妖怪たちの世界
お姉さんが開けた扉の先にはセーラー服に身を包んだ女子高生がいた
少し黒混じった茶色の髪を短くまとめ、大きくぱっちりした目で………
………体が、腐っていた
って言うかどう見たってゾンビだった
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
ああ………
やっぱり僕、この世界で生きてけないかも
♢♦♢♦♢
「わあああ!何!?どうしたの!?どうして泣くの!?」
「ばっか、お前!ドア開けててめえの顔いきなり見たら泣くに決まってんだろ!!!自分の顔を自覚しろこの顔面ホラー野郎!!!」
「何だとコラァ!!!あんたの方が青白い顔の方が十分ホラーだろうが糞ニート!!!」
中にいた女子高生ゾンビと皇と呼ばれていた青年が何やら言い争いをしているがそんなことを気にしている余裕はない
ろくろ首がいるからお化けとか妖怪とかは警戒してたけどゾンビだよ?
科学者がうっかり試験管の薬を落としてわっただけで世界が終わっちゃうくらい危険で凶暴な存在だ
ヤバい
これは本当にヤバい
ホームセンター!ホームセンターに行ってチェーンソーを買ってこなければ!!!
………あ、腰が抜けて動けないや
「あわ、あわわわわ」
「大丈夫よ。あの子は顔はちょっと怖いかもしれないけどとてもいい子だから」
そう言ってお姉さんは僕を抱き上げて立たせてくれる
「顔が怖いは余計だよ!そういう種族なんだから仕方ないでしょ!」
「事実だからだろうが。ゾンビなんてこの辺にはあんま居ないんだから最初怖がられるのはいい加減慣れろ」
「お前はしゃべんな糞ニート。ほら、大丈夫だよ~。怖くないよ~」
「いや怖がられてんだから近づいたら逆効果だろ」
「お前はしゃべるなって言ってるだろうが!!!」
「腐蘭~。おっきな声出したらもっと怖がられちゃうよ~」
「ああ~………。大丈夫!大丈夫だから!!食べたりしないから!!!」
そう言ってフランと呼ばれたゾンビの女の子は少し離れる
「ほら、なにもしないから、ね?お願いだから泣き止んで~。」
「なんかだんだん哀れになってきたな………」
すると、お姉さんが突然僕の体を抱き上げる
「ほら、あのお姉ちゃんは何もしないから。心配しないでもいいよ。ね?」
「………うん……。」
まあ、実際目の前にしても何もしてこないし話も通じるみたいだし…
あの青年も隣にいても何もされてないし…
大丈夫……なのかな?
でもやっぱ怖いからあまり近づきはしないようにしよ
すると、ゾンビの少女が地面にへたり込む
「はぁ~よかったぁ~。顔見た瞬間に泣かれたときはどうしようかと思っちゃったよ。さすが首璃姉」
「まあね。さて、ご飯でも持ってきますか。ごめんね?すぐ持ってくるからちょっとあっち座って待っててね。皇君はちょっとこの子のこと見てて。腐蘭はご飯はこぶの手伝ってくれる?」
「「は~い」」
そう言ってお姉さんとゾンビの少女は台所の方へ行く
そしてぼくは青年が歩きだしたのに合わせて後ろから付いていき、ダイニングの椅子に座る
ダイニングの机はかなり大きく、椅子も10個近くあるのでこの寮のようなものに住んでいる人は10人くらいなのかな?
部屋数を見た感じだと6人くらいだと思ったんだけど
………無言
最初に少し怖がってしまったのとさっき無様に泣いてしまったのが原因だろうか
青年は僕の顔をちらちら気にしながら居心地悪そうにしている
僕も自分から話しかけられるようなコミュニケーションスキルは持ち合わせていないのでそのまま無言の時間が続く
そうしてしばらくたつとお姉さんとゾンビの少女が帰ってくる
「おまたせ~。腕によりをかけて作ったからいっぱい食べてね~」
そう言いながら何個かの料理真ん中に置き、米を一人一つずつ目の前に置いていく
異世界なはずなのに食べ物は同じなんだな………
まあ全く知らない食べ物出されても困るけど
「それじゃあ手を合わせて………。いただきます」
「「「いただきます」」」
食べ始めの挨拶まで一緒なのか………
もうここが日本のように思えてきた
日本語通じるし、食べ物もなんか、純和風って感じだし
「さて、さっそくで悪いけどあなたのこと教えてくれるかな?」
そうやってお姉さんが切り出す
「とりあえず自己紹介かな?私は村長首璃24歳。ここの寮の大家をやってるの。あなたは?」
「なまえ?」
そういえば僕の名前ってなんなんだ?
前世の名前は………
………あれ?思い出せない
なんでだ?転生する前までは確かに覚えてたのに
「分から……ない」
「分からない?」
お姉さんはそう言って首をかしげる
「えっと………じゃあ種族は?この辺じゃ見ない種族みたいだけど………。その右手の包帯取れなかったからミイラとかかな?」
「種族?………わかんない」
やっぱり種族ってあるんだな
この寮の感じから行くとあまり種族差別とかはなさそうな気がするけど、やっぱりできれば今世も人間であってほしいなぁ
見た目は普通だから大丈夫だと思うけど月見たらいきなり見た目が狼になったりしてもやだしなぁ
その辺ちゃんとあの天使(仮)にいっとくべきだったな
「名前も、種族も分かんない、か………。どうしてあの森にいたのかは分かる?」
「分かんない………。目が覚めたら、あそこにいた」
「う~んそうかぁ~。あそこにいたときさ、大きな音が鳴ったでしょ?あれ何が起きたかわかる?」
「分かん………ない」
まさかおそらく転生した時に鳴った音だなんて言えないしな
転生のことこっちで話したら地獄行きだって言われたし
「う~ん、なんだろ?記憶喪失、かなぁ」
そうお姉さんは青年と女子高生ゾンビに話しかける
「まあ普通に考えたらそうですね。あの森に一人で居たってとこがまず普通じゃないですけど」
「どこか遠くから来たんじゃないかぁ。見たことないからこの辺りの子じゃないだろうし」
「どうしよっか?一応駐在さんに報告しとく?」
「あの人に言っても意味ないんじゃないかな………。轟音の調査だって丸投げされたし」
「まぁ報告ついでに言っておくよ。さすがに記憶喪失の子供一人を丸投げすることはないだろうし」
「あー。やっぱり鬼隆を待った方がいいんじゃないですか?あいつだったらこの子の種族とかも分かるでしょうし」
「うーん、あの子がいつ帰ってくるかわからないしとりあえずは報告が先かな?記憶喪失だったら先生に見てもらわなきゃいけないし」
「それ私も行った方がいいいい?」
「いや、いいよ。ちょっと報告とこれからのこと話してくるだけだから」
そう言ってお姉さんは僕の方を見る
「ねえ、ちょっとご飯食べた後に行かなきゃいけないところがあるんだけど………。ついてきてくれるかな?」
「う、うん」
駐在さんってことは警察か………
なんかやだなぁ、警察行くの
まあ事情が事情だから仕方ないだろうけど。記憶喪失の子供をそのまま放置なんてできないだろうしされたら困るし
ああ、これからどうなるのかなぁ
ダラダラした生活を望んだのにどんどんめんどくさくなってってる気がする
ちゃんと僕ダラダラした生活送れるようになるのかなぁ………
そんな不安を抱きながらもこの世界に来て初の食事の時間は過ぎていった
あ、ちなみにご飯は滅茶苦茶おいしかったです