表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
届かぬ調べに、心が響き合い  作者: 相沢蒼依


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

95/98

第六章 恋のはじまりと揺れる未来2

***

 はじめて訪れた悠真の部屋は、不思議となんか落ち着く。夏の日差しが窓からやわらかく入り、カーテンがふわっと揺れた。勉強の邪魔にならないように窓辺に置かれたグラスからは、麦茶の氷が小さくカランと鳴っていた。


 俺は悠真の隣に座って、広げた宿題のプリントとにらめっこしていたけど……正直、集中できる気がしない。


「うわ、この英語のリスニング。家でもやんなきゃダメだったんだな……」

「そうだよ。スマホで音声が聞けるんだ。ほら、これ」


 悠真が俺にスマホを渡してくれたので、再生ボタンを押すと教科書の会話が流れはじめる。


「……なあ悠真、これさ、俺たちの会話のほうがよっぽど自然じゃね?」

「え、急になにを言ってるの?」

「だってさ、“Hi, how are you today?”とか悠真だったら、“おはよう、調子どう?”って普通に言うだろ。なんかもう、悠真がいれば英語も喋れそうな気がしてきた」


 ちょっとだけ言いすぎたかと思ったけど、悠真が笑ってくれるとホッとする。


「ふふっ……だったら明日から、英語で挨拶する?」

「いいね。そしたら俺、“I like you, Yuuma”って毎日言う」

「ちょっ!」


 悠真が顔を真っ赤にして、ノートで俺の腕をぺしっと叩いてくる。いやいや、そんな反応、めちゃくちゃかわいいんですけど……。


(というか、本当は“I love you, Yuuma”って言いたかったけど、さすがにそれは照れるしな)


「……I’m sorry」


 小声で謝ると、悠真は苦笑いしながらもノートに目を戻す。その仕草すら愛しくて、またペンを握る手が震えそうになった。


 気づけば肩がふわりと触れていた。扇風機の風に乗って、ふたりの距離だけがじわじわ縮んでいく。でも、どっちもその距離を戻さなかった。たぶん、それが“今の関係”なんだ。


「……ねぇ陽太」

「ん?」

「こうやって宿題やるの、はじめてじゃないのに……今はなんか全然違う」


 その言葉に思わず手を止めて、悠真の顔を見た。


「だよな。俺もそれ思ってた。前は“友達”って感じだったけど、今はもう……そうじゃない」


 言いながら、胸がじわって熱くなる。隠すつもりもない。ちゃんと伝わってほしい。


 悠真は恥ずかしそうにペンを弄びながら、ぽつりと呟いた。


「じゃあ“恋人っぽく”しながら、宿題がんばれるといいね」

「……ちょ、なにそれ。かわいすぎんだろ、悠真マジやばいって!」


 もう耐えきれずに笑ってしまった。悠真も、困ったように笑ってる。こんな時間、夢みたいだなと思った。


「よし、じゃあ次のページいくか」

「うん。どこかわかんなくなったら言って」


 俺の指が、そっと悠真の手の甲に触れる。一瞬だけ、そのままそっと重ねた。悠真は驚いたみたいに目を瞬かせたけど……すぐに、ふっと笑ってくれた。


 扇風機の風がふたりの髪を揺らす中、ノートの文字が静かに埋まっていく。この静かな夏が、ずっと終わらなければいいのに――そんなふうに本気で願った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ