表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
届かぬ調べに、心が響き合い  作者: 相沢蒼依


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/114

第五章 恋の鼓動と開く心33

「悠くんとふたりきりで喋っていたいのに、やっぱり邪魔が入るね」


 智くんが苛立ったような口調で告げたことで、陽太が戻ってきたのがわかり、嬉々として振り返る。


「悠真っ!」


(離れていたのに智くんが来たから、急いで戻ってきてくれたんだ――)


 息を荒くしながら駆けてくる陽太の背後に、色とりどりの花壇がぼんやり揺れて見える。思わず胸が詰まり、込み上げる涙を慌てて指先で拭った。ここで泣いてしまったら、心配させてしまうだろう。


「ゆっ悠真、大丈夫かっ?」


 息を整えきれないまま、陽太が俺の手をぎゅっと握りしめる。その手のぬくもりが、今にも崩れそうだった心の支えになった。手のひらからポカポカが流れてきて、苦しいくらいに緊張していたメンタルが、瞬く間に落ち着いた。


「陽太が来てくれたから大丈夫。ありがとう……」

「うん、顔色が少しだけ良くなったな」


 空いた手で俺の頭を撫でてから、ベンチに座る智くんに向き合った陽太。


「西野くん、こんなところでアルファのフェロモンを流したりしたら、オメガが集まってしまうかもしれないよ?」

「攻撃性を感じさせるフェロモンを嗅げば、誰も寄ってこねぇよ」


 口調は強がっているものの、繋がれている陽太の手のひらが次第に汗ばんでいく。同じアルファ同士でぶつかり合いながら俺を守ることは、きっと大変なのかもしれない。


「保健室でやった俺の行動を、西野くんは真似をしたということか。確かに最初は、邪魔が入らなかったもんな」


 智くんは静かに告げるなり、ゆったりとベンチから立ち上がった。そしてある一点を見つめて、チッと舌打ちする。


「俺の悠くんと仲良さそうにしてるのは、見せつけるためかい?」


 顎で俺と陽太の繋がれている手を指し示し、忌々しそうに睨む。


「見せつけるもなにも、俺と悠真は付き合ってる」


 俺の目に映る堂々としている陽太は、なぜだか格好よく見えてしまい、胸がドキッとした。


(いつもはクラスのためにがんばってる陽太が、俺のためにこうして守ってくれるのは、やっぱり嬉しい――)


「悠くん、それは本当なのかい? こんな、いつラットになるかわからない野蛮人と付き合うなんて、君の身になにかあったら大変じゃないか」

「五十嵐さん、俺はアンタとは違う」


 陽太は、速攻で拒否する言葉を告げた。


「なにが違うんだい? 俺は抑制剤でラットにならないようにきっちり管理している、この世で一番安全なアルファだ。君は、そうじゃないだろう?」

「俺は悠真と一緒にいるときに、ラットになったことがある」

「陽太……ウソ、だってそんなの――」


 一瞬、記憶の底に沈めていた光景が、急に脳裏に蘇る。中学3年の昼休み――思い出したくもない、あの日の空気が肌にまとわりついてくる。


 お昼休み、給食を食べ終えた俺と智くんは並んで廊下を歩いていた。それはいつもの日常――確か、昨日見たテレビ番組の話をしていたっけ。


『悠くん俺さ、いつも悠くんの傍にいるときは、アルファのフェロモンを出しているんだよ』

「そうなんだ。ごめん、俺あまり、フェロモンの感知能力がよくなくて」

『同じベタでも朱音姉さんは感じるのに、どうして悠くんは感じてくれないんだ』


 振り絞った声で告げた智くんは、次の瞬間には俺の体をぎゅっと抱きしめた。


「と、智くん?」

『こんなに悠くんのことが好きなのに、なんで伝わらないんだよ!』


 耳に響く怒号を認識したときには、着ていた開襟シャツを智くんの両手が引き裂いていて。


「ちょっ、なにするん――」


 胸元を引き裂かれた瞬間、冷たい空気が肌を刺す。その直後、首筋に強い痛み――噛みつかれたのだと気づいたときには、声が喉の奥で詰まった。荒くて熱い息遣いが皮膚を通して感じるだけで、恐怖に体をぶるぶる震わせる。


『悠くん、好きなんだよ。堪らないくらいに』


 智くんの血走った両目が俺を見据え、苦しいくらいに抱きしめられる体が、まるで自分のものじゃない感覚に陥っていく。徐々に意識が遠のきかけたせいで、その場に倒れ込んだ。


 智くんはすかさず跨り、俺の両手首を掴んで床に押しつける。


『キレイだね、悠くんの体。むしゃぶりつきたくなる』


 そう言ったのに智くんは俺の唇にキスをして、強引に舌を挿入しようとした。


「ンン、やっ!」


 血なまぐさいキスから逃れるために、何度も首を左右に振り、智くんから逃れようとしたら、下半身になにかを擦りつけられた。


「ヒッ!」


 すごく固くて異物感のあるものが、執拗に下半身へと押しつけられた瞬間、心が凍りつく。ただただ、怖くてたまらなかった。


「いっ嫌だ、もうやめて……」

『ああ、悠くんが感じてくれて嬉しいよ。一緒に気持ちよくなろう』

「先生、こっちです! 五十嵐くんが月岡くんを襲ってます!」


 ちょうど職員室に通じる廊下だったこともあり、通りがかった生徒の通報では運よく助け出された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ