両親が2人ともオタク過ぎて、何言ってるのか分からない
「いいか、漫画やアニメは人生の教科書なんだ。例えばジークジオンとはジオン万歳という意味なんだが、そもそも元ネタはZIONではなくZIONでありZionismへと続いている。では、シオニズムとはなにか。それはパレスチナという国に、ユダヤ人が自分たちの国を取り戻す活動を指している。ここで重要な事は、この場合のユダヤ人が民族的なものだけではなく、宗教的な存在も含んでいる事。つまり大半のユダヤ人の先祖は、別にこの地に住んでいなかった訳だ。しかも当初アラブ人は彼らと共存しようとしていたのに、そんな彼らを武力を持って弾圧して西欧諸国の都合だけでイスラエルを建国したんだ。こういった事情を知ってるからアラブ人は彼らを嫌っている訳なんだな。このように一方の主観だけで物事を判断することが如何に危険なことか、それをガンダムは教えてくれるんだ」
「父さん、教えてくれてありがとう。でも……多分そこはテスト範囲外だと思う」
家で勉強してたら父親に声を掛けられた。その内容がこれである。
何言ってるのか分からないが、世界史の範囲外って事は分かる。
ってか、父親が手に持ってるゲームソフトがガンダムだから、もしかしたら一緒に遊びたいのかも知れない。
「そうよアナタ。勉強の邪魔をしちゃダメでしょ。そんなに暇なら家事の手伝いをしてよ」
母親から援護された。
「家事は大変なものだ。それは良く分かる…………だが、断る」
「……ギアスの力をもって命ずる。今すぐ皿洗いをしなさい」
「くっ……オレンジめ」
そんな事をほざきながら、父親は台所で洗い物をはじめた。
「つうか、アレだな。こうやって家事をしてると、美少女メイドが欲しくなるよな」
「それも悪くないけど、そこはイケメン執事でしょ。セバスチャンならいちいち言わなくても、全部やってくれるもの」
「おいおい……大丈夫か? いつから両足が悪くなったんだ」
「もう、いくら私が可愛いからってクララと間違えてるわ。思わず右眼が疼くじゃない」
「ここがファントムハイヴ家じゃないなら、コンタクトの所為じゃないか。それより、執事と言えば長瀬源四郎だろ」
「誰だそいつは」
「えっ……? 長瀬源四郎をご存知ではない?」
「……マウントとってるけど、どうせエロゲでしょ」
「いや……全年齢対応にもなってるし。まあ、来栖川家の執事。作中じゃセバスチャンとしか呼ばれないから、プレイヤーですら本名を忘れてしまうキャラなんだ。因みにロマンスグレーの渋いおじさんだぞ」
「なにそれ、凄くいいじゃない。2人のセバスチャンが出会い、そして台所に立つ姿を想像したけど……いい。凄くいい」
「語彙力が行方不明になってるぞ。カリオストロ公国で盗まれたんじゃないか」
「ん? 語彙力なら箪笥の引き出し、下から二段目にしまってあるわよ。遥か昔にしまったから、カビてるんじゃない」
「白銀マジかよ」
「ウチの箪笥、風組じゃないから」
風組ってなんだろ。
宝塚のことかな。
「アレ、マジだけ風組のバッチ違うんだよな。もしもマジと銀次と堂島の龍が共闘したら、ホテル・モスクワといい勝負になった可能性が微レ存」
「マ?」
「なんでいきなりアナグマ語?」
「そんなアルベド語みたいにいわれても分からないんだけど」
よかった。母親にも分からないことがあるみたいだ。
まあ、その母親が言ってることも分からないけど。
「あー、FFじゃなくLOMな。聖剣伝説にアナグマ族が出てくるんだけど、そんなような言葉を使うんだ。ちな、ゲーム内でそのアナグマ語を解読したりするところとか、普通に面倒だった」
「そーなのかー」
「ルーミアといえば、二次創作物でルーミアが大人になったやつ知ってる?」
「知ってる知ってる! 霊夢や魔理沙がまだ小さい頃のやつでしょ!」
「そうそう。あれ、最期めっちゃ泣けた」
「分かるー! 人を食べなきゃ生きれない妖怪と、本来なら食べられる側の人間。両者がまるで親子みたいに仲良くなっていくからこその葛藤が、もうウルっときちゃう」
「だよな。妖怪と人間なら『うしおととら』も良い話が沢山あるけど」
「うんうん。ハンバーガー食べてるとらは可愛いよね。ニャンコ先生といい勝負。あ、夕食はハンバーガーにする?」
「まあ……なんでもいいけど」
父親は口に出した。
心の中でそれに同意しておく。
「お? ホントにいいのね。じゃ、今晩の夕食はチタタプにします。みんな協力するように」
母親はよく分からないことを言ってる。
「ヒンナヒンナ……ってか、あの作品も元ネタは色々とヤバイよな。江戸貝くんの元ネタとか」
「エド・ゲインだっけ?」
「そうそう。母親が『エッチなのはいけないと思います』って禁欲を子供に教え込ませた結果が、アレだからな」
「言ってることはマホロさんみたいなのにね」
「やってることは、イスカリオテよりヤバイ気がする」
「ヴァチカン法務局特務機関第13課よりヤバイって、相当だから。でも、あの作品に出てくる少佐は好き」
「ほう、いい趣味じゃないか。個人的には同じ少佐なら、公安9課の少佐がいいが」
「私が言いたいのは、男性なところがいいの。ムトーとナインティーンみたいに妄想が膨らむじゃない」
「そうか? ナインティーンにはパメラ要素があるが、少佐の元がモンティナなら絶望的だろ。同性愛厳禁のナチスだし」
「節子。それは現実や、創作物ちゃう」
母親がそう言うけど、知らぬ間に父親は改名したのだろうか。
「それはそう。風間真とか搭乗員込みで空母を個人で購入した挙句、それを気軽にプレゼントしてるが、実際のところ空母単体で運用とか撃沈してくださいって言ってるようなものだからな」
「いきなりカザシンについて語り出したと思ったが、そんなことはなかった」
「ここ、春日部じゃねーから」
「そんな、お前の席ねーからみたいに言われても。ってかカザシンで伝わるんだ」
「おい、やめろ。カプ問題は大問題なんだぞ。シンカザ派に狙われるから」
「ホントそれ。昔友達とそれで喧嘩したから。アッシュとエージならアッシュが攻めでエージが受けっていう友達の意見は分かるの。でもさ、そうじゃないじゃん。普段頼り甲斐があるアッシュが、そういう時だけウブっていうのがいい訳。それも相手がエージの時だけね。これを力説したのに、この良さが友達にはミリも伝わらなかったもの」
「解釈不一致あるあるだな。その点、ミリオタは良いぞ。M2ブローニンの良さを力説してるやつに、ブローニンの凄さは機関銃よりそれ専用の弾丸だと思う、って言ったらめっちゃ盛り上がったからな」
「ミリタリーはにわかなので話にならんよ」
全てにおいてにわかですらないので、双方何言ってるのか分からんよ。
「晩成高校のキャプテンかな。奈良はともかく、長野が魔境すぎる作品だよな。個人的に宮守には勝って欲しかった」
「あー、そういうのあるよね。スポーツ漫画だと特に。だから山王vs湘北みたいな試合を生み出せる作者は天才だと思うわ」
「凄く分かる。あの試合はマジで感動した………天才はいる、悔しいが」
「トウカイテイオーは凄いよね。栄光と挫折。そしてどん底からの復活。まさに主人公してる」
「同じチームスピカのゴルシは、実はVtuberとしてかなり古参だったりするしな」
「うんうん。全員主役って感じの作品だよね」
「ほんとそれな。つまりキャラ全てに魅力がある作品は無敵じゃないか」
「なるほど……? 他には?」
「そうだな……FSSとかだな。主人公も魅力的だが、掘り下げて欲しい脇役がとにかく多すぎる。名称やデザインの変更は大人の事情で仕方ないとしても、それを込みですら名作だと思ってるからな」
「うーん。ロボット系は相良軍曹しか分からないかな」
「それも、ふもっふの方だろ」
「そう! あれはめっちゃ面白かった。ずっと笑いっぱなしだったから。あ、あと他にもシャーでしょ。確か赤い……なんとか。えっと、秀一だっけ」
「真実はいつも1つ……ってか。まあ、中の人的には正解だな」
「おぉ、流石わたし」
「魔法科高校の卒業生っていう世界線もあるかもしれない」
「エル・プサイ・コングルゥ」
「それで思い出したけど、ウチのレンジもそろそろ買い替えるか?」
「ヤバ……カッコよ。今だけ魅力増し増しだぁ」
「お、おぅ。気のせいかな、その眼差しはATMを見てる時にそっくりなんだが」
「いつでも自由に残高無制限でお金を引き出せるATMは、世界中の女性からモテモテだと思うわ」
「いや、それ男性からもモテるだろ。とりま密林でポチるか」
「うーん。他にも食材とか買いたいかも」
「おけ。気分はブラッディームーン直前って感じだ」
「あー、そっちは7日に一回だからか。私とか学園生活部に入部してるからね」
「なんだろう。モールに行くのがフラグにしか思えない。ここは令呪を使ってでも止めるべきか」
「使ってもいいけど、残り一回しかないわよ」
「え……? いつの間に2回使ってるんだ」
「私に告白してきた時と、私にプロポーズしてきた時」
「ぐはっ……まさか、令呪の力だったのか。ってか、自分が英霊って部分は容認するんだ」
「当然! 全ての主婦はマスターのサーヴァントなの。マスターの魔力(愛と現金)で活躍するんだから」
「くっ……課金するか。あー、どっかにお金落ちてないかな?」
「100万円なら落ちてる場所知ってるわよ」
「どこ?」
「昭和基地」
「あれは落ちてるんじゃない。報瀬がわざと置いてきてるから、宇宙よりも遠い場所に」
「そうね。ラストまで感動しまくった名作だわ。とりあえず、40秒で支度するからちょい待って」
「いいだろう……3分間待ってやる」
「カップうどんの為なら5分待てる私は、絶対ムスカ大佐より偉いはず」
「……という訳で我らは聖杯戦争に赴く。息子よ……自宅警備員としての責務を果たすがよい」
「どうしても出かける時は、食パンを食べながら行くのよ。そうすれば美少女と出会えるからね」
食パンにそんな効果は付いて無いと思うけど。
「ところで、昔した渾身のプロポーズの台詞はどうだった?」
「ん……? あの『ボクと契約して、幸せなお嫁さんになってよ』ってやつ? 本気でぶっ飛ばそうかと思ったわよ。アナタがジュエル(給料3ヶ月分)を差し出さなかったらね」
「お、おぅ……やはりYOU&Iでも歌うべきだったか」
その言葉に母親が呆れてるところをみると、多分その選択肢も間違ってる気がした。
そんなやり取りをしながら両親は出かけていく。
これがボクの日常だ。
宇宙人も未来人もいないし、異世界に行くこともない。退屈で平穏な日々だ。
でも、ある日突然この日常を壊されたらどうだろう。
失ってから初めて幸せだったと気づくのだろうか。
だとしたら、それはなんか嫌な感じだ。
「壊していいのは不幸だけにして欲しい」
特別な力なんて何も無いボクだけど、いつかこんな日常を支える一員になりたい。
そう、父さんや母さんのように。
まあ、何言ってるのか分からないけど。
おわり