第1話 クロウ、月に呼ばれる(2)
ここは・・・どこだ?
誰もいない部屋の真ん中にオレはいた。
生活感のないその場所に生き物の気配はない。
窓の外からは月が映っていた。
しかし、その月は今まで見た事もない…青い月だった。
どうやらオレは誰かに召還されてしまったらしい・・・。
一体誰がこんな不思議な場所に…。
オレを呼んだ誰かはオレに一体何をさせようって言うんだ…。
それからどれだけ時間がたっただろうか?
いや、そんなに時間は経っていなかったのかも知れない。
何せこの場所は時間の変化が分かり辛いのだ。
部屋を照らすのは人工的な光だし窓の外はずっと夜だった。
とにかく、この異常な事態に多少は順応した頃だった。
ようこそ、クロウ…よく来てくれましたね
夢の中で聞いた声だ。
さっきまで人の気配など全くなかった言うのに
野良のクロウが人の気配を見逃すはずがない…はずだったのに。
無機質な部屋の真ん中に彼女は魔法のように突然現れた。
こ、ここにオレを呼んだのはお前か!
オレは突然の彼女の出現に思わず声を荒げてしまった。
しかし声の主は少しも動揺せずに話を続けた。
そう、私が貴方を呼んだのよ。
お前は一体誰だ!ここはどこなんだ!
オレは立て続けに質問を続けた。
襲い来る不安を拭い去ろうと必死になっていた。
それでも心の奥底ではうっすらと分っていたのかも知れない。
そして返ってきた答えはその予感が正しかった事を告げていた。
私の名はルーン・リーア、月の魔女
ここは月に建つ月の塔の最上階よ
私が夢の契約により貴方をここに召還したの
ここが…月だって?
オレは耳を疑った。
けれどここが今まで感じたどの場所とも違う事はもう十分分かっていた。
夢の声は楽園に連れて行ってくれると言っていた。
けれど召還されたその場所はどうしても楽園には見えなかった。
オレはしばらく頭の中の混乱を抑える事が出来なかった。
(つづく)