第二章 恋の誤爆と効かないフェロモン9
「このバカは抑制剤をわざと飲まずに、フェロモンを使って俺を落とそうとしたんだ。ちなみに西野も同じことをしようとした時点で、コイツと同罪だからな」
「いやいや、オメガのフェロモンとは質が違うだろ。それがキッカケで、無理やり:番にさせられたのか?」
そのときの状況を想像しただけで、俺が起こした以上の被害が出ているのがわかりすぎる。
「榎本のフェロモンでやられそうになったときに、オメガのフェロモンにあてられたアルファとベタの生徒が、わんさかやって来た。邪魔が入ったことにより榎本がブチ切れて、大乱闘になったというわけ」
「人の振り見て我が振り直せが、すげぇ理解できた。フェロモンを使わないように気をつける……」
大乱闘というセリフにぞっとしながら、昨日の状況を思い出した。大乱闘にはならなかったが、アルファのフェロモンで周囲がカオスになったのは、紛れもない事実だ。
「佐伯と榎本の接点がイマイチよくわからないんだけど、違うクラスなのによく知り合えたな?」
ふと気になったことを口にしてみると、佐伯は榎本を押さえこんでいた腕を外し、隣にいる彼氏を肘で突いた。佐伯じゃなく、榎本から説明されることにワクワクしながら、耳を傾ける。
「涼との馴れ初めは、喋ったら絶縁って言われてるから教えられない。でも俺たちは、ものすごいエッチな関けぶっ!」
やけに流暢な物言いでふたりのことを語ってる途中に、佐伯の手が榎本の口を覆い隠し、勢いのままに後ろに引き倒した。
「おい、大丈夫なのか?」
パイプ椅子ごと倒された榎本の口は、相変わらず佐伯が覆った状態で、喋ることはおろか動くことすらできそうにない。間違いなく、後頭部をしたたかに打ちつけて痛いだろうに、榎本はそんな様子をまったく見せず、なぜかウインクした。
「コイツは頑丈にできてる。心配する必要はない。それよりも西野、もうフェロモンで騒ぎを起こすなよ。それが守れるのなら、月岡に接触していい」
副委員長様からの命令が下されたタイミングで、昼休みが終わるチャイムが鳴った。
「わかった。佐伯のアドバイスをもとに、悠真を落としてみせる」
佐伯の言葉に、新たな作戦が閃く。悠真に近づく第一歩を絶対に踏み出すぜと、心の中で呟いた。




