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届かぬ調べに、心が響き合い  作者: 相沢蒼依


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第五章 恋の鼓動と開く心45

***


 試合終了のブザーが鳴った瞬間、汗だくのままベンチに倒れ込んだ。ユニホームは汗で張りつき、呼吸は荒い上に全身が重い。でも、不思議と気持ちは晴れていた。勝てたことももちろんだけど、それ以上に――。


(……悠真、見てくれてたかな)


 客席に向かってそっと目をやる。悠真の姿は、さっきと同じ場所にあった。体育館の高窓から差し込む光が髪にかかって、柔らかな輪郭を作っていた。


 ちょっと眩しそうに大きな瞳を細めながらも、視線は逸らさない。それを見た瞬間、胸がじんわり熱くなる。


(――ちょっとは、カッコイイとこ見せられたか?)


 無意識にそんなことを考えている自分がいて、軽く苦笑する。


 試合後の片づけを終えて体育館を出ると、校庭の片隅にあるベンチに悠真がひとり腰かけていた。水色の半袖シャツの裾が風にふわりと揺れて、ほんのりカールのかかった髪が耳元でふわふわ跳ねている。見慣れた後ろ姿だけど、今日のそれはどこか――ほんの少しだけ特別に見えた。


「悠真!」


 思いきって声をかけると、彼はゆっくり振り返った。悠真が俺の顔を見た途端に、心臓が一瞬だけドキッとする。なぜか悠真の瞳が、少しだけ赤い。泣いた……ってほどじゃないけど、興奮したあとみたいに熱が残ってる感じに見えた。


「お疲れさま、陽太」


 ふんわりと笑ってくれた声が、いつもより少しだけ近くに感じた。


「試合、見てくれた?」

「うん。最初から最後まで、ちゃんと見たよ」


 そう答える声が少しだけ震えていて、俺の胸がふっと締めつけられる。


(もしかして、途中で一條となにかあったのかもしれない――けど、今は聞かないでおこう)


「陽太の……その、シュートがすごかったよ。最後のターンからのスリー。あれ……すごーくカッコよかった」


 悠真がそう言った瞬間、その一言に俺の心臓がドクンと跳ねる。想像以上に衝撃が半端なくて、フェロモンが漏れそうなレベルだった。


(マジで? 今、悠真が“カッコよかった”って言った……?)


 本人は照れてるのか、まだ視線を逸らしたままだったけど、耳がほんのりと赤くなってる。その仕草がかわいすぎて、どうにもニヤけるのを止められなかった。


 俺はニヤニヤしながら、悠真の隣に腰を下ろして言った。


「悠真ありがとう。めっちゃ嬉しい」

「そんなに、嬉しい?」

「そりゃそうだろ。悠真にそう言ってもらえたの、初めてじゃないか?」

「そ、そうだっけ?」

「俺のこと、全然意識してないって言ってたけど、今日のリアクションを見る限り――わりと意識した?」


 冗談めかして言った俺に悠真は小さく笑って、視線を少しだけ俺に向けた。


「ふふっ……ちょっとは、ね」


 その“ちょっと”が、たまらなく嬉しかった。


 そっと手を伸ばして、悠真の手の甲に指先で触れる。彼は抵抗することもなく、むしろ静かに手を返して、指先を絡めてくれた。手のひらに伝わる、あたたかくて少しだけ汗ばんだ体温。


 それがなんだか嬉しくて、思わずもう一度ぎゅっと指を握った。


 その瞬間、夏の夕風がふわりと吹き抜ける。熱を残した肌に触れる風がすげぇ心地よくて、その中に重なった手の温度だけが、ずっと変わらずそこにあった。


「悠真、また次の試合も見に来てほしいな……もっともっと悠真に“カッコイイ”って言ってもらえるように、めっちゃがんばるからさ」


 俺が誘うと、悠真は小さく頷いた。


「うん……楽しみにしてる」


 その声が、優しくて甘くて――今日一番、心に響くご褒美みたいだった。

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