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再度彼は目を逸らす

遅くなりました。今回だいぶ短めです。

 その後すぐに橘とは別れ、俺は1人で帰路に着くこととなった。


 歩きながらふと空を見上げるが、外灯が視界の端に映るだけで他は真っ暗で何も見えない。


 先ほどの橘の言葉が頭の中で反芻する。


「逃げた、か」


 橘は逃げたと言った。そして私だけでも側に居たかった、と。


 逃げた自分自身に対して糾弾するような表情。そして、後悔、諦め。懺悔があの言葉の中には含まれていた。


 自分の責任で大切な誰かが孤立してしまう。そんな場面に人生で何回遭遇するだろうか。


 その時、本当にその人の側にいるという選択肢を取ることができるのだろうか。


 答えは否だ。


 圧倒的なまでのマジョリティーは時に盾となり、武器となる。


 集団から逸脱すれば「あいつ調子乗ってる」と思われて学生生活は一貫の終わりだ。


 だからこそ橘のした選択は正しい。


 間違ってるなんて言うやつは現実を知らないただの偽善者だ。


 世の中綺麗事で生きていけるほど甘くはない。自分をねじ曲げてでも周りに合わせないといけない場面もある。


 寧ろ周りに合わせるというのは一種の武器だ。


 それでも彼女は後悔している。周りに合わせるという選択肢をした自分自身を責めたて、自分が悪者なんだと言い聞かせて。


「……」


 コツン、と目の前に落ちていた小石を蹴り上げた。小石はコロコロと転がり、道路の脇にあった溝に落ちる。


 多数を取ることを選んでしまえば、そこから少数に移るなど到底不可能になってしまう。


 一度溝にはまってしまえば自分では二度と自力では這い出てこれない小石のように。




◇◇◇




 翌週、俺は橘の様子を度々伺っていたが、特におかしな様子は無かった。


 挨拶もしたがいつも通りだったし、恐らく昨日のことは無かったことにして欲しいということだろう。


 なら俺はその意向に従うまでだ。俺に口止めしなかったのはある程度信頼されているから、とでも思っておこう。


 つつがなく授業は進み、昼休みとなった。


 いつものように弁当を持ち席を立つ。しかし一歩踏み出したところで、もう一つ必要なものを思い出した。


 少し大きめの箱の入ったビニール袋を鞄から取り出す。それから俺はもう一度歩き出した。




◇◇◇




 いつもの場所に着くと、既に音無が段差に腰掛け弁当の包みを開いているところだった。


 足音に気づいたのか、音無が振り向く。


 よぉ、といういつもの挨拶を交わそうとした。けれど—




 彼女の目は真っ赤に染まっていた。




 そんな彼女はいつものように笑顔を見せ「どうもですっ」挨拶をしてくる。


「その目、どうした?」


 何のことかわからないと首を傾げる音無だったが、すぐに気づいたのか慌てたように口を開いた。


「あっ、ちょ、ちょっと今日眠くて授業中欠伸が止まらなかったんですよ」


 嘘だ。そう確信したが俺は言えなかった。彼女の笑顔はいつもと違い、無理をしているようだったから。


「そうか。寝不足はお肌の敵だぞ」


 だから俺はいつものように茶化して返す。


「いつも眠そうな先輩に言われたくありませーん」


 すると音無も揶揄うように返してくる。これが俺たちのいつもの会話だ。昼休み以外で俺達が会うことはないし、精々メッセージのやり取りを1日に何回かする程度だ。


 いつものように段差へと腰掛け弁当の包みを開ける。心なしか最初の頃より俺達の座る間隔が狭くなっているような気がした。


 ここで「何かあったのか?」と聞ければ楽なのかもしれない。


 けれどあれこれ詮索されることの煩わしさを俺は理解できる。


 だから俺は何も聞かない。









 そうしてまた俺は逃げるのだ。



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