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届かぬ調べに、心が響き合い  作者: 相沢蒼依


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第五章 恋の鼓動と開く心8

「ああ、なるほど。俺もお父さんから話に聞いたことがある。西野さんだったか、俺と同じ生粋のアルファの息子を持ってるって」


(――俺と同じく両親がアルファだから、フェロモンで牽制できなかったということか)


「なんで西野くんが、悠くんに会っちゃダメなんて言えるんだい? 俺たちは両想いなのに」

「両想い?」


 意外なセリフに反応して、声が震えてしまった。


「そうだよ、俺と悠くんは両想い。彼、足が速かったろう? いつも俺のことを追いかけていたからね」

「アイツは五十嵐さん、アンタの姿を見てから具合が悪くなった。両想いなら、そんなことにはならないって」

「ああ、それはね、中学時代のことがあったせいだよ。好きすぎて悠くんの気持ちを考えずに、ヤろうとしたからさ」


 反省の感じられない笑みを浮かべながら告げられた言葉に、怒りが沸々と込み上げてくる。ここで手を出して暴れたりしたら、それこそコイツと同じ犯罪者になるのを察して、両拳を握りしめながら、深呼吸を繰り返した。


「悠真はアンタのことなんて、全然好きじゃない。本人から、恋する気持がわからないと聞いている」

「だったらそれを、俺が教えてあげればいいね。きちんと謝って許してもらうことができたら、きっとまた俺を好きになるだろうし」


(なんだろう、コイツと喋っていても、マトモに話し合うことができない気がする――)


「悠真はまだ具合が悪くて、誰にも会うことはできません。今日はお引き取りください」

「なんで君が、そんなことを言えるんだい?」

「保健の先生に頼まれました」


 しれっと嘘をついたときだった。ピリッとした空気を感じさせたことで、佐伯が来たのがわかった。


「おやおや。俺たちのフェロモンを感じてやって来るなんて君、随分と勇気があるね」

「ウチの学校で、西野の濃いフェロモンを感じて首を突っ込むのは、俺くらいです」


 そう言った佐伯は、俺たちに対峙する位置で立ち止まる。


「だけど君が漂わせているアルファのフェロモン、普通のアルファよりも薄いね。ここで首を突っ込んでも、返り討ちにあっちゃうよ」

「普段はね、必要ないので抑えているんです。西野、ひれ伏せ!」


 強い口調で告げられた言葉と一緒に、佐伯のフェロモンが俺だけに当てられた。クールミントみたいな香りを吸い込んだ瞬間、脳が揺れるような錯覚に陥り、ふらつきながら壁に手をつく。


「クソっ、佐伯……おまえ、なにをしたんだ?」


 めまいがして、立っているのがやっとだった。


(――なんで強力な武器になるそれを、五十嵐に当てないんだ、コイツは!)


「すごいね君! フェロモンを特定の相手に浴びせるなんて芸当、なかなかできるものじゃないよ」

「普通のアルファならひれ伏すのに、生粋のアルファには効かないみたいですが、これでも濃度は半分です。全力で浴びてみますか?」


 俺よりも小柄な体型の佐伯が、このときだけはなぜか大きく見えた。


「俺と敵対するということは、どういうことなのかな?」

「月岡にアルファのナイトがふたりつくのは、魅力的な彼なら当然じゃないですか」


 榎本が聞いたら卒倒する嘘をついた佐伯に、五十嵐は肩を竦めた。


「やれやれ。俺の悠くんは本当にモテるな。しょうがない、ここは一旦引くとするよ」


 履いているスリッパを引きずるように歩き、俺たちの目の前を去って行く五十嵐の後ろ姿をいつまでも見送った。


「西野、大丈夫か?」

「大丈夫じゃねえよ。とんだ隠し玉を使いやがって!」

「おまえで、互角の相手だったからな。仕方なく使ってやったんだ、ありがたく思え」


 こめかみに手を当てて気難しそうな面持ちの佐伯に、現実を教えなければならない。


「俺を助けたのはいいけど、柱の影から事の顛末を眺めている榎本に、ちゃんと話をしないとダメだぞ」

「なんだと!?」


 慌てて振り返る佐伯の前に、涙目の榎本が現れてTシャツの裾を両手で握りしめながら、なにかを呟いた。小声なので俺には聞こえなかったが、佐伯には聞こえたらしい。長い前髪を無造作に鷲掴みし、パッと掻きあげながら口を開く。


「おまえは、俺のストーカーなのか?」


 呆れ果てた佐伯の視界から、逃げるように走り出す榎本。舌打ちしつつ右手を振って俺に別れを告げた佐伯は、慌ただしく保健室の前から消えた。


 しんと静まり返ったことで、落ち着いて今後の対応を考える。このあと悠真のもとに戻ったときに、五十嵐が来たことを告げなければならなくなった。アイツは間違いなく、両想いだと豪語した悠真と接触をはかる。それを守ってやらねばならない。


「遠くから見ただけで、寝込むくらいに具合が悪くなったというのに――」


 しくしくと痛んだ胸を抱えて、保健室の扉を開いた。普段よりも重たく感じる扉に、言いようのない不安が募っていったのだった。

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