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届かぬ調べに、心が響き合い  作者: 相沢蒼依


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第六章 恋のはじまりと揺れる未来13

***


 部屋に戻ると、悠真がベッドに腰をかけて待っていた。


「陽太、大丈夫だった?」


 心配そうな顔に胸が熱くなる。俺はベッドに腰を下ろすと、そのまま背中から倒れ込んだ。


「はぁ……父さんに叱られた」


 天井を見つめながら、溜め込んだものをようやく吐き出す。


「俺のフェロモンが強すぎるのが、不快につながるって……アルファとして自覚を持てって言われた。悠真といると安心して、調整とかなにも考えてなかったから」


 俯いた俺に悠真はそっと隣に腰を寄せて、手を握ってくれた。


「……でも陽太が俺を大事にしようとしてくれてるの、俺が一番知ってるよ」


 その声に胸がじんわり熱くなる。


 叱られた余韻と悠真の笑顔がせめぎ合い、心がぐちゃぐちゃにかき乱された。



***


 ベッドに潜り込んで何時間も経ったはずなのに、瞼はまるで閉じてくれなかった。静まり返った部屋。聞こえるのは、自分の鼓動だけ。


(……父さんの言葉、まだ響いてる。まるで呪いみたいに)


「自覚を持て」

「軽率な真似をしないように」


 ――その通りだ。わかってる。俺はアルファだ。しかも両親譲りの“濃い”血を持つ、生粋のアルファ。


 けれど頭で理解しても、体は従ってくれない。布団の中で身をよじっても、熱は全然収まらなかった。呼吸をするたびに喉が渇き、シーツが汗で肌にまとわりつく。下半身に溜まっていく衝動は次第に濃くなって、逃げ場を失う。


(……やべぇ……抑えられねぇ……)


 わかってる。父さんに叱られたばかりだ。


 軽率な真似をしたこと、悠真を危険に巻き込む可能性――その全部を自覚しろって、頭では理解してる。なのに脳裏に浮かぶのは、悠真の潤んだ瞳。震える吐息。俺を受け止めるように絡んできた指。


 そして「……いいよ」って、小さく囁いたあの声。思い出すたび熱は濃くなって、呼吸が荒くなる。


 理性なんてもう働かない。


(……なんでだよ。昼間あれだけ勉強したはずなのに、頭ん中は悠真のことだけ)


 身体の奥が熱くて、どうにも我慢できない。寝返りを打っても、熱はどんどん膨れ上がる。部屋の空気がじっとりと濃くまとわりついて、息を吸うたびに自分自身の匂いが胸の奥を焼いた。


 フェロモンは目に見えないはずなのに、今は霧のように部屋を覆い、天井から垂れ込めている気がする。窓も壁も閉じた密室で、俺自身の匂いに押し潰されそうだった。


 ついに片手が勝手に動いて、下腹の上を押さえつける。そこに触れた瞬間、喉の奥から微かな声が漏れてしまった。


「……っ、やべ……」


 必死に歯を食いしばっても、心臓の鼓動と一緒に手が勝手に動く。頭の中では悠真が名前を呼ぶ声がリフレインして、胸の奥がますます締めつけられた。空気はさらに濃く、甘い霧のようなフェロモンが部屋中に充満していく。吸い込むたびに肺の奥まで痺れるようで、息苦しいのにやめられなかった。


「……うっ、ああ……」


 強い痙攣が身体を走り抜け、視界が真っ白に弾ける。全身が跳ねるように震え、波のような衝動に呑まれてそして一瞬だけ、すべてが報われたような錯覚に包まれた。


 けれど次の瞬間、押し寄せてきたのは底なしの虚しさだった。


 荒い息を吐きながら汗ばんだ額を押さえ、天井を仰ぐ。濡れた手のひらと、甘ったるい匂いが染み込んだ空気。それがすべて、俺が一人で撒き散らした証拠だった。


(俺、最低だ――)


 少しは楽になったはずなのに胸の奥はむしろぽっかり空いて、切なさばかりが募っていく。


(悠真の手で、あの声で……俺を満たしてほしい)


 そんな願いが込み上げてきて、慌てて目をぎゅっと閉じる。けれど消そうとすればするほど、悠真の笑顔や声が鮮やかに蘇ってしまって――結局、眠れる気なんてまるでしなかった。

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