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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

蝶々姫シリーズ

【シャロアンス誕生日2023】彼の背中、僕の秘密

作者: 薄氷恋

世界暦─1400年代─

小さく豊かな国カテュリアを狙うベラ大陸戦争を1人で収めたフィローリとその原動力になったシャロアンスのお話。

シャロアンス誕生日記念2023書き下ろしです。


 僕、フィローリにはシャロアンスに言えない秘密がある。

 それは彼と、初めてこのカテュリアに来た時の事。

 42歳の春に起きた事件。ベラ大陸戦争の真っ只中。


 ◆◆◆


「あんの連中! カティがあると知ってて山に火ィ着けやがった!」

 シャロアンスは僕が採取した薬草・カティを氷で包みながら毒づいた。

 ベラ大陸戦争の尖兵、シルオンナートの兵達は、すぐそこまで来ていたが、薬草でありながら毒花粉を持つカティがあると気付くと、奴らは風上からカテイル山に火を放った。

 僕らは風で毒花粉からも、煙からも身を守りながら、カティの保護を急ぐ。

 ごつごつした山肌を掘る僕の小さな手はもう泥まみれ、爪も剥がれて血塗れだ。

 手袋は尖った石にひっかけて破れたのでとっくに捨てた。

「フィー! もう山に火が回るぞ!」

「シャロ! これで終わり……っ」

 あまりの非常事態に頭がパニックで、メキメキ…という音に、僕は気が付かなかった。

 土を掘る僕の上に赤い影が差した。

「ぐぁっ……!!」

 上がる悲鳴。

「え…?」

 見上げた僕の目に飛び込んで来たのは、燃えて倒れた木を背中で支えるシャロだった。

「シャロ!? シャロ!!」

 僕が風で倒木を吹き飛ばすと、シャロは座っていた僕の膝に頭を乗せるようにドサリと倒れ込んだ。

 その彼の背中が、真っ赤に焼け爛れている。

「シャローーーーー!!!!!」

「居たぞ! カテュリアの残党かもしれないから捕らえろ!」

 丁度、シルオンナートの兵が焼け落ちた森から顔を出した。

 その兵の手に斧があるのを見て、僕は生まれて初めて滂沱のごとく涙を流しながら叫んだ。

「お前達……! 僕の(・・)シャロになんて事をーーー!!」

 風が暴走して竜巻を起こす。

 竜巻は山火事を消しながらシルオンナート兵を切り刻んだ。飛び散る血。

 でも、そんなもの(・・・・・)僕は見ていなかった。

「ああああああ!! シャロ!シャロ!!!」

 シャロの頭を掻き抱いたまま、僕は完全に暴走していた。

 誰かが剣の柄で僕の頭を背後から小突くまで。


 ゴツン!


「……?」

 涙に濡れた顔を拭いもせずに振り向くと、粗野としか言い様がない甲冑に身を包んだおっさんが剣の柄をこちらに向けたまま、片手でシャロアンスを指し示した。

「おい、精霊のガキ! いつまで暴走していやがる? その兄ちゃんを死なせる気か!?」

「死ぬ……? シャロが、死ぬ…!? 嫌だ!! 嫌だぁ!!」

 僕は泣いた。人の為に泣いた事のない僕が、シャロを喪う可能性に怯えて泣いた。

「嫌なら人様の土地を竜巻で吹き飛ばしてないで止めろ! アンネッタ! この怪我人の応急処置を! 終わったら帰城して本格的に手当てするぞ!」

「はい! 陛下!」

 アンネッタと呼ばれた戦闘服を着た黒髪の女性が僕の側に来て、腰のポーチから油紙を持ち出してシャロアンスの焼け爛れた背中に貼った。

 他の女性も手伝って、シャロの胴に布を巻いていく。手際がいい。戦慣れしているのか。

「陛下……?」

 僕は呆然と剣を担いだ粗野なおっさんを見る。

「お前ら、俺の顔も知らねえのか? 俺はカテュリア国王サンディーヤ三世。そこのアンネッタは俺の后だ」

 無精髭を生やした金髪のおっさんはそう言って、片目を瞑ってみせた。

 なんだかエルディみたいな人だ、そう思いながら……僕は意識を手放した。


 ◆◆◆


 次に目覚めた時は城の中だった。

 大人が5人は並んで眠れそうな大きな寝台の上、シャロは裸の背中に包帯を巻かれてうつ伏せに寝かされていて。その隣に僕が寝かされていた。

 僕は僕で、指を手当てされたのか手を包帯でぐるぐる巻きにされていた。

「気がついた?」

 戦闘服のままの黒髪の女性・アンネッタ王后が窓際に座っていた。アンネッタはにこりと微笑むと、立ち上がり寝台の傍に座った。

「あれから2日、あなたたちは眠っていたのよ。ここは王の寝室。王はカティを保護してくれたあなたたちに最大限出来る事をしたわ。そうね、例えばあなたのお兄さんを助けたり、氷漬けになっていたカティを運んだりしたわ」

「あ、あの。シャロアンスと僕は42歳で同い年です。兄じゃなくて親友です」

「まあ! そうなの? わたくしより年上ね。でもあなたはどう見ても子供に見えるわ。あなたは精霊よね?」

「はい。助けて頂きありがとうございました。僕は風の精霊のフィローリ・アーシャ。こっちの彼は氷の精霊のシャロアンス・シアリーといいます。カティ保護の為、ルクラァンから来ました。勝手に山に入って申し訳ございません」

「礼儀正しいのね。それは我が王にも言ってくださる? サンディーヤが待ちかねてるわ」

「陛下にお目通り出来ますか?」

「勿論よ」


 そして僕は誓ったのだ。

 シャロの怪我を治すため、膨大な魔力を手に入れる為に……サンディーヤ王の守護者になると。

 シャロの為なら故郷を失くしたって一向に構わなかった。


 まずは試しにと、サンディーヤと共に城を出て、カテュリアを侵略していた兵達、一個師団約9000名を血祭りに上げて、そのはらわたを風に乗せてシルオンナートへ送り返してみせた。

 シルオンナートの民は震え上がり、サンディーヤは喜ぶと同時に僕を恐れた。


 それからそう間もなく、シルオンナートは陥落した。カテュリアをシルオンナートと共に侵略していた他の国は倣うように白旗を掲げた。



 膨大な魔力を手に入れた僕は、まだうつ伏せて眠るシャロの包帯を解いて、ケロイド状になりかけた背中にキスをした。

 僕はまだ手がぐるぐる巻きだからだ。

 目の前に大火傷をしたシャロが居るのに、僕の治療になんて勿体無くて魔力を割けない。

 だから唇から魔力を注ぎ込む、が、上手くいかない。

 治癒魔法なんて初めてだから、こんなものかもしれない。

 ちゅ、ちゅ、とキスを繰り返す。

 ぽぅっと治癒魔法が発動した時はただひたすらに嬉しかった。


 彼の治療には時間が掛かったが、傷跡一つなく癒せた。


 その後、目を覚ました彼と城の浴場を借り、気が付いた。


 湯に浸かって体温が上がったシャロアンスの背中には、僕が治癒魔法を使った痕跡が赤い薔薇の様に咲いていた。


 まだ、彼自身はその事を知らない。

彼は氷の精霊だから、体温がすぐ下がる。そうしたら赤い痕跡も消えるだろう。


「ん? 俺の背中になんか付いてる?」

「ううん、何も。火傷の痕が残らなくて良かったなって思って」


 知らないでいいんだ。

 シャロが僕のものみたいで、気分がいい。

 これが、僕の秘密。内緒だよ__。


 ─end─

この頃のフィローリは外見年齢10歳くらい。

シャロアンスは外見年齢22歳くらい。

サンディーヤは人間なのでそのまんま34歳。

サンディーヤをおっさん呼ばわりしてるけど、ちいさいフィローリにはおっさんに見えたからです。


誕生日記念なのに、なんでこんなにシャロかわいそうなの?

作者も困惑を隠せない。

こんな歳から拗らせてたフィローリが悪い。


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