第二章 恋の誤爆と効かないフェロモン5
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フェロモンの誤爆を連続でやらかしてしまった次の日、部活の後片付けの疲れや連日の寝不足、作戦がうまくいかなかった暗いメンタルを引きずったまま、教室に顔を出した。
仲のいいクラスメイトと挨拶をかわしながら、自分の席に到着。俺よりも先に来て、本を読みふける悠真に挨拶しようと手を伸ばしたら、横から誰かに手首を掴まれた。
「……あ、:佐伯?」
「おはよう西野。話がある」
:佐伯涼は俺と同じアルファで、副委員長をするくらいに有能なヤツだった。:佐伯のクールな瞳が俺をガン見してきて、疲れきった俺の心がさらに重くなる。
「話ってなんだよ?」
不穏な空気を感じたら、やんわりと掴まれた手首が解放された。
「月岡に近づくなっていう話さ。昨日何度もやらかしてるだろ」
「そうだけど……」
第三者からフェロモンの誤爆を指摘されるだけで、テンションが一気にだだ下がりした。
「昨日の昼休み、校庭でサッカーしてたんだ。おまえのフェロモンのせいで、ムダにたぎっちまって、パスをミスったんだぞ」
(あ、そうか。コイツはアルファだから、ほかのヤツとは違った反応をするんだな)
「悪かった。だけど悠真に近づくなっていうのは、極端な話じゃないのか?」
「朝から担任に呼ばれた。西野になにがあったんだって聞かれたんだぞ」
「迷惑かけたな、それは」
問題児の俺じゃなく、副委員長の佐伯に担任からアクセスがあったってことは、あとから俺にも話を聞く流れになるだろう。
「おまえのやらかしは、部活のストレスってことにしてやった。だけど、本当の理由はわかってる」
佐伯は至極真面目な顔で両手にハートマークを作り、顎で斜め前を指し示した。
「西野は月岡にこれ、なんだろう?」
「ぶっ!」
言葉にしない代わりに、真面目な顔をキープしたままハートマークを作る佐伯がおもしろすぎて、思わず吹いてしまった。
(――ハートマークって、 俺の恋が佐伯にバレてるのかよ⁉)
「ちなみに、クラスメイト全員が周知しているからな」
「なんでっ?」
「なんでって昨日の朝のやり取りを見たら、誰だってわかる。お互い弁当持参してるのに、わざわざ購買のパン食べようって誘うとか、個人的に仲良くしたいって、みんなにバラしてるようなものだろ」
佐伯は肩を竦めながら、やれやれといった様相で大きなため息をついた。
「朝の教室だけじゃなく昼休みの校庭、そして放課後の体育館。おまえのフェロモンは学校を巻き込んで混乱させた。西野が月岡に近づかなければ、俺もパスミスせずに済むしな」
「悪かったよ! でも悠真に近づくの禁止はやりすぎだろ!」
机を叩きながら反論したら、佐伯が俺の手を掴み、無理やり動きを止めた。
「やりすぎじゃない。むしろ頭を冷やせ」
なぁんて冷たく一蹴する。
「とにかく今日の昼休み、詳しい話し合いをするから時間をとってくれ。それまで月岡には近づくなよ。わかったな?」
ビシッと俺の顔に指を差して命令し、格好よく去って行った佐伯。かくて俺から悠真に朝の挨拶することもできず、悶々と時間を過ごすしかなかった。




