初恋
タイトル変えるために再投稿です。よろしくお願いします。
俺には同い年の従兄がいる。この国の王子だ。そのせいか仲良くしろと親に言われた。くだらない。
体が弱くて遠出は出来ないからいつも薔薇園にいるのだという。暇つぶしの相手というわけだ。面倒くさい。好かれれば得になると言うが、そんな態度をとるのも嫌だ。
王城のせいか、そこは広く迷路のようで迷ってしまう。苛々とするが、まあ、そのうち誰かが探しに来るので不安ではない。どちらかというと面倒なことをしなかった言い訳にもなるので心が軽くなった。しかしうるさいので置いてきたがお付きの者とかどうした。従兄が見当たらないのは大丈夫なんだろうか。まだ10歳だぞ、俺もだが。
王族だったのは母なので俺にとって王位継承権は現実味がない。
歩く、歩く。白い塊がいる、犬か何かだろうか。いや、人間の子どもだった。側にハンカチの上に乗せられた小さな冠がある。どうやらこいつが従兄らしい。雪のように白い手足で丸まるように寝ているから白い塊に見えたが、実際には金糸で刺繍された豪奢な服を着ている。それで地面の上に寝ているからなんともいえないが。
寝ているという事は黙っているという事で、楽にお使いが終わりそうでそっと息を吐く。この頭の悪そうなのが王になるかと思うと頭が痛くなるが、だからこそ仲良くしておけということなのかもしれない。
よく眠っているし不敬にはならないだろうと顔を覗き込む。銀髪なのかと一瞬思ったが、どうやら少し色づいている。白金というところだろう、犬によくある色だ。顔は、まあ、睫毛も長いし整っているほうだと思う。相手をするなら美しい容姿に越したことはない。
しばらく横に座って花とか花とか花とか観察していた。あまり俺は薔薇とか虫とかに興味はない。本でも持ってくれば良かったと俯けば、むにゃむにゃ聞き取れない寝言を漏らしながら従兄が寝返りを打とうとした。そしてここは薔薇園で、剥き出しの白い手足が茂みの中に突っ込もうとしている。
思わず抱き留めた。親に言われたからとかは、そうしてから思い出した。小さく唸って、薄目を開ける従兄が驚いたような顔になる。俺を押しのけようとして、なぜかぽろぽろ泣き出した。腕を抱き取られる。
袖に幾つか穴が開いて血が滲んでいた。どうやら抱き留めた時に押し出されたらしい。しまったなと思っていると、ごめんなさいと謝られた。
涙で濡れて艶めく赤い瞳が俺を見つめている。急に身体が熱くなる。顔に血が集まってくるのが直感的に解った。従兄は繰り返しごめんなさいときらきら涙を流したままで、俺の腕を抱くその姿が、その鮮やかな赤い瞳がこの世のものとは思えないくらい綺麗だった。息が止まりそう。
衝動的に地面に押さえつけた。馬乗りになって体を重ねる。泣きながら謝るこの少年を自分のものにしたくてたまらない。小さく悲鳴を上げるのを唇で塞ぎたくなる。
顔を寄せれば、赤い瞳に俺の顔だけが映っている。どうしようもないくらい嬉しい。
遠く、怒声がする。口付けを交わす前に引き剥がされた。赤い瞳の少年は庇うように、俺に縋りついている。
結局両親には滅茶苦茶に怒られた。怪我させられたからと取っ組み合いの喧嘩までするなと少々ズレた説教だったのを内心ほくそ笑む。
従兄が王子で良かった。これが王女だったのならこうはいかなかっただろう。最悪首と胴体が離れている気がする。
ぼうっとしてたら更に怒られた。両親は何も解っていないので仕方ない。あんなに可愛いのならもっと早く従兄に会いに行けば良かった。
時間が迫ってきていたので説教から解放される。領地に戻ってまた勉強の嵐だ。退屈はしていなかったが、これからはどうだろう。
従兄に、ジョシュアに会えない日々は長くつまらなくなりそうだ。