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届かぬ調べに、心が響き合い  作者: 相沢蒼依


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第四章 運命の番と一歩の距離17

***


『部活や塾に行かない者は、明日の放課後特訓をするので、体育の準備をして登校すること』という連絡網が前の晩に回ってきたので、次の日それに従った。


 その日の放課後、佐伯がメンバーの中心となって、使われていない校庭の隅っこに、クラスメイト十数名を集めた。草の匂いが辺りに漂い、傾きかけた日の光がトラックを明るく照らした。


「体育祭まで天気が良ければ、放課後なるべくここに集合してほしい。この企画を立案したのは俺だが、内容は西野が読んでいた本から抽出したメニューになる。ちなみに練習メニューの苦情は、すべて西野に言ってくれ」


 自分には非がないと言わんばかりに流暢に告げた佐伯を、俺を含めたクラスメイトは苦笑いでやり過ごす。


(人当たりのいい陽太に文句を言えるクラスメイトなんて、誰もいないのにな――)


「まずは隣合った者がペアになって、柔軟体操する。月岡、前に出て俺とペアな」


 もたもたして、最後に校庭に顔を出した俺の隣には誰もいなかったので、必然的に佐伯とペアになってしまった。前に出てお手本になりながら、きっちり柔軟体操する。


「月岡、意外と体が硬いのな。本ばかり読まずに、少しは運動を心がけたらどうだ」

「ううっ、いたた……そうだね」


 立ったまま、佐伯に背中をグイグイ押されているものの、指先が地面につかない。


「佐伯はすごいね。勉強と運動を両立させて」


 今度は俺が佐伯の背中を押す番。軽く押しただけなのに、佐伯の手のひらがペタッと地面についた。


「適度に体を動かしたほうが、頭に酸素が巡って記憶力があがるんだ。どこかの誰かさんは、そうじゃないみたいだけどな」


 さりげなく、陽太のことを指摘した佐伯。俺よりも成績が優秀なアルファの佐伯に、ベタの俺がどんなにがんばっても、きっと成績は敵わない。それはアルファの幼馴染が傍にいた関係で、嫌と言うほど身に染みている。だけど――。


「陽太が本気を出したら、きっと一番になっちゃうと思うよ」

「ほぅ、おもしろいことを言うな」


 鋭さを感じる瞳を大きく見開き、不敵にほほ笑む佐伯は、俺の両腕に自分の両腕を絡ませ、背中に乗っけて、腰を屈ませた。背骨からゴキゴキっという、聞こえちゃいけない音が派手に鳴る。


「ひーっ、痛気持ちいい!」


 背筋が伸びたおかげで、身長が数センチ伸びたかもしれない。


「よし、今校庭をランニングしてる陸上部の後ろにくっついて、5周走ってくること。それが終わったら小休止!」


 このタイミングで佐伯が言い放ったことで、彼を背負わずに済んでしまった。そのままランニングに参加しようとしたのに、佐伯はTシャツの裾を無造作に掴んで俺を引き留める。


「わっ、なにか?」

「週末、西野の家に行くんだろう?」

「うん、そうだよ」


 よく知ってるなと思っていたら、佐伯は嬉しそうに瞳を細めて、意味深な笑みを頬に滲ませた。


「そのときに言ってほしいんだ。いいか、よく聞けよ『俺、陽太の本気が見てみたい。学年で5位以内に入れそうかな?』ってさ」


 それって俺よりも、成績が上なんですけど。っていうか、陽太の成績って何番くらいなんだろ。


「佐伯、それ俺が言うの?」

「もちろん。西野の中で月岡の存在は、かなり大きいんだぞ」

「そうなのかな……?」


 ここ最近、俺に接する陽太の気の遣い方が、どこか腫れ物を扱うように思えるせいで、疑問が口を突いて出てしまった。


「なんだアイツ、月岡に冷たいのか?」

「冷たいなんてとんでもない。むしろその逆だよ」


 あわあわしながら否定したのに、佐伯の表情はどこか冴えなかった。


「だとしてもだ、中途半端な態度をとられて、月岡は不満なんだろう?」

「それは……そうかもしれない」


 妙な線を引かれている感じというか、目すら合わせてもらえない現状は、やっぱり寂しいって思う。


「それって月岡もまた、西野にそういう態度をとっていることはないのか?」


 佐伯に指摘された瞬間、無意識に首筋に触れてしまった。指先に感じる絆創膏の無機質な表面を、意味なく撫でてしまう。


「陽太に変な態度?」

「アイツだけだろ。月岡に友達になってくれって言ったのは」

「うん、そうだね」


 1年のときは、友達になってくれという感じじゃなく、もっと踏み込んだ関係になりたそうなクラスメイトがいて、何人か俺に声をかけてきた。


 とりあえず断る理由もなかったので、彼らが望んだ際は一緒にいてあげたり話もしたけど、いつの間にか去ってしまった。きっと俺といても、つまらなかったのだろう。


 そんな俺と友達になりたいなんていう奇特な人物が、2年になって現れるとは思いもしなかった。


「西野が誰かに『友達になってくれ』なんて言うのは、初めてだと思う」

「えっ?」


 告げられた言葉の衝撃で、絆創膏に触れていた手がおりた。


「だいたい、西野が頼まれる側だからな。アルファの中でもフェロモンの濃度と量がトップクラスだし、それなりに美形で部活でも活躍してる、有名なアイツとお近付きになりたいと思うのが普通さ」


 図書室で汗だくになりながら、友達になりたいと俺に言った陽太。あのとき彼は、どんな気持ちでそれを告げたのだろう。


「西野にとって、月岡は特別な存在なんだ。そこのところをわかってやってほしい」

「佐伯――」

「だからさっき言ったこと、ちゃんと西野に伝えてくれよ。月岡も西野の本気が見たくない?」


 嬉しげに告げられた佐伯の言葉に、俺は迷うことなく返事をする。


「見てみたいかも」

「西野の本気は、クラスの団結にも必要なんだ。そこのところ、よろしく頼む。一周遅れで走ってこい!」


 佐伯に両腕で背中を押された勢いでコケそうになりつつ、笑い合いながら先に走ってるクラスメイトになんとか追いつく。週末、どんな会話から佐伯に頼まれたことを陽太に伝えようか、そればかりに気をとられていたため、あっという間に完走してしまったのだった。

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