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藍より青く染まりて曰く  作者: ねるこ
第一部 夏休み篇 長期休暇は己と向き合う時間
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07. 遊戯中毒たちの集い(プレオープンパーティ)

 朝、滞りなく起床する。朝の熱気は昼とは別の気怠さを引き起こす。けれどアルスは寝ている場合ではない。

 下町に借りた小さな拠点で寝泊まりしているアルスは軽く身だしなみを整えながら、朝食を軽く調理して腹に入れ、机の上に乗せられた、エリーラからの手紙に目を通す。

 しばらく、タウンハウスの方には帰れなさそうだと、夏期休暇に入ったときにエリーラに家のことを託し、朝早くから夜遅くまで働いて、仮拠点で眠りにつく。

 そんなことを繰り返しているアルスの下に届いたエリーラの手紙には、イルヴァンが一度訪れたことが記されていた。


 王立学院に入ってから毎日のように顔を合わせていたイルヴァンだが、彼は彼で夏期休暇は遠征に赴いたり、強力な魔物の討伐に駆け回ったりするつもりだったそうだ。しばらく遠征に出るため、挨拶に訪れたようだが――残念ながら、顔を合わせる暇はなかった。

 耳に挟んだ話では、イルヴァンは夏期休暇を利用して、もう少し功績を積むつもりであるらしい。王立学院を出て騎士に所属するエリートたちは卒業後に本格的な行動を開始するが、すでに騎士団に席を置いているイルヴァンは、彼らをはるか後方に置き去りにして、そのまま騎士団長にまで上り詰めてしまうのではと言わんばかりの勢いだ。


 落ち着いたら手紙を送ろうと決めて、アルスはそっと便箋を封筒に仕舞って机の上に置きなおすと、丁寧にスーツを整え、髪を結って、迎えにやって来たジェームズと共に中央商店街へと向かった。

 雀荘エル・オーラムに到着すれば、そこにはすでに従業員が揃っていた。きっちりと手入れされた雀卓はぴかぴかと輝いており、朝日が穏やかに室内を照らしている。


 今日のために、貴族の接待ができる人員もほかの店から回して貰った。穏やかにゲームを進めるために、牌を並べてくれたり、ルールの補足説明をしたりなどするディーラーは、卓につき二人ずつつける。

 結局のところ、娯楽を一番妨げるのは、煩わしい準備やルールの理解などだ。それを楽しんで相互に行なえる関係性があれば完璧だが、店でならばそれを従業員が請け負うことで、客はただ足を運んで座るだけで遊ぶことができる。


 アルスはパンパン、と手を叩く。すると、各々が作業に準じていた従業員たちが、一斉にアルスの方を見た。


「皆。今日から三日間よろしくね。絶対にお客さんに楽しんで帰って貰おう」

「はい!」

「30分後から順番にお客さんをお迎えするから、あと20分で準備を終わらせて。出迎え班はぼちぼち、馬車の巨大駐車場に移動して」


 ここから歩いて数分のところにある、銀行の傍にある巨大な馬車の駐車場は、特別に許可を取って、馬車を停車してもいいことになっている。

 馬車でのアクセスが悪いことは承知の上だ。近くに、簡易駐車場を作るために交渉中だが、少し長引いている。

 計画通りにいかないことなど承知の上だ。その分は、人を多く雇ったり、動き回ったりでカバーする。


 やがて、ぞろぞろと雀荘にやって来た、アルスの友人たちは、楽しそうにしながら次々に雀卓へとついて行く。その様子を見やって、アルスは楽しそうに、パーティの開催を宣言した。


◆◇◆


 プレオープンパーティ三日目。招待状を片手に、清楚なワンピース姿のリリーナは、唖然とした顔で、その場所へとやって来て、看板を見上げていた。

 「雀荘エル・オーラム」と書かれた看板を見上げて、リリーナは思わずその場に崩れ落ちそうになった。


(わ――私のせいだ! どう考えても!)


 この新しい娯楽施設でのプレオープンパーティへの誘いは、闇ルートの親友キャラである「アルス」との出会いのイベントであり、闇ルートの攻略キャラとのイベントを発生させる、攻略を行なうための拠点の生成でもある。

 このゲームには、光ルートと闇ルートという二つの区分があり、いわば光がメインルート、闇がサブルートという位置づけで、闇ルートはおまけのような立ち位置だ。

 光ルート・闇ルートにそれぞれ四キャラずつ攻略キャラがいて、そのうち闇ルートの三人は隠しキャラとなっている。


 そんな闇ルートの導入とも言うべき、プレオープンパーティへの招待イベントだが、このアルスというキャラがまた曲者で、何故か周回するたびに別の遊びをテーマにした商業施設をオープンするのだ。

 そしてリリーナは、何故かそのすべてのゲームを「私の得意なゲームだ!」と叫ぶ。

 この奇妙な設定は、二次創作において「ゲーマーリリーナ」という概念を生み出す原因ともなった。


 リリーナは、招待状を貰った時に考えたのだ。もしもこの、アルスに選択された娯楽が、この世界に転生したリリーナの得意なゲームに準ずるのだとしたら、一体何の施設になるのかと。

 そうなったとき、リリーナの頭の中に思いついたのはただ一つだった。それこそが、麻雀だったのである。


 ボードゲームは全般好きではあるが得意というほどではない。将棋やチェスはルールは分かるがその程度で、トランプ系の遊びはそれらのゲームが詰まっている系統のソフトウェアで軽く遊ぶ程度。囲碁は一時頑張ろうと思ったこともあったが挫折してしまい、ダーツやビリヤードといった高級感溢れる遊びはやったことがない。

 そんな中で、リリーナが前世において唯一ドハマリし、この世界においても再現できそうなゲームの心当たりが、麻雀以外ありえなかったのである。


(エル花のスタッフさん……私が麻雀しかできない女だったばっかりに、エル花の世界に雀卓を持ち込んでしまいました……)


 麻雀にハマったきっかけは靄がかかっていて思い出せなかったのだが、それこそ帰宅すればいつもPCの前に座ってネット麻雀ばかり打っていたリリーナだ。実卓での経験は乏しいがない訳ではないし、かなりやりこんでいたゲームだったので、ネット麻雀だと自動的にやってくれる符計算なども全て頭に入っている。


(で、でも、ここでアルスと上手に付き合いができたら、今後も麻雀打ち放題……ってこと!?)


 闇ルート進行中のリリーナは、ひたすらにアルスの経営している商業施設に入り浸っていた。この世界には、スマホに慣れ親しんだ現代っ子たちには過酷すぎる。何しろ、娯楽という娯楽があまりなく、それらを遊ぶためにはまず友達を用意しなければならないからだ。インターネットにつないで、ランダムマッチングすればすぐに遊べるわけではない。

 しかし、アルスに気に入られれば、ここにやって来て麻雀で遊ぶことが許されるだろう。それはリリーナにとって、あまりにも魅力的に映った。


(アルスとの関係構築は、今後、私がこの世界で楽しく生きていくためには必須……!)


 光ルートの親友キャラであるアルシェスタとはまるで違い、闇ルートの親友キャラであるアルスは、生意気でチャラく、女たらしなクソガキ、そしてこんなプロフィールであるにも関わらず本編中ほぼずっとスーツ姿という属性てんこ盛りのキャラだ。

 しかしいざというときには頼りになり、何だかんだで危なっかしいリリーナの世話を焼いてくれるような兄のようなポジションでもある。何故アルスのルートがないのか、と開発陣にはほどよくお手紙が届いていたらしい。


 そんなアルスだが、初対面の印象は決して悪くはなかったはずだ。しっかりと会話を通して、関係を築いていこう。リリーナは勇み足で、雀荘に向けて歩き出そうとしたとき、角から曲がって来た誰かとぶつかった。


「きゃっ」

「あっ。すまない」


 素早く腕で腰を支えられ、転びそうになるのを防がれる。リリーナはこのシチュエーションに既視感があった。

 ゆっくりと顔を上げると、そこには白銀の髪を流し、仮面を付けた紳士の姿があった。


「怪我はないだろうか」


 闇ルートの隠しキャラとの出会いイベントが発生したことに、リリーナは目を丸くしていた。

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