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届かぬ調べに、心が響き合い  作者: 相沢蒼依


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第五章 恋の鼓動と開く心37

***


 修学旅行もいよいよ終盤。観光バスは函館へ向かって、何時間も走り続けている。昼間は観光、夜は話が尽きず――そんな長丁場の旅に、クラスメイトたちは疲れ果てて、ほとんどがバスの中で昼寝をしていた。


「……悠真は眠くないのか?」


 静かな車内で、隣にいる元気そうな陽太が声をかけてくる。


「班の中では、いつも一番に寝てるからね。部活組と比べたら、俺の体力なんてたいしたことないし」

「俺はバスケ部で体力があるはずなのに、そんなの関係なく爆睡コースでさ。もしかしたら、中間テストの勉強の疲れが今頃出てるのかなって」

「でも、昼間はすごく元気に動いてるよね。行きたい場所もいっぱい案内してくれて、班としても助かってるよ」


 これまでの行動を思い出しながら言うと、陽太は得意げに肩を竦める。


「俺はただ計画どおりに回りつつ、おもしろそうなもん見つけたら、迷わず突撃してるだけだぞ」

「その突撃のおかげで、美味しい思いや笑いすぎて涙の出るくらいのハプニングに遭遇したりで……ほんと、お世話になりっぱなしだよ」


 寝ているクラスメイトが起きないように、声を押し殺して笑った。


「だって、悠真の笑顔が見たかったからさ」

「陽太……」

「今回の修学旅行で、いつもよりたくさん悠真の笑顔が見られて、本当に来てよかったって思ってる」


 その言葉に背中を押されたような気がして、俺は頭の中で言葉を探しながら口を開いた。


「陽太、俺ね……こんな俺のことを知ったら、陽太はがっかりするんじゃないかって、不安になることがあるんだ」

「なんだよ、今さら。悠真のどんな一面を知ったって、俺が落胆するわけがないだろ」


 少し気まずそうな俺の様子を察したのか、陽太が軽く肩をぶつけてくる。そのさりげない気遣いに、胸の奥があたたかくなった。


「体育祭のとき、保健室で陽太の気持ちを聞いたときにね、俺ショックだったんだ。陽太が(よこしま)な気持ちで俺に近づいて、友達になったこと」

「うん、わかってた。あのあと、悠真の態度が急に冷たくなったし。……なにも想ってない相手が、友達っていう手段で近づいてくるのって、気持ち悪いって思われるのも無理ないなって」


(俺ってあのとき、結構態度に出ていたんだ。気づかなかったな――)


「陽太が中間テストで、学年5位以内に入るって言ったときも。そんな無謀なことに突っ走る陽太を見て、ちょっとバカにしてたところもあった」


 これまでの陽太の言動を口にしたら、隣で微苦笑しながら顎に手を当てて何度か頷く。


「悠真がそう思うのも、仕方がないって。実際、無茶だったし。でも悠真が読んでたラノベに、恋愛シーンってあるじゃん?」

「そうだね。陽太が感想をくれた“胸熱”な場面も、俺にとっては“展開を盛り上げるための要素”くらいの感覚で、あんまり感情移入してなかったな」

「それでも俺は、悠真のことを軽蔑しない」

「なんだかなぁ、本当に」


 以前の俺だったら、こんな陽太のまっすぐさに引いてたと思う。でも今は――。


「悠真、呆れただろ?」

「呆れる前に、陽太の潔さに完敗してるところだよ」


 そう言った俺に陽太は何度も瞬きをしてから、ぽっと顔を赤くした。


「潔さって言われるとは、思わなかったな……」

「ふふっ。陽太の気持ちがブレないところを、そう表現してみただけだよ」

「……なんか照れるな」


 頬を染めて俯く陽太の姿が、富良野でラベンダーをもらったときに、いろいろ喋ったことで照れていた佐伯と重なる。


「陽太……俺ね、恋する気持ちはまだわからないけど……恋してる友人が見せる普段とは違う表情とか、ちょっと好きかもしれない」

「へっ?」

「陽太も佐伯も、榎本くんも含めて……いつもとは違う表情を見たときに、いいなって素直に思えるんだよ」

「悠真、それって――」

「恋する気持ちをバカにしてた自分が、こういう感情を持つなんて意外なんだよね」


 そう言って笑いかけると、陽太の顔色がぱっと明るくなった。


「すげぇじゃん! それってものすごい変化だぞ!」

「シーッ。陽太、声が大きい」


 俺は人差し指を唇に当てて注意する。陽太は「ごめん!」と慌てて口元を手で押さえた。そして腰を上げて身を乗り出し、慌てふためきながら通路を確認する姿は、少しおかしくて思わず笑ってしまった。


「……誰も起きてない?」

「うん、セーフ。委員長が騒いでどうすんだって、佐伯に怒られるとこだった」


 席に戻った陽太が、俺の利き手をぎゅっと握る。そこから伝わってくるポカポカのおかげで、なんだか心がほぐれていく。


「悠真、無理して理解しようとしなくていい。でもなにか感じることがあったら、今回みたいに教えて。そういうの、すごく嬉しいから」


 その言葉に俺は陽太の手をそっと握り返して、無言で頷いた。


 俺に無理をさせないように、先回りして気遣ってくれる――陽太のその優しさが、今の俺にはとてもありがたかった。

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