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藍より青く染まりて曰く  作者: ねるこ
第一部 第一学期篇 かくして不良娘は運命に巻き込まれていく
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51. 栄誉は君の手の中にある

 アルシェスタたちの組以降のアスレチック・レースは、惨憺(さんたん)たる有様だった。

 少し気になったので、休憩時間中に生徒会室へ行き、過去の魔術競技会の資料を持って観客席へと戻って来た。

 アルシェスタとイルヴァン、ジェフリーは観客席の隅に腰を下ろして、横並びになっていた。アルシェスタは目の前で次々に脱落者が出ていく競技を見守りながら、資料をぱらりと捲る。

 どうやら、ここ十数年、魔術競技会の競技内容も、堕落した貴族子女に忖度する形となっていたようだ。

 本来ならば、このレベルが適正なのだろう。学院長に王家に連なる人間が就任したことによって、国一番の学院という自負を取り戻したかのように、貴族子女のレベルに合わせるのではなく、彼らのレベルを引き上げるカリキュラムが組まれるようになった。


 その結果生み出されたのが、目の前の惨状というわけである。


「あ。また、このカードも両方脱落か……これ、突破できるチームがなかったら、俺たちに勝ったグラスティケイト卿たちのチームがそのまま優勝になりそうだな」

「まぁ、それも止む無しだろう。これが日ごろの怠惰の結果だとするならば、受け入れるしかあるまい」


 アルシェスタたちの後、二度同じ競技が行われていたが、道中二人、多ければ三人が脱落し、競技が強制終了した。

 準決勝でぶつかる予定だった組が両脱落という結果に終わり、リリーナたちのチームはそのまま決勝に進出ということになった。

 しかし、反対側のブロックに移っても、やはり準決勝への進出者が決まらないのだ。


 一度目でギリギリ僅差の勝負を見せられ、大人しく貞淑に、を心掛けるように育てられる貴族の娘たちが、最後まで自分の力で辿り着いた光景を目にした観客たちは、ざわざわと不満を隠そうともしなかった。

 これを見ていると、ベルローズが早めに是正したのは、間違いなく国のためだったと言えるだろう。


 そして、いよいよ最後の組が競技に挑戦するとなり、そのベルローズたちの組が競技に挑戦することとなった。

 優勝候補の一つであるベルローズたちの組はきっと、と期待を込めて、観客たちは成り行きを見守る。


 ベルローズたちの対戦相手は、湖の浮島へと辿り着けずに脱落となってしまった。

 身体強化魔術で運動神経を強化したとしても、どうしても動くイメージが持てない者は、恵まれた体躯があってもそれを成し遂げることができない。

 街道や住宅地が整備される前、貴族たちは自分の足を使って、視察や現場管理に出ていた。今は平民向けの教育も整い、貴族たちが王都で寛いでいるだけでも、情報が集まるようになってきた。

 ひとえに環境が違うと言ってしまえばそれまでだが、しかしオーエンやイルヴァンのように、現場を駆け回っている人間たちが楽々とクリアしているのを見て、彼らはいかに自分の能力が足りないかを噛みしめたようだ。


 そしてそれは、最も高貴な身分の人間たちが、泥にまみれながらも成し遂げたことによって、貴族子女たちに波紋を生んでいった。

 ベルローズもアルシェスタやリリーナと同じく、歯を食いしばりながら果敢に挑んでいった。ユーウェルは十分な身のこなしを披露して素早く足場の確保に動いたし、サロモンはベルローズの後ろから、いつでも彼女を助けられるように気を付けながら、丁寧に足を進めていった。


 JチームとQチームの時のような、レースというゲーム性はなくとも、時間をかけてでも丁寧に、しっかりと前に進む姿を見て、観客たちは期待を抱えて眼下の景色へと魅入る。

 そしてベルローズが網を降り切ってその場に座り込んだ後、サロモンが丁寧に下りてきて、ベルローズたちTチームは決勝への進出を宣言された。


(殿下たちより動けない臣下って、やばくね?)


 そんな疑問が、貴族子女の頭の中を占めていく。この中には、将来文官として、あるいは騎士として志願し、王宮の中で地位を得る者も多かっただろう。

 けれど、大切に育てられている王子、次期王子妃よりも現場を駆け回る能力がない部下――。


 それを、誰が欲しがるというのか。正しく自分の力の足りなさを感じ取れた貴族子女たちは、夏季休暇の予定を素早く頭の中で考え始めたのであった――。


◆◇◆


 アルシェスタは、眼下の光景を見下ろしていた。今、訓練場では決勝戦が行われている。

 決勝の競技内容は「カラーバード・シューティング」。特別な魔道具――杖型の、魔術発動補助用のもの――を使って魔術を放ち、場内に放たれ、空中を自由に飛び回るカラーバードと呼ばれるMobがぶら下げる的を射抜く競技だ。

 杖には希少属性の「色」という属性が付与されており、赤と青の色に分かれて競技を行なう。

 赤チームがカラーバードの的に魔術を当てると、カラーバードが赤色へと変わる。青チームが当てた場合は青色に。

 そして、赤いカラーバードに青の魔術を当てると、赤いカラーバードは青に変わる。


 制限時間内にそれらを当て合って、終了したときに自軍の色が多かった方の勝利。

 一分間の三本先取である。視覚的にも観客席に分かりやすく、奇数匹のカラーバードたちによる厳正な審判により、引き分けは存在しない。正確に言えばどちらの色にも染まらないカラーバードがいる場合はその限りではないが、そのレベルの魔術師がそもそもこの場に上がって来られることなどありえない。


 とはいえ、前競技の体たらくを見ていた観客席は不安を覚えたが、しかしすぐにそれが杞憂であることを思い知る。


 色鮮やかな、赤と青の閃光が乱れ飛ぶ。杖という補助魔道具を使って飛ばす魔術に、個人の技術量はそれほど依存しない。

 つまりは魔術の腕ではなく集中力と戦略、そしてチームワークによって、勝敗が決まる仕組みなのだ。


(そうそう。魔術の内容だけの競技なら、グラスティケイト卿とその後輩くんだけで、この場にいる全員に圧勝できるんだよ)


 彼らは魔術師局の魔術師なのだ。たかが学生とは経験値も知識量も技術量も全然違う。

 何でもありならば、オーエンはこの場にいるカラーバードの的に、全て同時に魔術を当てるような運用もできるだろう。それを、制限時間ギリギリに放たれれば、相手に勝ち目など存在しない。

 けれど敢えて、教師たちは最後の競技に、個人の魔術的技量が依存しない競技を選んだ。これまでの競技は、多かれ少なかれ、個人の魔術の技量に依存していたものだった。最後の最後にこのような形式の競技を持ってくるというのは、魔術さえ上手ければ簡単に勝てるという魔術師たちの鼻をへし折ろうという気概だろうか。


(でもこの競技、普通にこのまま優れた選手を育成して、定期的に行なう競技にすれば、普通に娯楽として機能しそうだ。両チームの条件は同じ――そこには平等性がある。平等性が重んじられる競技には、娯楽としての価値がある)


 加えて、この視認性の良さ。宙を舞う無数のカラーバードたちは、鮮やかな魔力の色を放ちながら漂っている。観客席から、今はどちらが多いか、どちらが優勢か、均衡している、といった情報を容易に得られる。

 ルールが複雑化すると、見ている側にも知識が必要になってくる。理解度の差があると、やはり観戦で得られるものにも差が生じる。

 しかし、このカラーバード・シューティングは、今後ルールをより厳密に整備すれば、客席にも気軽に興奮を届けられる娯楽と化すだろう。


(……そういえば、領地の知り合いから手紙が届いてたな。大きめの闘技場(コロッセオ)でやる競技について、もう少し気楽に観戦ができる娯楽のアイデアはないかと)


 最近、領地には大きめの闘技場(コロッセオ)ができた。年に数回の、闘技大会・魔術大会のほかにも、催す競技のアイデアが欲しいと、彼らは色々な娯楽を調べて回っているようだ。

 いくつか提案しようと思っていたアイデアがあったのだが、これもそれに加えよう。


 アルシェスタは、観客たちとは少し違う目線でだが、その競技を楽しく観戦していた。

 競技は2-2までもつれ込み、最終的には、一匹の差でQチームが勝利した。この競技には、目に見えた貢献度の差はなく、ただ人数の利が存在する。

 動けるのが一人より二人、二人より三人の方が圧倒的に有利だ。つまり、この競技の上では、誰一人として飾りでいてはならない。

 競技は間違いなく三対三の死闘だった。リリーナもベルローズも、オーエンもユーウェルも、レイサムもサロモンも駆け回り、それぞれが丁寧に狙いを定めて魔術を打っていた。


 「天才魔術師、オーエンの飾り」など、そのようなことを言っていられるような状況でないのは明らかだった。

 リリーナに暴力を働こうとしていた令嬢たちは、悔しげに手をぎゅっと握り締めていた。


 歓声を浴びるリリーナの手の中には、彼女が自身の手でつかみ取った栄誉が輝いている。

 この結果を前にして、表の世界でリリーナの魔術の腕を貶すような声は、鳴りを潜めたのである。

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