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届かぬ調べに、心が響き合い  作者: 相沢蒼依


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第二章 恋の誤爆と効かないフェロモン6

***


 昨日、誰かが書いた黒板の落書きにほくそ笑みを浮かべたあと、いつも日課にしている朝読書をしている最中、すぐ傍で『月岡』という俺の名字を口にした人物がいたので、ちょっとだけ振り返った。そこにいたのは副委員長の佐伯で、1年のとき同じクラスだったけど、顔見知り程度の付き合いをしていた。


 微妙な表情を浮かべた陽太に、:佐伯(さえき)は少しだけ怒った口調で話しかける。


「昨日の昼休み、校庭でサッカーしてたんだ。おまえのフェロモンのせいで、ムダにたぎっちまって、パスをミスったんだぞ」


 昨日の昼休みは、陽太と一緒に校庭を歩いた。すぐ傍のグラウンドに佐伯がいたことが会話でわかったものの、雰囲気があまりよくないので、ふたりの話に加われない。本を読むフリして、聞き耳を立てる。


「悪かった。だけど悠真に近づくなっていうのは、極端な話じゃないのか?」


(――陽太が俺に近づくなって、どういうことなんだろう?)


 陽太が俺の名前を告げたことで、なにか関係がありそうなのに意味がわからなくて、こっそり首を傾げた。


「朝から担任に呼ばれた。西野になにがあったんだって聞かれたんだぞ」

「迷惑かけたな、それは」


 すごく沈んだ声で謝る陽太に、佐伯はその後も会話を続けていた。だけど俺が関係したことで陽太が謝った経緯が知りたくなり、昨日の出来事を反芻するので、いっぱいいっぱいになる。「あ~もう、俺ってばカッコ悪い……」という小さな声の呟きを聞き、心配になって振り返った。


「陽太、おはよう!」


 そこには既に佐伯の姿がなくて、俺に挨拶されたことに驚いた陽太の顔が目に留まる。


「あっ、うん。おはよ……」


 陽太は俺と目が合った瞬間、慌てた感じで机から教科書を引っ張り出し、見えないように顔を隠す。


 佐伯との話を詳しく聞きたかったのに、こんな態度をとられてしまうと聞くに聞けない。どうしたら話ができるかなと考えあぐねていたら、周りからクスクス笑い声が聞こえてきた。


 誰が笑っているのか確認するために、陽太から視線を外したら、後方にいる田中ってヤツが「陽太、また爆散するんじゃね?」って小声で言って、田中の隣にいる赤池が「匂うかな?」と呟き、田中と仲良さそうに肩をぶつけて笑っている姿があった。ほかにも似たようなことを口にしているクラスメイトを、何人も目撃する。


 なんていうか、クラスの空気がいつもより賑やかなのに、妙な感じがする。しかも今朝は、陽太がすごく静かだった。


(みんな、なにか知ってるのかな? 陽太のこと見て笑ってるけど、なにがそんなにおかしいんだろう)


「悠真、悪い。次のテストに向けてヤマ張りするのに集中したいから、話しかけないでくれないか」

「わかった。俺でも手伝えることがあったら、遠慮なく言って」


 クラスのためにがんばる委員長を応援しなきゃと朗らかに告げたら、教科書から顔を上げた陽太が潤んだ瞳で俺を見つめた。


「陽太、大丈夫?」


 身を乗り出した刹那、陽太が持っていた教科書で目の前に壁を作る。


「大丈夫大丈夫! 悠真がビックリするくらいに、いいものを仕上げてみせるから」


 そう言ったきり、陽太は顔を見せることはなく、俺たちの会話が終わってしまった。仕方なく前を向き、読書をしようとページをめくったのに、頭の中に文字が全然入らない。


 陽太の潤んだ瞳がどうしても気になったので、昼休みに様子を見ようと決めた瞬間、チャイムが鳴ったのだった。

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