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届かぬ調べに、心が響き合い  作者: 相沢蒼依


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第五章 恋の鼓動と開く心44

***


 陽太の放ったシュートが、ネットを鮮やかに揺らした。その瞬間、胸の奥がきゅっと熱くなって、気づいたら立ち上がっていた。


 拍手の音が自分の手のひらから生まれていることに気づいて、あわてて手を引っ込める。


(――陽太、本当にすごい!)


 息を飲むような華麗なターンからのジャンプシュート。フェイントで相手を崩した動きも、最後まで崩れなかった陽太の姿勢も、全部がすごく綺麗で目が離せなかった。


「……やっぱり、すごいですよね。陽太先輩」


 すぐ横で落ち着いた声がした。一條くんだった。視線を下ろすと、彼は腕を組んで座ったまま、さっきのプレーを観察していたように見える。目元は笑っているけど、口元は妙に冷たい。


「一條くんは、バスケの試合を見ることに慣れてるんだね」

「もちろんです。陽太先輩のことなら、なんでも――。バスケのプレースタイルからチームでの立ち位置だって、全部研究済みですから」


 さらりとそう言いながら、こちらを一瞥する。


「でも今日のプレーは、いつもより気合いが入ってますね。観客席に“特別な誰か”がいるから、でしょうか」


 言葉に棘はなかったけど、確実に“狙って”きているのが嫌でもわかった。俺は一拍置いてから、わざと淡々と返す。


「それは……君も同じなんじゃないかな」


 一條くんがピクリと頬を引きつらせた。


「見てたよね。陽太がさっき、観客席のほうを見上げたとき……たぶん、俺のことを探してた」


 言ってから、自分でも鼓動が早くなっているのを感じた。一條くんは一瞬だけ無表情になったあと、大きな瞳を細める。


「……ふふ。やっぱり月岡先輩って、ずるいですね」

「なにが?」

「ずるいですよ。だってまだ“好き”って言ってないのに、陽太先輩のあんな顔を引き出すなんて」


(どうして俺が陽太に『好き』って言ってないことが、一條くんにわかったんだろう?)


 突きつけられたセリフに、言葉を失った。一條くんのその瞳は、怖いほど澄んでいて――けれど、確かに悔しさが滲んでいた。


「僕はちゃんと“好き”って言いましたよ。中途半端な気持ちじゃないって、自分でもわかってます」

「…………」

「でも、陽太先輩がああやって月岡先輩を見てるってことは……その曖昧な関係にも、意味があるんでしょうね」


 言い終えて、一條くんは立ち上がった。背筋を正して、コートを真っ直ぐに見つめる。その背中からは、静かだけど確かな意志が伝わってきた。


(一條くん、簡単には引いてくれない、か――)


 でも、だからこそ。陽太の真剣な気持ちに、俺もちゃんと応えなきゃいけない。見ているだけじゃ、きっとダメなんだ。


 ふたたび目の前で繰り広げられる試合に、まっすぐ視線を向けた。こうして見ているだけじゃ、全然足りない。俺も陽太に、届く言葉をちゃんと見つけなくちゃ。


 観客席で交わされる静かな戦いは、まだ終わらなかったのだった。

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