プロローグ
この世には、アルファ・ベタ・オメガというバース性が存在する。近年、アルファの出生率が減っている中で、俺がアルファで生まれた際は両親はもちろん、親戚までそろって大喜びだったらしい。
「人の先頭に立って、あたたかく導ける存在になってほしい」――そんな願いを込めて、俺は『陽太』と名付けられた。
アルファの父から英才教育を受け、フェロモンを使ってほかのアルファを牽制したり、ベタやオメガを惹きつけて、自分の駒にする方法を教わった。
でも正直、そんなことに俺はまるで興味がなかった。俺はただ、出逢う人たちみんなと仲良くできればいいと思っていた。
それなのに、アルファのフェロモンはそれを許してくれなかった。感情が昂ると勝手に溢れ出て、オメガたちが俺を巡って取り合いをはじめたり、ほかのアルファが喧嘩をしかけてきたこともあった。
子どもの頃は、そんなことがしょっちゅうだった。だけど年を重ねるごとに、フェロモンも少しずつコントロールできるようになってからは、なんとか普通に学校生活を送れるようになった。
青陵高校に入学したとき、いつか運命の番に出逢えるかもしれないと、胸をワクワクさせながら、新しい日々をスタートさせた。
アルファのリーダーシップを活かしてクラスを盛り上げ、2年になった今ではクラスメイトから頼られる存在に。フェロモンがきっかけで時々騒ぎを起こしても、俺は笑顔でなんとか乗り越えてきた――クラスメイトの月岡悠真と出逢うまでは。