ドラゴンの卵〜デルムントのパラレルワールド〜
それは天上の白き宝玉と呼ばれていた。
ロキシィは幼い頃、展示場の人混みの中で父親に肩車されながら、ここの目玉の『天上の白き宝玉』を見上げた。銀色の四本の支柱に支えられて、採光の窓から差す太陽の光につややかに光っている。
案内板には、地質学者が火山の近くで発見したもので、数百年経過していると書かれている。
「見つかったときは、半分地面に埋まってたって。それを一番きれいに見える展示法で博物館に持ってきたらしい」
「一種のモニュメントだよなぁ」
大人たちは口々にそう言って通り過ぎていった。
ロキシィは、『天上の白き宝玉』が一目で大好きになって、暇があってはちょくちょく見学に来るようになった。
ロキシィが10歳の誕生日に、展示場の手すりにもたれ掛かって『天上の白き宝玉』を飽きることなく眺めていると、白い燕尾服に白いシルクハット姿の男が深刻そうな面持ちで横に立った。
「ここにあったのか!」
「おじさん、どうしたの?」
「これは失礼。私はデルムント。君は?」
「ロキシィ」
「ロキシィ。あれはドラゴンの卵で、火山近くの地面の地熱で温められてかえるんだ。こんな場所に置いていちゃいけない」
「そんな!」
「卵をもとの場所に返す手伝いをしてくれないか?」
「でも、あれはみんなのもので、勝手に動かすことはできないんです」
「でも、このまま冷え続けたら、中のドラゴンの赤ちゃんが死んでしまうよ」
「……わかった。手伝うよ。僕、どうしたら良い?」
それはロキシィにとって、とても勇気のいる決断だった。
決めていた日にちの時刻にロキシィは展示場の火災警報器を鳴らした。
けたたましい警報音が響いて、人々は屋外へ逃げ出した。
バリン。
採光の窓が上からむしり取られて、ごうっと風が吹き込んだ。
ドラゴンだ!
卵をカギ爪の生えた手でしっかり抱えて飛んでゆく。
「うわあ……」
ロキシィは思わず息を呑んだ。
「火事はどこだ!?」
駆けつけた大人たちは巨大な影が飛び去ってゆくのを目撃した。
地質学者に率いられた調査隊が、火山近くまで強行軍をしいていた。
もちろんロキシィも一緒にいたが、彼はもう大人になっていた。
「一度だけでいいから、この目で見てみたいんです」
ロキシィは少年の心のままだった。
「ありました!」
「こっちにも抜け殻が!」
この近辺はドラゴンの産卵場所だった。
ロキシィは、割れた卵の殻の破片を拾って、ハンカチに包んでポケットに入れた。つややかな白い欠片。幼い頃からの思い出のかけら。
その時。黒い巨大な影が無数に空を覆った。
「わあ!すまない!もう卵には手を出さないから!」
地質学者が身を縮めて叫んだ。
「みんな!ドラゴンの背中に乗って!早く!」
デルムントが向こうで呼んでいる。
「皆さん!行きましょう!」
ロキシィの声に、調査隊はみんなドラゴンの背中に乗った。
ゴゴゴゴゴゴ、ドドーン!!!
折しも火山が噴火した。
飛んでくる火山弾を避けながら、ドラゴンたちは調査隊を安全な場所へ避難させてくれた。
「ありがとう。ありがとう」
地質学者が何度もドラゴンにお礼を言った。
「この場所は聖域だからね!覚えておいてくれよ」
デルムントがウインクして言った。
ロキシィは卵のかけらを展示場に寄付した。
「これは、かつて天上の白き宝玉と呼ばれていました」
学芸員に尋ねると、ロキシィとドラゴンの卵のお話が聞けるかもしれません。
一度展示場へ足を運んでくださいね!