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届かぬ調べに、心が響き合い  作者: 相沢蒼依


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第五章 恋の鼓動と開く心21

***


 図書室に向かいかけたら、陽太がすごい勢いで廊下を駆け抜け、逃げるように階段を降りていくのが目に留まった。


(この時間帯なら、バスケ部に向かおうとしているのかも。きっといつもより遅れているから、急いでいるに違いない。だけどあの速さで誰かにぶつかったら、ちょっと危ないな)


 そんな考えが頭の中を過り、彼を追いかけながら声をかけようとした瞬間だった。


「陽太先輩! やっと見つけた」


 出しかけた声をくっと飲み込む。ついでに階段を下る足が止まった。この声は、1年の一條くんだ。


「どうした? 俺になにか用なのか?」

「陽太先輩が修学旅行に行っちゃったら、しばらく逢えなくなるじゃないですか。それが寂しかったんです」


 背の高い陽太を見上げる一條くんの姿は、見るからに似合いのカップルに見えた。アルファとオメガだからバース性もバッチリ。それなのに、どうして陽太の好きな相手は俺なんだろう。


「なんだ、そんなことか……」

「僕にとっては、そんなことじゃないんですって。でも修学旅行、楽しんできてくださいね。お土産話待ってます」


 陽太が気の抜けた返事をしたというのに、一條くんは平気な顔のまま、弾んだ口調で話を盛り上げようとしているのがわかった。


「なにを熱心に見ているんだ、月岡」


 ぽんと肩を叩いた人物が、俺の背後から見ていたものを眺める。


「佐伯?」

「あのバカ、なんでまた一條に取りつかれているのやら。というか、積極的に話しかけてるな。アイツに訊ねている内容については、だいたい想像つくけど」


 眉間に深いシワを寄せて大きなため息をついた佐伯に、思わず問いかけてしまった。


「あのふたりの会話がわかるの?」

「わかるもなにも、西野はしょっちゅう俺をアテにして、いろいろ訊ねるんだ。西野にとって初恋だし、模索するのはしょうがないだろうな」


 佐伯の告げた”初恋”というワードに、胸がどくんとした。


「え? 陽太って初恋なの?」


 アルファでカッコよくて性格もいい陽太なら、たくさんのオメガから告白されているはず。だから恋愛だって、数多くこなしているイメージだった。


「自分よりも他人に尽くすアイツの性格上、毎日が忙しすぎて全然目に入らなかったんだろう。それにアルファだからこそ、オメガに好意を抱かれても、逆にピンとこなかったんだな」

「それってどういう――」


 言いかけて口を噤む。陽太が俺に告げたセリフが脳裏に流れたことで、思い出してしまった。


『悠真は俺のフェロモンがわからない。ほかのヤツらは、俺の出したフェロモンに簡単に魅了される。ソイツらと違って、悠真はアルファの俺じゃなく、ひとりの男として俺を見ているのがわかるんだ』


 俺は降りかけていた階段をのぼって、目の前にある窓辺から外を眺めた。


「月岡は西野の気持ちがわかってるのか。アイツに告白された?」


 佐伯がわざわざ追いかけてきて俺の傍らに並び、顔を覗き込む。


「佐伯、あまり俺に近寄らないほうがいいよ。榎本くんが誤解する」

「なるほど。恋する気持ちがわからない月岡でも、そういう配慮ができるんだ」


 陽太に告白されたことを煙に巻いたのに、榎本くんからの情報で俺のことがわかっている佐伯に、ゲンナリした顔を見せてやった。


「月岡さ、恋する気持ちがわからないらしいが、さっき階段で見たおまえの顔、すごく不満そうだったぞ」

「えっ?」

「西野と一條が喋ってるところを見た、率直な感想を言ってみろ」


 まるで、おもしろいものでも見つけたみたいな佐伯の面持ちを目の当たりにして、心中複雑な気分だった。


「陽太と一條くんの姿を見かけて……そうだね、まず思ったのが似合いのカップルだなって」

「アイツらは、アルファとオメガだからな。傍から見たらそう思うのが当然だが、月岡はベタで、西野と一緒にいても誰にもなにも思われない」


 流れるように語られる事実に、浮かべていたほほ笑みが頬の緊張とともになくなっていくがわかった。


「月岡は無意識に、自分と一條を比較したんじゃないのか? だから不満げな顔をしていたと俺は思うが」

「比較なんてしてないよ。するだけムダじゃないか」

「じゃあどうして、落ち込むような顔をしていたんだ?」


 いつも以上に柔らかい口調で訊ねるなり、佐伯は俺の肩を叩いて階段を降りて行ってしまった。


「答えを聞かなくてもわかってるみたいな顔をした、佐伯のほうがすごいと思うけど」


 中間テスト学年トップの佐伯は、勉強だけじゃなく恋愛面もそつなくこなしてしまうのだろうか。だから陽太は、彼を頼ってしまうとか?


 いろいろ考えても言葉にできない気持ちに手を焼いてしまい、結局俺はモヤモヤしたまま図書室で仕事をこなすことになってしまったのだった。

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