第五章 恋の鼓動と開く心18
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清陵高校のテストは、基本マークシート方式なので、結果はすぐに出る。なので次の日の昼休み、職員室前の全校掲示板に、各学年の中間テストの上位成績50位以内が掲載されたのだが――。
「…………」
掲示板の”9位”に目が釘付けになり、胸がズシンと重くなる。風邪さえ引かなければ、悠真が指定した「5位以内」を間違いなく叶えられたのに。
テストの結果を確認する学生に揉みくちゃにされた俺は人混みに揉まれ、クラゲのように所在なくよろめく。突きつけられた現実に、目を背けたくて堪らなくなった。
「陽太先輩っ、すごいですね。トップテン入りしてるじゃないですか!」
いつの間にか隣に一條がいて、俺の腕に縋りつきながら小さいジャンプを繰り返して、喜びを示した。
「僕もがんばらなきゃ。陽太先輩の横に並んでもいいように」
ムダにくっつく、一條を振り払う気力すら出ない。されるがままでいた俺を見かねたのか、しっかり者の副委員長様が俺の首根っこをいきなり掴み、人混みからうまいこと連れ出してくれた。
「西野、しっかりしろ。一條、離れてくれないか。このあと急いで、委員関連の話し合いをしなきゃならない」
無理に一條を引き剥がすことをせずに、自動的に離れるセリフを告げた佐伯は、呆然とする俺の首根っこを掴んだまま、どこかに向かいはじめた。
「佐伯、委員関連の用事ってなんだよ?」
急ぐと言ったから、こうして連れているのだろうが、直近のイベントで関係のありそうな修学旅行にまつわる委員関連の話なんて、まったく知らない。
「あれは西野にくっついた一條を、なんとかするための嘘に決まってるだろ」
「あ、はい。あざーす……」
気づけば、目と鼻の先に図書室が見える位置まで来ているではないか。
「西野のテストの結果が前回よりも好成績だというのに、俺はどうしたらいいのやら」
「なんで佐伯が悩むんだよ、俺の成績と関係ないくせに」
眉間にシワを寄せて謎に悩む佐伯を不思議に思いながら、声をかけた。
「それが大アリなんだ。月岡に西野の本気を見たくないかと、最初にけしかけたのが俺だから」
「おいおい、ちょっと待ってくれよ。俺の本気っていったい?」
「クラスの平均点を上げるためにテストのヤマ張りをしたり、部活でも大活躍している生粋のアルファの西野が、勉強で本気を出したら、どれくらいの成績がとれるのか、個人的に気になったものだから」
(オーマイガー! 佐伯の考えに同調した悠真が、学年5位以内を提案したというのか!? 頭のいいヤツが考えることは、全然わかんねぇ!)
「なんだよそれ……学年1位の佐伯が俺の成績が気になるなんて、おかしな話だな」
「どこまで上がるのか、普通に気になるだろ。だから月岡だって、それに乗っかったんだ」
「だけど俺の成績、今回は9位だった……」
風邪さえ引かなければ、ギリギリ5位になっていた可能性がある!
「着目するところは、そこじゃない」
「悠真に言われたことができなかったんだぞ。恋の指南ならず……」
「他人にまったく興味を抱かない月岡が、西野の本気を見たがった。それって、意識しているってことじゃないのか?」
佐伯が告げた言葉が、耳の奥で何度もリピートする。
「悠真に……意識されてるのか?」
「名前呼びから名字呼びになったことについても、わかりやすい反応だと俺は認識した」
クラスメイトは悠真が口にする名字呼びに、俺が告って玉砕した結果と思ったらしく、前のように騒がなくなった。
「佐伯――」
「ほら、昼休みが終わってしまう。とっととテストの結果を報告して、次の対策をしなきゃだろう?」
図書当番をしている悠真に報告するために、ここに連れられたのはわかったものの、心の準備がまったくできていない。
「佐伯ちょっと待って。傷つく前にバリアを貼りたい」
「なにを今さら。グチグチ言う暇があるなら、みずから行動する! アルファの根性を見せてみろ!」
佐伯は目を釣りあげて俺の腕を引っ掴み、勢いまかせに図書室の扉を開けて、ポイッと俺を中にぶん投げた。




