表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
届かぬ調べに、心が響き合い  作者: 相沢蒼依


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/89

第四章 運命の番と一歩の距離8

***


 あのあと長谷川先生は、きちんとスクールバックを届けてくれた。玄関に夕暮れのオレンジの光が差し、母さんの革靴と俺の運動靴が揃う玄関先にて、先生は突発的に起こった事情を説明した。話を聞き終えた母さんは、切なげなまなざしで隣にいる俺に視線を注ぐ。俺はその視線をやり過ごすように、黙ったまま俯いた。


「それではご家族で、息子さんの今後について相談にのってください。なにかあれば担任を含めて協力いたしますので、学校にご一報いただければ幸いです」


 普段見ることのない、教師らしい態度で話をした長谷川先生の二枚舌に驚きつつ、母さんと一緒に先生の車を見送った。どんどん遠ざかっていくセダンを、肩を落としながら眺めていると。


「陽太、ラットについては私よりも、お父さんのほうが話やすいでしょう? 男同士だし」

「まぁそうだけど。ちなみに母さんは、どうやってやり過ごした?」


 派手なエンジンの唸りが夕闇に溶け、テールランプが遠ざかる。まるで俺にバイバイを言う感じで、わざと派手なエンジンを鳴らして去って行った、セダンのテールランプを見つめて問いかけた。


 本当は母さんと顔を突き合わせて話をすべきなのに、恥ずかしさが手伝って、どうにも目を合わせにくい。


「オメガのヒートみたいに、抑制剤がないわけじゃないけど、高額だし副作用もあるから、薬には手を出せなかったな。だからひたすら、耐え忍ぶしかなかったわ。とりあえず家に入りましょう」


 いつもはハキハキ喋るのに、母さんの静かな声に違和感を覚えて視線を移すと、気落ちした寂しげな横顔が俺の言葉を奪う。


 フェロモンの調整やラットなど、地味に苦労することの多さに、アルファで生まれた人間は頭を悩ませている。アルファという優秀な種族ゆえに、持って生まれたフェロモンの調整なんて朝飯前だと思われそうだが、実際はそうじゃない。


(しかも両親はそろってアルファだから、俺は余計にその血が色濃いんだよな……)


「母さん、俺大丈夫だから!」


 母さんは俺の親として、いろんな責任を感じて、らしくない表情になっているのかもしれないと思ったら、大丈夫という言葉が口を突いて出た。


「陽太?」


 先に玄関に入り、靴を脱いで自宅にあがった母さんは振り返り、扉の前で立っている俺の顔をじっと見つめる。


「俺は、父さんと母さんの子どもだからさ。失敗することはあっても、絶対に間違いを犯したりしない。アルファのプライドにかけて誓う!」


 はっきりと断言してみせたら、母さんの顔が一瞬だけ歪んだけれど、俺に向かって笑いかける。目尻に涙が溜まっているのを、指摘しないであげた。


「陽太のその自信、父さんにも見せてあげてちょうだいね」


 そう言って、そそくさとリビングに消えた母さん。そのあとを追う形で俺も自宅に戻り、母さんとふたりで父さんの帰りを待つ。リビングのソファのくぼみが、父さんの帰りを待つ静けさを漂わせたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ