛盾はしていませんね。ですがあなたのアカウントを唯一知っていたのが後田さんだったとなれば、被害者は彼女を通じて情報を得ていたと考えられます」

「そういえば金曜の夜、彼女にDMが送られてきたと教えた際、言っていました。誰かがスマホを黙って覗いたと思う。ある程度絞られるし、かもしれないと思う人がいるって」

「彼女には、心当たりがあったのですね」

「はい。文面からして彼女の周辺にいる人じゃないかと私が言った時、彼女は肯定していました。私との婚約を妬んだ人の仕業じゃないかとも話していたのです」

「ほう。それは何故ですか」

「そ、それは、あの」

 言い難かったが、警察が調べればいずれ分かると思い、彼女の境遇や拓雄との経済格差を説明した。話を聞いていた阿川達は納得したらしい。深く頷いて言った。

「つまり被害者は後田さんが婚約をしたと聞き、相手があなただと知って嫉妬心を抱き、彼女のスマホを覗き見るかして連絡先やアカウントを知った可能性があると言うのですね」

「はい。彼女は誰にも教えていないと断言していました。私は信じています。だってサッカーとミステリーの話しかしないアカウントを、わざわざ教える必要なんてないでしょう」

「分かりました。この件は別途、こちらからも後田さんに確認を取ります。ところでDMに書かれていた、公にされては困る後田さんの秘密が何か、思い当たることはありますか」

「ありません」

「本人と話したんですよね。聞かなかったのですか」

「聞けませんよ。わざわざ問い詰める真似なんてしたくないですから」

 気になってはいたが、偽らざる本音だ。

「ただ後田さんは警察の聴取や被害者の友人だったと、何故告げていないのでしょうか」

「知りませんよ。DMの送り主が谷内田社長の娘さんだと聞いていたら、教えてくれたはずです。でも私の知らない彼女の友人が事件にあっただけなら、わざわざ言う必要なんてないでしょう。それに明日会う予定なので、その時話そうと思っていたかもしれませんし」

「そうかもしれませんね。すみません。再度お伺いしますが先週の金曜日の夜、後田さんと電話で話されたのは十一時過ぎとおっしゃいましたよね。いつもそんなに遅いのですか」

「いつもではありません。普段はもう少し早いです。だから先程言ったように、帰ってきてくつろぎ始めたのが九時半過ぎでしたから、電話しようと思いました。でも指定された十時というのが気になり、その時間が過ぎてから彼女に話したい件があるとメールを送りました。でもなかなか既読にならなかったので、本を読みながら待っていたんです。それでも気になって電話もしましたが、留守電になったので切りました。メールを見た彼女からかかって来たのが、十一時過ぎだっただけです」

「ほう。綿貫さんから連絡を入れて、一時間近く経ってから折り返しの電話があったのですね。どうしてそんなに遅かったのでしょう」

「お風呂に入っていたから、気付くのが遅れたと言っていました」

 すると彼らは驚いたように、互いの顔を見合わせた。久利が手帳を開いて内容を確かめ、その上で阿川に何か囁くと彼は軽く頷いていた。その様子が気になり尋ねた。

「どうしました。何かおかしなことを言いましたか」

「まあ、少し。他の刑事が彼女にあの日の夜、何をしていたか尋ねた所、少し街をぶらついていたらしく、帰宅したのは十一時少し前だったと証言したようです。おかしいですね。お風呂に入っている時間などなかったはずですが」

 思わず目を丸くした。刑事達が間違っているとは思えない。ということは、彼女があの夜拓雄に嘘をついたのか。しかも外を出歩いていたのなら、確かなアリバイがないことになる。

 二人の先程の態度は和可菜に強い疑いを持ったからだと気づき、慌てて言い(つくろ)った。

「いや、私にそう言ったのは、返事が遅れた理由を言い難かっただけでしょう。だからつい誤魔化しただけだと思います。深い意味はありませんよ。お二人にもありませんか、そういうことって。彼女は私の婚約相手ですよ。その程度の軽い嘘くらいは言うでしょう」

「どちらにしても、彼女に事件当夜のアリバイがないことは明らかのようですね」

「ちょ、ちょっと待って下さい。和可菜が谷内田歩さんを突き落としたというんですか。彼女にそんな真似など出来るとは思えません。それにどんな理由があると言うんです」

「公にされたくない秘密を、あなたに告げられたくないから口封じしたのかもしれません」

「そんな訳ないでしょう。じゃあ聞きますが、その秘密とやらは何ですか。警察は知っているんですか。人を階段から突き落として重体に陥らせるほど、隠したいことってなんですか」

「もちろん本人に確認しますし、聞き込みして何があったかはこれから調べます」

「待って下さい。他の誰かと揉めてはいなかったのですか。あんな脅迫めいたDMを送るような人です。絶対別件でもトラブルを抱えていたに違いありません。そう思いませんか」

 阿川は無言で首を傾げていたが、久利はやや表情を変えた。それを見て図星だと感じた拓雄は指摘した。

「ほら。やっぱり何かあるようですね。どんな種類のいざこざを背負い込んでいたか知りませんが、そっちの捜査をしっかりして下さいよ。私や和可菜を疑うなんて時間の無駄です。それとも警察というのは、そんな一方的な決めつけで捜査しているんですか」

「決してそんなことはありません。事件か事故かを含め、様々な角度から捜査しています」

「本当ですか。じゃあ一体どんな捜査をしているんですか。財布やスマホが残されていたから、金銭目的の犯行では無さそうだと染岡から聞きました。それに先程までの話しだと、誰かに突き落とされたのは確かではないのですか」

「いえ、目撃証言といってもはっきりしませんし、本当に突き落とされたかどうか定かではありません。それが一人なのかどんな人かもはっきりしていません」

「でも揉めていた人はいるはずでしょう。そっちの人達のアリバイはどうなんですか。今、容疑者としてどれだけの人の名前が挙がっているんですか。詳細は言えなくても、それ位は教えてくれたっていいでしょう」

「申し訳ありませんが、捜査についてはお伝え出来ないんですよ」

 ドラマや小説でおなじみの台詞を、現実で耳にするとは思わなかった。彼らの頑なな態度をみて不快に感じる。

 その一方で、拓雄への疑惑は薄らいだ気もして、やや安堵した。だからか、それまで困惑していた頭の中の(もや)が少しずつ晴れ始め、疑問が湧いてきた。

 彼らは被害者のスマホからアカウントの存在を知り、DMを送信していた事実を突き止めたと言った。それは理解できる。事件から一週間経過し拓雄の元に来たのも、その分析に時間がかかったからに違いない。

 しかしDMの送付先を調べるとなれば、そんな短期間で突き止められるものだろうか。誹謗中傷などされた場合、裁判所に申し立てて開示請求しアカウント主を特定する事は可能だ。最近その期間が短縮されたと聞いている。

 それでも一週間は早すぎはしないか。殺人未遂事件の可能性もある為、恐らく捜査令状は取れたのだろうか。だから早期にできたのかもしれない。

 ただ和可菜への事情聴取は事件から四日後だと言った。つまりDMの送り主に心当たりがあるか、警察は彼女から聞き出した可能性もある。いや、それならもっと早く拓雄の元を訪れてもおかしくない。

 第一、和可菜が今回の件で何も言わなかったのは何故か。阿川との会話から、警察に口封じされたようには思えなかった。違う。それも彼らによるフェイクかもしれない。

 ほんの少し前までは、拓雄自身が身に覚えのない事件の容疑者扱いを受け恐怖を抱いていた。下手をすれば、結婚が駄目になってしまうとまで危惧した。

 しかし今は状況が大きく異なる。和可菜の言動に対する疑惑と不信感により、別の意味でこの先の行く末に不安を感じていた。

 このままでは、結婚相手として彼女を選んでいいのか、自信がなくなってしまう。拓雄を理解してくれるのは彼女だけだ。これがラストチャンスとの予見は、決して疑う余地などない。そう確信していたのに。

 激しく落ち込む拓雄を見て、これ以上話は聞き出せないと思ったのか、阿川が言った。

「今日はこれで失礼致します。ところで本当にスマホをお預かりしても宜しいですか」

 ハッとした。先程は頭に血が上り、疑われるくらいなら警察が分析できるようスマホを渡すと言ったが、なければ和可菜との連絡が取りにくくなる。

「いつ返却されますか。今日一日程度なら大丈夫ですが。それ以上かかるなら困ります」

「位置情報の確認と送信履歴だけなら、消去したりしていない限りそう時間はかからないと思います。ただ今日中にお返しできるかはお約束できかねます」

「削除はしていませんし、検索履歴などで見られたら困るものもありません。とにかく時間がかかるようなら、一旦お返し頂けますか。そうでなければお渡しできません」

「分かりました。一度持ち帰り確認します。ではスマホ以外でどう連絡をすればいいですか」

「パソコンで見られるメールアドレスを言いますから、そちらに返事を下さい。そうですね。今日夕方五時頃に一度メールを下さい。その後どうするか、そこでやり取りをしませんか」

「分かりました。ではお預かりします」

 預かり証なるものにサインをして渡すと、彼らは足早に去って行った。

 その後姿を見送った拓雄は、部屋に戻って早速パソコンを立ち上げ、メールを開く。パソコンにもインストールしている通話アプリで、和可菜に連絡を入れる為だ。

 まず警察にスマホを渡してしまった為、少なくとも今日の夜までは連絡がつかないとの本題をメールに書き込む。次にそうなった経緯を説明しようとキーボードを打ち始めた。

 だが途中で悩み手が止まる。八日前の事件について事情を聴きに警察が来た件まではいい。DMの送り主がその被害者で、呼び出された日時から拓雄に疑いがかけられた為だと分かれば理解できるだろう。

 問題はその先だ。どこまで言及すればいいのか。被害者が和可菜の友人で、拓雄より先に彼女も警察から事情聴取された事実に触れるべきか、と迷う。

 思案した結果、取り敢えず後者の詳しい事情を除いてまずは送信した。明日は式の打ち合わせをする予定を入れており、連絡が取れなくては困る。今日は一日、ほぼ家にいるつもりだから、パソコンでのやり取りが可能だ。メールを見れば何か反応があるだろう。

 返事が来るまで少し時間がかかると思い、刑事達が来る前にやろうと思っていた掃除をする為に席を立つ。しかしフローリングモップで床を拭き始め間もなくだった。パソコンからメールの着信音が聞こえて来たのである。

 モップを壁に立てかけ画面を覗く。送信元は和可菜と分かった。その為椅子に座り文面を読むと、そこにはこう書かれていた。

 ― ごめんなさい。拓雄さんのところにも警察が来たのね。実は私も火曜日に事情聴取を受けた。言ってなかったけど、谷内田歩は幼馴染の友達だから。あのDMを送ったのは彼女だったのね。彼女は拓雄との結婚を強く反対していたから、呼び出して話をするつもりだったのかも。だとしたら、不快な思いをさせたのは私のせいです。本当にごめんなさい ―

 警察と話した件や谷内田歩と友人関係だった点を、彼女から告げられたのはホッとした。

 DMとアカウントを見せられた和可菜が警察に教えたようだ。思ったより早く拓雄に辿り着いた理由がここで分かる。

 しかしDMを送られた理由が、二人の結婚に反対していたからだと知り驚く。和可菜が以前言っていた、かもしれないと思う人は彼女だったのだろう。

 そこで疑問を抱く。一体、何故拓雄との結婚を強く反対していたのか。面識はなく会話を交わした覚えもない。そうなると判断材料は和可菜から得た情報だけのはずだ。

 もしかすると拓雄の癖や事情をばらしたのか。そんなはずはない。拓雄の嫌がる個人的な情報を、彼女が他人に話すとは思えない。そう信じたかった。

 けれど和可菜がアカウントを教えたのかも、と想像し悪寒が走った。もしそうなら理解がある振りをしつつ、内心では馬鹿にしていた可能性も考えられる。それでもプロポーズを受けたのは、拓雄が社会的地位や経済的に恵まれて資産を持っていたからかもしれない。

 そんな打算的な考えで結婚するのは間違っている、と友人である歩が考えても不思議では無かった。あのDMに書かれた公に出来ない秘密というのは、そのことかもしれない。

 疑心暗鬼に陥った拓雄は、どう返信したらいいのか迷った。疑惑を晴らす為、その点を深く追及するべきか。それとも和可菜が何か言ってくるまで待つか。

 余り長く既読スルーをしていたら、彼女は不審に思うだろう。それでもいいと割り切るか。だが今放置しても、明日には顔を合わさなければならない。しかも式の打ち合わせをしなければいけないのだ。こんな気持ちのまま、人生の一大事を決められる訳がない。

 拓雄がそう思い悩んでいると、続けてメールが届いた。そこには

 ― 明日の打ち合わせはキャンセルしましょう。こんな状況で結婚式の話なんて出来ないよね。先方には私から電話をしておきます。でも誤解しないで。私に内緒で拓雄さんにあんなDMを送ったのは許せないけど、歩が友達であることに変わりないの。そんな彼女が頭を打って意識不明の重体なのに、私だけが浮かれた気分でいるのは申し訳ない気がするだけ。決して拓雄さんとの結婚を辞めたいとかじゃない。もちろん、彼女を突き飛ばした犯人だと疑ってなんかいないから。彼女は小説を書いていたの。その関係で編集者の人達と揉めていたから、もしかすると犯人は出版関係の人かもしれない。でもそれは警察の人が調べてくれると思う。どちらにしても、歩の容態が安定して目を覚めせばはっきりするはず。だから少しだけ延期させて下さい。宜しくお願いします。 ― 

 と書かれていた。

 拓雄は反省した。もし和可菜が打算的な思惑で結婚を考えていたり、拓雄の個人的な事情を友人の歩に伝えていたりしたら、このような書き方はしないだろう。

 もしそうなら目を覚ます前に早く籍を入れ、式をできるだけ早く挙げようと考えるに違いない。

 だがその逆で、自分から打ち合わせの先延ばしを提案してきたのだ。そんな彼女を疑った己の浅はかさを恥じた。やはり今後将来を約束し、寝食を共にできるのは彼女しかいない。拓雄は改めてそう確信する。

 そこでこちらから、返事を打ち込んだ。

 ― 和可菜が謝ることなんてない。一課と取引があって揉めていた代理店社長の娘さんが、あのDMの送り主で和可菜の友達だったのはびっくりした(^_^;)

 警察に疑われたのも思いがけないことだったけど大した実害はないし、和可菜のせいじゃないから(`・ω・´)ゞ。明日の予定を延期したい気持ちは分かった。歩さんの無事を願って、問題が片付くのを少しだけ待とう(( ̄ー ̄ゞ)

 スマホがないから、先方への連絡は任せた。いつにするかはまた後日ちゃんと話そう。警察からスマホが戻ったらまたメールします。明日はお互いゆっくりしよう! (*´ω`*)  ―

 意図的に明るく絵文字を入れたところ、彼女から短い返信が来た。

 ― 有難う。分かった。また連絡してね。 ―

 普段でもそれ程砕けたやりとりはしていない。ただ今日はその素っ気なさが、彼女の胸の内を表しているように思えた。動揺し、また傷ついてもいるようだ。それが却って拓雄の心に棘を刺す。一瞬でも彼女に不信感を持ったと見透かされた気がしたのである。

 このままではいけない。明日の打ち合わせの延期は良いとしても、その後が問題だ。早期に歩の意識が戻ればいいが、いつになるか分からない。最悪、亡くなる可能性だってある。もしそんな事態になれば、さらに式の打ち合わせが遅れるだけでなく、二人の結婚自体が危うくなりかねないではないか。

 またどういう人物が犯人なのか、拓雄が呼び出された日のあの場所の近くで、何故事件が起こったのかによっても、二人の今後の関係に影響を及ぼす。和可菜の秘密とやらを知った人物が、何らかの理由で歩と仲間割れし揉めた可能性もあるからだ。

 拓雄達と全く関わり合いの無い事情なら、歩がこのまま意識不明、または死亡してしまえば、和可菜の秘密を公にされる恐れはないだろう。

 ただそんな偶然があるだろうか。犯人も和可菜の秘密を握っているなら、いつ公にされるかと引き続き怯えなければならないのか。

 そんな想像をしたら、いてもたってもいられなくなった。待っているだけでは駄目だ。今回の事件をすぐにでも解決しなければ、拓雄の将来が危うくなる。少なくとも犯人が誰かを突き止めなければならない。

 そこで彼女から送られたメールに、引っかかる個所を思い出した。それは、歩が出版関係で揉めていたという点だ。しかも和可菜は編集の人達、と複数いることを示唆していた。

 拓雄が刑事達に疑いをかけられ、他に揉めている人はいないかと詰め寄った際、彼らの反応は完全に否定していなかった。それに和可菜が知っている位ならば、刑事達も把握しているに違いない。

 彼女は警察が調べてくれるだろうと書いていたが、本当に任せていいのかと不安を感じた。その為、急いでメールを打った。

 ― ごめん。ちょっといいかな。和可菜は歩さんと友達だったんだよね。それなら例のDMを送って来たアカウント以外に、彼女が普段SNSで使っているアカウントを知っていたら教えてくれるかな。ちょっと確認したいことがあるんだ ー

 もうスマホを見ておらず、返信には時間がかかるかもと覚悟したが、思ったより早くメールが届いた。

 ― アカウントは分かるけど、そんなことを知ってどうするつもり? ―

 ― 歩さんは和可菜の大切な友達で、その人に結婚を反対されていたんだよね。だとすれば目を覚まして元気になったら、絶対祝福されたい。その為には事前にどんな人なのか、自分なりに知っておきたくて。SNSへの書き込みがその人の全てじゃないけれど、一端ではあると思う。もしどうしても嫌だと思うなら、無理強いはしないけど ー

 そう直ぐに答えると、少し経って返事が来た。

 ― 分かった。アドレスを添付しておくね。個人でやっているものと、作家としてのアカウントの両方あるから。もっと知りたいと思うのなら、拓雄さんのスマホが戻って来た時に電話で話しましょう。私が教えられる範囲で答えるから。 ―

 拓雄はその文章を読み、早速アドレスにアクセスした。これまで歩が書き込んだものを精査し、揉めていた人物は誰なのかを把握しようとしたのである。

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