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禁忌の配偶者〜東京silent〜  作者: 和美和義波羅
1/1

silent city ①

 ~東京都内 実験室 ~9:30分~

 ───ごぽっ、ごぽぽっ

 薄暗く照明があまり目立たない部屋。

 壁はシンプルに着飾ることも無く、更に部屋の暗さを引き立たせるような感じである。

 丸い容器の中に、色々なチューブに繋がれた幼い少女が1人、その中に入れられている。

 得体の知れない液体に付けられて、他人からしたら大層心配になるだろう。

 だが、ここにいる人達はそんな素振りも見せない。

 それをガラス1枚越しに見る、白衣の男女。

 その男女は何やら機会を操作していたり、バインダーに挟んである紙に何かを書いていたりする。

 丸い容器の中に入っている少女の顔は黒い#靄__もや__#がかかっていて、ハッキリとは分からない。だが、髪の色は分かった。茶髪の髪である。

 それを眺めている、女と、幼女が1人。

「私は貴方も実験体のように楽にさせてあげるの。感謝して?」

 幼女はその言葉を発した方へ顔を向ける。

 その少女は言葉を発した人の手を、幼い手ながらしっかりと握っている。白衣を纏って、片手はポケットの中に入れている。

「かんしゃー?」

 幼女は幼い声で女の言葉を繰り返す。

 その女も同じように靄がかかっている。

「えぇ、幼い貴方には分からないだろうけど貴方は私無しで生きていけるようになるの。そして、数十年後には自分でお金が稼げるようになって……ねぇ。貴方、愛しの✕✕✕」

 その女は懐から注射器を取り出す。その中には既に液体が入っている。その注射器の針を幼い少女に向ける。

「おかぁさん?お注射?」

 他の白衣を着た研究員は、悪意に充ちた声で囁く。

 ──自分の娘までも犠牲にするなんて。

 ──ボスは頭がいかれている。正気なんて求めてはならない。

 注射器を幼女の首元に当てて…………。



「………っは!」

「おはよう。配偶者さん」

「……………」


 ~東京都内 平松亭~


 何坪あるのかわからないくらい、だだっ広い旅館。

 東京を代表してもいいと言うほど、広く、それは総理大臣にも使われている程の由緒正しい旅館である。

 その旅館は本館と別館がある。本館はお客様、別館もお客様、ではあるが一般人は立ち入り禁止の所で有る。

 その別館の三十畳ほどある畳の上に、一畳ほどの布団。

 そこは畳の匂いが漂い、掛け軸や真っ白な障子がある。

 その部屋には縁側があり、その奥には日本庭園のような庭が広がっている。

 縁側はその部屋のところだけが開かれているようになっていて、引き戸のようなものが沢山並んでいる。

 その布団は汗が、コップの水をぶちまけたように濡れている。

 そして、その布団の上に座っている女をヤンキー座りをして見ている男。

 畳には似合わない白のパーカーにジーパンを履いている。ジーパンと言っても裾が短くなっていて、ふくらはぎまでの長さである。

 そして、夏なので半袖である。

「汗だくだね~」

 朝から陽気な声でその言葉を発する。それにイラついたように、女は早口で反論をした。

「馬鹿にしてますか、それって」

 座っている女は布団から出て、掛け布団の両端を持って広げる。

 それをヤンキー座りの男はただ見ているだけ。

「いや、違うね。原因を当ててあげようか?」

「別にどっ………」

「原因はふたーつ。1つ目は冬みたいな掛け布団。2つ目はどうせ夢だろう?」

 女の応えを遮るように、男はペラペラと喋り始めた。

 女は布団を持ちながら、面倒な顔を向けるがそんなことはお構い無し。

「掛け布団は折角置いてあるんだから。使わないなんて此処に住まわせてもらってるんだから仕方ないでしょ」

 縁側に女が掛け布団を持って、歩みを進める。

 男は只々見ているだけだ。手伝おうという素振りも見せない。

 女が縁側に置いてあったシューズに足を入れる。

 縁側にかかっている風鈴が、そよ風のお陰で微かに鳴る。

「夢は、今日が8月11日だから。毎月11日に毎回見ているんだろ?」

 その女は庭に出て干そうという所で、動きがピタリと止まった。

 そして、掛け布団を持ったまま振り返る。

 男は縁側に立っていて、引き戸の縁に手をかけて顔だけこちらを向いている。

「なんで知って………」

「んじゃ、みんな待ってるんで」

 それだけを言って男は手を振った。

「待っ……」

 女が引き留めようとしたが、既にそこに姿はなかった。縁側には白猫と黒猫が1匹ずついるだけだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 先程のとは違う女が縁側をスライディングして、その部屋の前に着いた。

その女はボブヘアーで白い肩出しのTシャツの下に、黒いシャツを着ている。

聖奈(せな)せんぱーい!ってあれ?居ないんですか」

 おさなさを残した声が、大きな広間に響いた。

 その部屋には机が並んでいて、その机には朝御飯とは思えない程の量が置いてある。

 そして、その机は奥に続いていて誕生日席にはガタイのいいおじさんが畳の上に右足を曲げて、左足を曲げてはいるが膝が上に向いている状態だ。

 和服のまま煙草を吸っている。

 その隣には正座をしたままの若女将が居る。

「あぁ、まで寝ているみたいでね。奥村君に呼びに言ってもらったよ」

 西園寺・慶(さいおんじ・けい)はガタイのいい割には、その体型に似合わない声で言った。

 そして、煙草特有の匂いが部屋に充満した。幸い、縁側の戸は開いていたのでそこまで酷くは無かった。

「あぁ、あの。えーと」

 女は、顎を人差し指と親指で支えるようにグーで顎に当てた。

 顎に当てながら、部屋に入って席に着いた、と言うより適当に床に座った。

「奥村 陽向、忘れられるなんて不愉快だなぁ」

 その声のした方に振り向くと、陽向と自分で名乗った男が立っていた。

 先程、三十畳ほどある部屋に居た男である。

 その男は奥村 陽向と言い、茶髪の髪の毛に少し焼けた肌。焦げ茶色の瞳を女に向けている。

「にゃっは!いつの間に!」

 女は驚いて後ろに倒れる。机に後頭部が当たりそうになった。が、ギリギリのところで止まった。

 机には沢山の料理やお吸物がある。ぶつかれば零れたりして、大変なことになっていたであろう。平松亭にとっても、陽向達にとっても。

「俺はお前のことを知っているのに。杏奈(あんな)

 陽向は顔をムスッとさせる。

「う、おはようございますー」

 東雲・杏梨(しののめ・あんな)が冷や汗なのか、暑さの汗なのか分からない汗をかいている。

「おぉ、杏梨も起きたのか。陽向、どうだった?」

「西園寺さん、おはようございます。今月は特に酷いですよ」

 杏梨とは違う態度で挨拶を交わす。それを見ている杏梨は、頬を膨らませて睨むが杏梨は少し後に首を少し傾げた。

「聖奈先輩は何か昔にあったんですか?」

 聖奈には昔何か無かった訳では無い。単に鮮明に思い出せないだけであって、これと言ったことは無い。

 夢なんて鮮明に覚えていることは無い。たとえ、トラウマであろうと記憶は自分の都合のいい様に塗り替えられる物である。

「本人に直接聞けば?そしたら教えてくれるんじゃない?」

 陽向が部屋に入って、畳の上に座った。

「こら、陽向。それはしてはいけない。禁忌のことだ」

 西園寺が優しい声の中にも、厳しい感じを醸し出している。

 陽向は頂きますも言わずに、料理に手を付ける。

「禁忌、禁忌って…」

 口に含んで噛んでから、飲み込んだ。そして、陽向は面倒に呟いた。

「だったら、陽向先輩!聖奈先輩のお部屋に連れて行ってください!」

 杏梨は陽向にずいっと詰め寄った。陽向は口に箸を入れたまま嫌な顔をする。

 そして、箸を口から出した。

「はぁ。名前を忘れた奴と一緒に行くのか~。そして、さっきの西園寺の話を聞いていたのか?」

 陽向は最後の一言を、声を小さくして言った。

 それは杏梨には聞こえていないようで、陽向にずいずいと近づくのを辞めなかった。

「そこをなんとかっ!」

 遂には土下座を多人数の前で、平然とやってのけた。

 それを見た陽向は少し焦ったようで。

「えぇ~。どうしよっかな~」

 だが、陽向の手は止まらない。料理を口にパクパクとどんどんと進んでいく。

 特定の料理にしか手を付けていないので、その料理がどんどん減っていく。

「そこでグダグダやられても…」

 伊集院・神子戸(いじゅういん・みこと)は冷静に着目と料理に手を付けながら、2人の和気藹々とした雰囲気をすっぱりと切った。

「す、すみません……お前のせいだ……」

 最後の言葉はぼそっと杏梨に聞こえるか聞こえないかくらいの声で言った。

「じゃあ!行きましょうか!私の先輩のお部屋へ!」

「お、おい!腕を離せっ!」

 陽向は持っていた箸を無造作に置いて、杏梨に言った。

 杏梨は陽向の腕を、ガシッと掴んで聖奈の居た部屋へむかって行った。

「青春かぁ~。西園寺さん、私も送ってみたかったです」

「……………ふぃ~」

「話をお聞きになっていますか?そして、お食事中にお煙草はおやめ下さい。私、檜山は青春を送りたかったんですよ?」

 西園寺は煙草の煙を口から吐き出し、檜山・五十鈴(ひやま・いすず)の話をスルーした。

「酢豚が食べたい……」

 おかっぱ頭の幼い少女が唐突にその言葉を発した。

「何言ってるの?文弥ちゃん、ここは平松亭。日本料理しか出てこないわよ?」

 圷・文弥(あくつ・ふみや)を宥めるように檜山が言った。だが、そんなことは幼い少女には理解不能なことである。

「酢豚…………食べたいの」

「あら、承知致しました。私、韓国料理も得意ですの。そして、お客様に喜んでもらうのが私達の役目です」

 それを聞いていた若女将が、意外な言葉を発して当たりを騒然とさせる。

 そして、若女将は部屋を後にするために立ち上がり、西園寺の後ろを通って行く。

 そして、檜山の努力は水の泡になった。

 その檜山は唖然としている。慰めるものは誰も居ない。

「以外だ…日本料理しか作れないかと思っていたのに」

 文弥が人形の様な表情のまま、若女将の振袖を摘んだ。

「私も手伝うから、酢豚が食べたい」

 ピタリと若女将は動きを止めて、振り返り文弥を見た。

「手伝わなくても大丈夫よ。大事な手が傷ついてしまいますから」

 若女将は文弥の手を、しっかりと握って部屋で待っているように言った。

 だが、西園寺は首を横に降った。

「大丈夫だ、そいつは自分では作らねぇからさ」

 西園寺は煙草を噛みながら、喋り煙草臭が部屋に再び漂ろうとしている。

「それなら大丈夫なわけですか?本当に?」

「心配症だな、若女将は」

 若女将はお客だからだろうか、ぺこりと礼儀正しく頭を下げた。

「す、すみません…では、行きましょう、文弥様」

 若女将は文弥が来るのを待って、両手を前で重ねて立っている。

 文弥は嬉しそうに、ソワソワしながらそそくさと立ち上がり若女将と共に部屋を後にした。

「交差する光の中に照らされる白。騒々しい街が物音一つしない、水槽の中のような静かさになろう時、我、現れる」

「おやおやおや、なんですかな?それは」

 西園寺は陽向達と反対方向から来た男の声に反応して、その男に話しかけた。

「んー?これは光明からのメッセージですよ」

 遙真・林海(はるま・りんかい)が手紙を読んでいる男、遊馬・司(あすま・つかさ)に話しかけた。

「光明って、ねぇ」

 風鈴が、鳴る。

 光明は社会の闇に潜んでいる人物である。人身売買、麻薬取引。そして、それは本名ではない。西園寺達が勝手に光明(こうめい)と呼んでいるだけだ。

 それには多々の理由が存在する。そして、政府もその呼び方を肯定している。

 光明の最近の遊び方(闇の遊び)は、()()()()()である。

 そして、その標的は西園寺達である。

小説家になろう様では此方を本格的に投稿していこうかと思います。

以後よろしくお願い致します。

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