落語声劇「太閤の猿」
落語声劇「太閤の猿」
台本化:霧夜シオン@吟囁亭喃咄
所要時間:約30分
必要演者数:最低4人
(0:0:4)
(4:0:0)【性別準拠人数比率】
(3:1:0)
(2:2:0)
(1:3:0)
(0:4:0)
※当台本は落語を声劇台本として書き起こしたものです。
よって、性別は全て不問とさせていただきます。
(創作落語や合作などの落語声劇台本はその限りではありません。)
●登場人物
豊臣秀吉:ご存知、猿に似ていると言われた男で、一度は天下を統一し、
朝廷から関白太政大臣の位を授かった、天下人。
百姓あがりから登り詰めた、出世話の引き合いによく出される
人物。
曾呂利新左衛門:実在の人物かは怪しまれているが、堺の会合衆の一人で
一度は綺麗に家財を使い果たしてのち、鞘師(刀の鞘を
作る職人)となった男。
刀の刀身が鞘を出入りする際にそろり、そろりと音がし
ない事を自慢の種として曽呂利新左衛門と名乗るように
なる。信長の死後、堺衆が街を上げて秀吉の後ろ盾と
なった時、千利休らと共に仕えて御伽衆となった、
頭脳の冴え鋭い人物。
福島正則:秀吉子飼いの武将で、非常に気性の荒い人物。
賤ケ岳七本槍の筆頭に挙げられる男。
実母が秀吉の母の妹にあたる。
加藤清正:秀吉子飼いの武将で、福島正則と並ぶ武勇の持ち主。
賤ケ岳七本槍の一人。熊本城を築城し、内政面にも優れた才覚
を発揮したことで領土の民から後に清正公、神として崇められ
る。
伊達政宗:二十年早く生まれていれば天下を取っていたかもしれない、と
評される人物。幼い頃に病の為片目を失っている。この為、
奥州の独眼竜とあだ名される。秀吉の小田原征伐を期に帰順し
ている。
武村三左衛門:詳細は不明。この落語の創作の人物と思われる。
百姓:丹波の国(現在の兵庫県篠山市(多紀郡)、氷上郡と京都府の三市
三郡の総称で、一般的には兵庫丹波、京都丹波と呼ばれている)で
白い毛の猿と共に生活している百姓。
猿:丹波の百姓と共に日々暮らしていたのだが、曽呂利新左衛門が訪れた
のを契機に身上が恐ろしいほど変わってしまう。
※名前だけ登場
加藤嘉明:豊臣秀吉の臣。賤ヶ岳七本槍の一人。
のちに変転し、徳川政権に仕える事となる。
片桐且元:豊臣秀吉に仕え、賤ヶ岳七本槍の一人。
後に秀吉の子・秀頼の後見役となる。
●配役例
秀吉・百姓:
曽呂利・政宗:
清正・大名1・武村・猿:
正則・大名2・語り(枕含む):
※:猿は台本的に違和感のない部分であれば、
台詞の無い所でも鳴いてOKです。
枕:明治の昔にこんな流行歌がございました。
「♪何をくよくよ川端柳、焦がるる何としょ
水の流れを見て暮らす、東雲のストライキ
さりとは辛いね、てなこと、おっしゃいましたかね~ 」
これは東雲節と言いまして、当時、名古屋の旭新地と言う所に遊郭が
あったんですが、そこで働いている女性の方々がストライキをやった
、その際にできた歌でございます。
しかし、その源流はさらに昔の安土桃山の時代、豊臣秀吉が天下人と
して権勢を誇り、周囲を睥睨していた頃にあるのだそうです。
ここはひとつ、歴史探訪という形でルーツを探ってみましょう。
てなわけで早速やってまいりました、五層八階の豪華絢爛たる大阪城
、太閤秀吉の居間にて。
秀吉:これ、新左衛門。
曽呂利:はっ。
秀吉:世間にはへつらう、ということがあるが、
それは良き事か、悪しき事か、どうじゃな?
曽呂利:恐れながら申し上げます。
へつらうというのは下世話で申しますと、喉元に入るという事、
いわゆるおべんちゃらにてございます。
へつらうのは悪しき事ゆえ、武士におきましては忌むべきことと
存じます。
秀吉:ふむ。
ならばそちは、へつらわぬな?
曽呂利:申すまでも無き事、いかで殿下の前でへつらいましょうや。
秀吉:では新左、そちに問うが、世間では余が猿に似ていると申しておる
そうじゃな。
それは誠か?
曽呂利:!!
語り:いくらへつらうな、おべんちゃら言うな、と忖度禁止されてるとは
いえ、目の前に猿面冠者とあだ名された、猿そっくりな顔があるわ
けです。
けれど正直に「いかにも左様でございます。」などと言ったが最期
、即刻打ち首は免れない。
実際に聚楽第の壁に批判の落書きをされた時、秀吉は当日警備して
いた者十七人と、下手人探しの際に直接は関わりのなかった六十名
以上を、六条河原で処刑したくらいです。
しかしそこは堺衆の中でも一、二を争う頭のキレを持つ曽呂利新左
衛門、澄まして答えます。
曽呂利:恐れながら申し上げます。
殿下が猿に似ている、という事ではございませぬ。
猿が幸いにも、殿下に似たものかと存じまする。
秀吉:ほう、なるほどの。
余が猿に似ているのではなく、猿の方が余に似ていると申すか。
面白い。ならば新左、そちに命ずる。
余にそっくりな猿を探して参れ!
曽呂利:はっ、ははぁーッ!
語り:さぁ難儀なのは新左衛門です。
あちこち捜しまわってどんな猿を連れて来てみても、
顔はぴったり似ている。
しかしその他にもう一つ、同じでなければならないというのがあり
ました。
曽呂利:むむむ…顔はどれも同じだが、背丈が合わぬ…!
とはいえあまり殿下をお待たせすると、今度はこっちの首が飛ん
で背丈が合わぬ、などという事にもなりかねぬ…。
武村:おお、ここにおったか!
曽呂利:これは武村様、いかがなされました?
武村:見つかったぞ新左!
曽呂利:えっ! 見つかったとは!?
武村:丹波じゃ!
丹波の国に住む百姓が、殿下によく似た背丈格好の猿と暮らしてお
るそうだ!
曽呂利:なんと、これは吉報でございますぞ!
武村様、よくぞ捜し出して下さりました!
曽呂利新三、これこの通り、感謝申し上げまする!
武村:ははは、もっとありがたがっても良いぞ!
して、すぐに向かうのか?
曽呂利:無論にございます。
他の者の耳に入る前にソロリとひと発ち、
新左めがその猿を譲ってもらって参りましょう。
武村:うむ、それがしは他に務めがあるゆえ、大阪を離れられぬ。
そなたがやらねばなるまい。
曽呂利:万事お任せあれ。
では、支度にかかりますゆえ、これにて…。
語り:条件を満たした猿をついに探し当て、曽呂利ははやる気持ちを抑え
丹波の国へと乗り込みました。
曽呂利:この家だな。
猿は…おお、あれか!
確かに背丈も同じだ!
百姓:どなたかね?
見慣れねえお方だが、どちらから来られただか?
曽呂利:おお、こちらの家主か。
わしは堺の曾呂利新左衛門と申して、太閤殿下の御伽衆を務めて
おる者じゃ。
実は今日は、家主殿に頼みの儀があってまかり越した次第で。
百姓:えっ、た、太閤殿下の!?
天下様がい、いったい、何のご用で?
曽呂利:実は殿下がその猿をご所望ゆえ、譲ってもらいたいのじゃ。
ただでとは申さぬ。
三百両ならばどうであろうか?
百姓:さ、さ、さ、三百両で!?
そ、それでしたらえぇ、そりゃあもう、喜んでお譲りしますだ。
曽呂利:おお、これでわしの首もつながった!
百姓:? 首がつながった…てのは、どういうわけで?
曽呂利:ああいや、お気になされるな。
では、確かにこの猿は引き取りますぞ。
語り:かくして曽呂利は猿を連れて大阪に戻ると、さっそく目通りします
。秀吉も一目見ていたく気に入った様子。
秀吉:おおぉ、愛い奴じゃの!
その猿めが余にそっくりだと申すか。
よし、ではその猿を余と同じ風体にし、同じ扱いを致せ。
良いな!
曽呂利:ははぁーっ。
では猿殿はこちらへ。
【二拍】
まず、お召し替えから参りまする。
武村様、ご用意は整うてござりますか?
武村:うむ、殿下と全く同じ御召し物をこれへ用意いたした。
白羽二重の衣類、紫の踏込袴、角襟の羽織じゃ。
これ、女中たちはお召し替えを致せ。
【二拍】
曽呂利:ふーむ…いやあ…武村様、これは…。
武村:うむ…、我らは最初の姿から見ておるゆえ良いものの、
他の者には殿下と見分けがつかぬぞ…まるで影武者じゃ。
おお、どうやら終わったようだな。
では、最後に中啓を持たせて…。
曽呂利:いざ、殿下に再び拝謁致させましょう。
【二拍】
殿下、用意が整いましてございまする。
秀吉:おお、入って参れ!
【二拍】
ん? んんん?
おおぉ! これは面白い!
よしッ、それでは武村三左、そちの家へ預けるゆえ、
余と思うて粗略の無いように致せよ!
武村:はっ、ははぁぁーーッッ!!
語り:こうして太閤豊臣秀吉そっくりの猿が誕生したわけです。
曽呂利は災難のお役御免、次は武村三左衛門が引き受ける羽目にな
ってしまいました。
同じ人間を預かるのと違って相手は猿、しかも太閤秀吉ご寵愛とき
ている上に、余と同じ扱いをせよとのおまけつき。
猿に万一のことあれば自分の切腹のみならず、一族に禍が及ぶやも
しれません。
武村:むむむ、参ったのう…。
よし、まずは鳥屋を作って四方に見張りを立たせねばなる
まい。
それから三度の食事は殿下と同じものを用意するよう、お台所に
伝えねばならん。
曾呂利:武村様、殿下の仰せにて、本日より毎日猿を連れて余の元へ参る
ように、とのことです。
武村:そうか…相分かった。
【二拍】
殿下、猿めを連れてまいりましてございます。
秀吉:おお、来たか!
今日はの、城の百閒廊下を歩かせてみようと思うての。
武村:は、はぁ…。
秀吉:よし、付いて参れ!
【二拍】
よいか、そちは余の少し後を余と同じように歩くのじゃ。
武村:で、殿下、これはいったい…。
秀吉:まぁ見ておれ。
大名1:おお、向こうから来られるのは殿下ではないか。
ははぁーっ。
秀吉:んっ、よぉ来たの!
後から来るのは余の猿じゃ。
大名1:おお、これが殿下ご寵愛の猿めにござりまするか!
ははぁーっ。
いやあ、殿下によく似ておりまするなぁ。
秀吉:そうであろう、そうであろう。
んっ、大儀である!
大名1:ははぁーっ。
秀吉:余と猿に二度頭を下げおった。
…! そうじゃ! 面白いことを思いついたぞよ。
武村:(またよからぬことではあるまいか…。)
語り:それから4、5日同じことを繰り返したあと、何を思ったか、
今度は猿を先頭に立て、自分はその後ろを歩いたのである。
秀吉:ふふふ、よもや順番が入れ替わっているとは思うまい。
大名2:おっ、これはいかん、殿下がお越しになられた。
ははぁーっ。
秀吉:こりゃこりゃ、それは余の猿じゃ。
余はここじゃぞ。
大名2:うっ、こ、これはとんだご無礼を!!
なにとぞお許しくださいませ!!
秀吉:ははは、よいよい。
試みは大成功じゃ、ははは!
大名2:は、はぁ…。
武村:(やっぱりよからぬことだった…)
語り:とまぁ、しょうもない事で喜んでいましたが、偉い人という者は
えてしてそんな面があるものです。
やがてそれにも飽きた秀吉は、今度は袋竹刀を猿に持たせ、
人の首筋を打ち据えるという、物騒な芸を仕込んだのでございま
す。
武村:ここ数日、殿下が何やらまた猿に仕込んでいたようだが…。
またよからぬことでは…。
お召しにより、参上いたしました。
殿下、武村三左衛門、罷り越してございます。
秀吉:おお武村、参ったか!
【猿に向けて】
よし、行けッ。
武村:?
っづぅっっ!?!
秀吉:うきゃきゃきゃ、どうじゃ武村!
余の合図で、こやつに袋竹刀で人の首筋を打つことを仕込んだのじ
ゃ!
武村:(ああ、またしても…。)
さ、さようでございましたか。
さすがは殿下ご寵愛の猿、物覚えが良うござりまするなぁ。
秀吉:うむ、余に似ておるのは風体だけでなく、湧き上がる知恵の泉もで
あったようじゃのぉ!
よし三左、そちは脇に控えておれ。
今から清正が目通りに参るゆえな。
清正:殿下、加藤主計頭清正にござりまする!
秀吉:おお~清正! よぉ来たのぉ!
さ、ずっと近う!
清正:ははっ。
【一拍】
うるわしきご尊顔を拝し、恐悦至極に存じ上げ奉りまする。
秀吉:うむ!
【猿に向けて】
よし、行けッ。
清正:?
!!?ッッッ!!
こ、これは殿下ご寵愛の!
ははぁ~ッ。
秀吉:うきゃきゃきゃ、清正もこ奴の前では形無しじゃの!
どれ、次は確か、正則が来るはずじゃな!
正則:殿下! 福島左衛門尉正則、罷り越してございます!!
秀吉:おおっ、正則もよぉ来たのぉ!
これへこれへ!
正則:はっ!
【一泊】
殿下にはうるわしきご尊顔の態を拝し、誠に恐悦至極!!
秀吉:うむ!
【猿に向けて】
よし、行けッ。
正則:??
!!?ゥっヌッ!!
な、何ごとじゃ!?
清正:【声を抑えて】
左衛門尉殿、ご辛抱でござる!
殿下ご寵愛の猿めにござるぞ!
正則:う、うぐぬぬ…!
【声を抑えて】
済まぬ主計頭、よくぞ止めてくれた。
感謝いたす。
これはこれは殿下御寵愛の猿めにござりましたか!
ははぁ~ッ!
秀吉:うきゃきゃきゃきゃ、これは面白いわい!!
どぉれ、他の者にも試してみるかのう!
語り:いやはや、配下の大名達にしてみればさんざんな有様で。
猿がいかなる事をしたとて、殿下の顔色をうかがって怒るにも怒れ
んわけでございます。
このあと登城した同じ賤ケ岳七本槍の加藤嘉明、片桐市正且元らも
同様に首筋を猿に叩かれたのは申すまでも無き事ながら、ここでは
割愛と相成ります。
さて、一連の噂はついに奥州の独眼竜とあだ名された、この人物の
耳にも入りました。ご存知、伊達政宗公であります。
政宗:【独り言】
太閤が猿に袋竹刀を持たせ、大名を打ち据えて悦に入っているだと?
フン、あの狒狒親父め、猿が猿に芸を仕込むとは沙汰の限りよ…。
【周囲に向かって】
いかに殿下の御寵愛なされている猿と言えど、我ら大名を打つとは
誠にもってけしからぬ仕儀だ。
このままでは捨て置けぬゆえ、それがしが諫めて参ろう。
大名1:だ、伊達殿、そのような事をしては…!
大名2:そうですぞ! 殿下のご逆鱗に触れるようなことがあれば、
首がいくつあっても足りませぬぞ!
政宗:はっははは、お歴歴のご心配はもっともな事ながら、それがしに
いささか考えもござるゆえ。
確か、その猿の世話をしているのは武村三左衛門殿でござったな?
大名1:いかにも、かの仁が昼夜世話をしておるとか。
大名2:武村殿も災難じゃ。
いきなり猿の世話をする羽目になるとはのう。
政宗:ふむ…ではお歴歴、それがしはこれより所用がござるゆえ、御免
。
【二拍】
天下を我が物にしてそれで終わりとは…所詮は猿よ。
わしならば、世界を目指すものを…、おお、ここだな。
武村殿はおられるか!
伊達政宗にござる!!
武村:こ、これはこれは伊達様!
それがしなどの屋敷にいったい、どのような用向きで…?
政宗:なに、近ごろ貴殿は殿下より猿の世話を命じられておるとか。
武村:はい、殿下御寵愛の猿にございます。
政宗:わしは明日登城するのだが、その前に件の猿にひと目会うておきた
くてのう。
武村:せっかくのお申し条ではございますが、万一の事あらばそれがしめ
が腹掻っ捌かねばなりませぬゆえ、平にご容赦を…——
政宗:【↑の語尾をさえぎるように】
いやいや、分かっておる分かっておる。
明日、城中でお会いすることになっておるが、前もってお顔だけで
も拝見したいのじゃ。
無論、ただでとは言わぬ。
【背後に控える家来に向かって】
おいッ、菓子折りをお渡ししろ!
いや、手土産代わりと言っては何だが、山吹色の菓子を持参いたし
た。
これじゃ、【若干強調して】快く納めてくれい。
武村:は…菓子でございますか……ッッッ!!?
【つぶやく】
こ、これは、小判ではないか!!?
しかもこんな大枚を…!
政宗:二百ほど持参いたしたゆえ、家中一党に振舞ってやるとよろしかろ
う。
そういうわけで…よろしいかな?
武村:は、ははっ。
では、こちらへ…。
語り:いつの世にも袖の下というものはございまして。
地獄の沙汰も金次第、政宗公から二百両という大金を受け取った
武村は、いそいそと猿のいる鳥屋の前まで案内したのであります。
武村:伊達様、こちらでございます。
政宗:ほう、鳥屋があるな。
この中におるのか?
武村:はい。
賢いと申してもなにぶん猿でございますれば、何かの拍子に逃げ出
さぬとも限らぬゆえ、こうしておる次第でございます。
政宗:なるほどのぉ。
いや、お役目ご苦労にござる。
武村:ではそれがしは下がっておりますゆえ、ご用が済み次第お呼びくだ
され。
政宗:おう、承知した。
【二拍】
さて…。
【扉を勢いよく開け放ち】
ッッ!!
これッ、その方か!!
殿下の命とはいえ、大名どもを袋竹刀で打ち据えておるのは!!
ぬんッ!!
猿:ウギャッ、ギャギャギャッ!!?
政宗:わしが他の大名どもに代わって懲らしめてくれるわ!!
でええええいッッ!!
猿:ウギャャャァァーーーー!!
語り:政宗公、鳥屋の扉を勢いよく開け放つや否や、中にいた猿の首筋を
むんずと引っ掴み、畳の目にまるで大根でもすりおろすかのように
ゴシゴシゴシゴシと鼻の頭が尻と同じくらい赤くなるまで擦り付け
たのです。
猿が大人しくなったのを見て、政宗公はぐいっと己の顔を猿の目の
前へ持って行きます。
政宗:よいか。
明日登城の折、もし万一わしを打てば決して捨て置かぬぞ。
その場において八つ裂きに引ッ裂いてくれる!!
この顔をよぉく覚えておけ! よいかッッ!!
猿:ギッ、ギギィッ!
政宗:分かったか? 分かったなら、大人しゅう入っておれッッ!
【二拍】
これでよし…。
語り:さて明くる日、政宗公は威儀を正して大阪城へ登城。
いよいよ太閤殿下へのお目通りです。
政宗:伊達越前守政宗にござりまする。
殿下にはうるわしきご尊顔の態を拝し、恐悦至極に存じ奉ります。
秀吉:おぉおぉ、伊達殿か! よぉ来られた!
ささ、ずっと近う!
政宗:ははっ。
秀吉:よし…行けッ。
政宗:【つぶやく】
来たな…!
ぬぅぅぅッッ…!!
猿:う、ウキャッ!!?
秀吉:む? なぜ打たん?
しかも政宗めの睨み返しに怯えて逃げ戻ってくるとは…?
行けッ。
猿:キ、キキッ…!
政宗:ぬぅぅぅぅ…!
猿:キキッ…キキャッ…!
秀吉:むむぅ?
なぜじゃ、なぜ行かん?
——えぇい行けッ。
政宗:ぬぅぅぅぅッ…!
秀吉:行けッ。
政宗:ぬぅぅぅぅッッ…!
秀吉:行けッ。
語り:猿行けッ、行きゃ睨まれて戻りゃ猿行け、
行きゃ睨まれて戻りゃ猿行け……。
秀吉と政宗、意地の張り合いの板挟み、
その間を行ったり来たりの猿が一番辛かった。
そこで歌が出来たとさ。
「猿とは、辛いね」
♪てなことおっしゃいましたかね~。
終劇
参考にした落語口演の噺家演者様等(敬称略)
桐のーうだん
森乃福郎(初代)
落語散歩 http://sakamitisanpo.g.dgdg.jp/
落語ばなし https://rakugonobutai.web.fc2.com/index.html
世紀末亭 http://kamigata.fan.coocan.jp/index.htm
※用語解説
・東雲節
1900年(明治33)頃から流行したはやり唄。
源流は演歌師の鉄石・不知山人の「ストライキ節」。
名古屋の娼妓東雲が米人宣教師の助力で退楼した事件によるという。また、
熊本県二本木遊郭の「東雲楼」でのストライキから、ともいうが、どちらも
信憑性はない。
・べんちゃら
おべっか。追従。世辞。おもねりへつらうこと。
口先ばかりのお世辞を言って相手にへつらうこと。弁巧をもってチャラチャ
ラ言う意から出た言葉か。東京ではおもに上役におべっかを使う嫌な奴の意
に用いているが、大阪ではその意味がずっと軽くなって、単なる世辞の意に
使う。
・羽二重
経・緯糸に撚りをかけない生糸を用いて平織りにした、
あと練りの絹織物。柔らかく上品な光沢がある。着尺・羽尺・胴裏地などに
用いる。
・踏込袴
踏込袴は裾を次第に細く仕立てたもので裾細袴ともいう。
信長、秀吉の頃から直垂の下に用いていたともいわれ、
野袴の一種であり徳川時代には半袴の代わりに武士の用いるものとなった。
・角襟
和服で方形の襟。道行などの襟。
・中啓
儀式の際に用いる扇。親骨の先を外側に曲げ、閉じた扇の先が中びらきに
なっているもの。
・袋竹刀
竹刀の一種。
竹を割って束ね、革袋をかぶせて刀に模したもの。
新陰流・柳生流で多く用いられた。
・恐悦
かしこまり喜ぶこと。感謝を述べるときに多く用いる。
「恐悦至極に存じます」
・言い条
言うべきことがら。言い分。
「とは言い条」の形で、とはいうものの。とはいっても。言う条。
・捨て置く
捨てておく。ほうっておく。取り上げない。




