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蓮の車に乗ってわたしたちが向かった先は日本料理のお店だった。

多分海外生活の長かったわたしのために選んでくれたのだろう。


「高木は来れるのか?」


「メールしてみるわ。多分呼べばくると思うけど、結構心配してくれてたから」


なぜか助手席にはわたしが座ってる。ユカに譲ろうとしたら断られてしまった。助手席は怖くて座れないのだという。てっきり事故の後遺症かと思っていたら全く違った。蓮の運転が怖いのだという。わたしは外国でもっと乱暴な運転の車にも乗ってるから気にならないけど


「私の繊細な神経では怖くて乗っていられない」


とユカは助手席に乗るのを拒否したので仕方なくわたしが助手席に座る。


「でも東京は運転しにくそう。車線がいっぱいあるしなんか道路も狭いしぶつけそうで怖いわ」


「この車に乗るんでしょ。これなら少々ぶつけても大丈夫よ。人にさえぶつからなきゃいいのよ」


「どうしてこの車に乗ると思うの?」


「だってこの色、なっちゃんの好きな色じゃない。蓮は赤なんて選ばないわよ」


やっぱりこの車はわざわざわたしのために用意された車のようだ。どうしたらいいんだろう。このままだと蓮の思うままにされそうだ。


「聡さん来れるって」


ユカがメールを確認しながら嬉しそうだ。結婚式も近いし一緒に住んでるし、それでも昼食を一緒に食べれることにこんなに喜ぶなんてラブラブすぎるのではなかろうか。


「なんか食後のコーヒーには砂糖がいらないくらいに甘い世界になりそうだね」


「そうだな。俺たちも負けないくらい仲良くしようか」


「絶対にないから」


蓮はわたしのNOという返事すら嬉しそうに笑っている。


「なんか私ってお邪魔かしら」


ユカが不機嫌な声を出す。


「ああ、邪魔だ。俺の計画だと今頃二人っきりでドライブしてる所だったのに……」


「えーー。ドライブってただ車に乗ってるだけで、退屈だよ。女はそんなの好きじゃないから。男ってどうしてドライブとか好きなのかしら。目的地があるのならまだしも何時間も運転してるだけなんて! なっちゃんもそう思うわよね」


「確かにドライブに生産性はないわね」


恋人たちがドライブするのに生産性は求めないだろう。きっと二人っきりの狭い空間、それが大事なんだと思う。その証拠に結婚してもドライブに行く夫婦は少ないはず。


「そうなのか。変だな、みんなドライブに行きたがるから女はドライブが好きなんだと思ってたよ」


「うわー。そこで他の女の話を出すかなぁ~」


ユカの言う通りだ。蓮はどうも女というものを分かっていない。


「べ、別に他の女の話を出したわけじゃなくて一般論を言っただけだ」


そこで私をみて言い訳しなくてもいいよ。本当に蓮は、相変わらずユカには弱い。

結局料亭に到着するまで蓮はユカに揶揄われていた。


料亭の名前は『花雫』と言ってわたしは知らなかったけど有名な店らしい。一見さんお断りって初めて聞くよ。


「わー、一度ここで食べてみたかったのよね。なっちゃんのおかげだね」


これはどうみてもわたしのおかげではなく蓮のおかげだよね。

ユカの結婚相手の高木聡さんは大学時代は女を泣かせていたような事を蓮が言っていたが今でも十分泣かせているのではと思えるほどの色男だった。とにかく色気があるのだ。

ホストクラブにいたらきっと通っちゃうね。ただ見ているだけでも良い、そんな女がきっと通う。


「菜摘、何魅入ってるんだよ」


「さすがユカが選んだだけあるなって思って。お似合いね」


「ああ、あの二人の間には誰も入れないからな。妙な気をおこすなよ」


あの二人を見て妙な気なんて起こさないわよ。

蓮は何も思わないのだろうか。ユカのことを好きだった蓮はもういないのだろうか。高木さんを見る目に嫉妬もないし二人の関係を認めているようだ。十年の間に何かあったのか。あれほどユカのことを思っていたのに……。


「刺身なんて何年ぶりかな。寿司はアメリカでも食べてたんだけど刺身はなんとなく新鮮さが信用できなくて食べたことなかったのよね。椎茸の天ぷらも美味しいわ」


実家で食べたのはあくまでも家庭の味。この料亭で食べる日本料理は生まれて初めて食べるような気にさせられた。天ぷらの衣も薄く、わたしが今まで食べた天ぷらとはまるで違う。


「本当ね。『花雫』で食べれるなんて今日は良い日だわ。ここの鰻の蒲焼きも絶品らしいわ」


「そうなの? 蒲焼きなんて五年前に日本に帰った時に食べたっきりだわ。楽しみだわ」


二人の会話を聞いた蓮が慌てて蒲焼きの注文を追加しているのが目に入った。相変わらずユカには甘いなぁとわたしは苦笑した。



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