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届かぬ調べに、心が響き合い  作者: 相沢蒼依


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第五章 恋の鼓動と開く心19

「ウゲッ!」

「陽太?」


 いつものようにカウンターにいる悠真が、変な格好で図書室に乱入した俺に目を留める。


「よ、よう……図書委員お疲れ」

「全然疲れてないよ。今日は特に誰も来ないしね」


 柔らかい笑みを浮かべて返事をした悠真に、俺から話をしにくい。


「月岡、今日の昼休みは中間テストの結果が張り出される。わざわざ本を借りに来る生徒はいない」


 さりげなく、中間テストのことを言いやがった佐伯。もじもじする俺を追い越して、生物の本がある棚の前に佇み、そこから本を取り出して読みはじめる。


「そっか。それで人が来なかったんだ。陽太はなんの用?」

「それは、あれだ……例の話のことなんだけどさ」


 言いにくそうに俺が告げると、悠真は「ああ、あの話だね。なしにしたんだから、気にしなくてもいいのに」なんて、苦笑いを浮かべて対応してくれた。


「それでも俺は、どうしてもなしにしたくなくて、テストをがんばったんだけど」

「うん……」

「5位以内に入れなかった」


 ガックリと肩を落として事実を口にした俺に、悠真は立ち上がって、わざわざカウンターから出て来た。


「だって陽太はテスト期間中、風邪を引いて体調が悪かったでしょ。それでも前より、いい成績だったんじゃないの?」

「それは、うん。学年9位だったけどさ」

「俺、今回陽太と一緒に中間テストのヤマ張りをして、すごーく感心したんだ。自分の勉強時間を割いて、クラスの平均点を上げるために一生懸命にがんばってること」


 言いながら俺の利き手を両手でそっと握りしめ、眩しい笑顔を見せてくれる悠真に、胸がドキドキしっぱなしだった。


「陽太のそんながんばりに、ご褒美があってもいいんじゃないかって」

「悠真?」

「ねぇ佐伯、俺の言ってることは変かな?」


 悠真は俺らに背を向けて、黙々と本を読む佐伯に声をかけた。


「別に変じゃない。しかもご褒美という言葉が、西野のヤル気をますます引き出して、B組をいい方向に導くと思う」

「ふふっ。佐伯もそう言ってくれたし、しょうがないから陽太からの恋の指南、教わってあげるよ」

「……マジで?」

「西野、フェロモン爆散するなよ!」


 嬉しさのあまりに、じわっと滲み出そうになったのを察したのか、佐伯がナイスタイミングで指摘した。俺は慌てて深呼吸を繰り返す。


「西野がまだ落ち着いていないが、昼休みが終わる前にふたりに話がある」


 俺たちの話に一区切りついたところで、佐伯が持っていた本を棚に戻してから、ゆったりとした足取りで近寄った。悠真はなにかに気づいたのか、ほほ笑みを消し去り、真顔で口を開く。


「佐伯がそんな顔して話があるなんて、あまりいいものじゃなさそうだね」

「俺、塾に行ってるから、他校の生徒とも顔見知りでな。高槻学園の生徒にも知り合いがいるんだ」


 高槻という言葉に、俺と悠真は息を飲んで黙り込み、セリフの続きを待った。


「2年生の修学旅行先、ウチの学校と高槻学園は同じ日程で、タイミングが合えば同じ場所の観光になる」

「ちょっと待て、それって――」

「修学旅行先で間違いなく、月岡にアプローチを仕掛けてくるだろう」


 佐伯の予想に、俺は両手をぎゅっと握りしめた。保健室前でのやり取り――アイツは一旦引くと言い放ったが、修学旅行先が同じことを知っていたから、あのとき余裕のある態度を貫けたのだろう。


「智くんが修学旅行……で俺に逢いに来るなんて」

「悠真、大丈夫。俺が絶対に守ってやるから!」

「西野落ち着け。俺とおまえは同じ班じゃないんだぞ。どうやって月岡を守るんだ?」


 三人三様の心情が見事にすれ違い、図書室に嫌な雰囲気が漂った。


「……俺、修学旅行に行かない」


 静かに、だけどハッキリと悠真は言いきった。


「悠真、アイツが来るかもしれないのは、すげぇ不安かもしれない。だけど修学旅行は今しか行けないんだぞ。俺が悠真を守ってみせる。だから――」

「智くんが陽太に手を出すかもしれない。もしかしたら、ケガをするかもしれないんだよ」

「月岡、飛躍しすぎだ。他校の生徒に手を出し、乱闘騒ぎを起こしたりしたら、退学処分まっしぐら。そんな頭の悪いことをするようなヤツに、俺は見えなかった」


 頭脳明晰な佐伯のセリフに、悠真は胸の前に手をやり、小さいため息をつく。


「それに西野とアイツのフェロモンの濃度は、同等レベルだった。アルファ同士、互角の勝負がわかっているのなら、わざわざ喧嘩になるようなことをしない。西野、そうだろう?」


 佐伯の問いかけに、俺は頷きながら口を開く。


「保健室前で、わざわざ力量を測られたからな。俺が油断してフェロモンを出さなかったら、それ以上の量のフェロモンを爆散して押し切り、アイツが保健室に入っていたかもしれない」

「あのとき、そんなことになっていたなんて……」

「そこでだ、俺の恋人から提案がある」


 目の前に人差し指をたてた佐伯に、俺は悠真と一緒に注目した。


「おまえたちが、カップルになればいい」


 無造作な前髪をかき上げ、佐伯がニヤリと笑う。


「榎本が言ったんだ『西野委員長と月岡、手つなぎでライバルを撃退!』って騒いでた。アイツのバカアイデアだが、悪くないだろう?」


 なぁんて軽口で言い放つ。


「それマジで?」


 俺が目を丸くしたら、佐伯が「アルファの根性見せろ」と俺の背中を力いっぱい叩いた。まるで気合を注入するように。


「確かに、それはいい案だね。俺が智くんのことを好きじゃないとわかれば、諦めてくれるかも」


 佐伯の提案に、悠真は二つ返事でOKしたが――。


「悠真、おまえはそれでいいのか? 俺のこと、なんとも思ってないのに」


 俺の見立てでは悠真に恋人がいても、簡単に諦めるようなタマじゃないのは明らかだった。


「陽太と恋人になったことで、智くんが諦めて接触してこなくなる可能性があるなら、試してみたい。ダメかな?」


 大好きなヤツが、小首を傾げながら頼むような口調で告げた時点で、俺が断れるハズもなく。かくて佐伯が提案したことをふたり揃って納得し、実行することになったのだった。

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