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第5話 奪還、月の塔(2)

 ここまで知られているならしらを切り通すより逆にこっちから攻めていった方がいいな。

 そう思ったオレは今まで感じていた疑問を徹底的に聞いてみる事にした。


どうしてこんな事をするんだ!


 オレはつい語気が荒くなってしまった。

 しかしその質問にも魔女は少しも動揺する事なく冷静に答えるのだった。


私はね、完璧になりたいの



完璧になればあなたを人間に出来る


 女神の話は本当だった。

 いや、女神の話を疑っていた訳ではなかったが魔女本人の口から告げられるとそれが動かしようのない事実としてオレに重くのしかかってきた。

 だがオレは人間になる事なんて少しも望んじゃいない。

 勝手に人間にされるとしたらそちらの方が許せない事だった。


オレは別に人間なんか…


知ってる…貴方は人間に絶望したんだもんね…


え…


 魔女がオレの知らない前世のオレの事を喋り始めた。

 何故オレが今猫になったのかその理由も魔女は知っていると言うのだろうか…。

 オレはその話の続きを聞きたくてつい無口になってしまった。


 ごくん…


 オレはまたつばを飲み込んでいた。


貴方は前世の記憶を失っているみたいだけど私は見ていたの…

私が死んでからずっと貴方を見ていた…

貴方は私が死んでから悲しみに暮れていた…



貴方は最後、信頼していた仲間に裏切られたの…

歴戦の勇者だったのにね…

それで貴方は自分が人間である事すら恨んだの…だから猫になる事を望んだ…

私は悔しかった…こんな時側にいてあげられない事が…

もし私が人間でいつも貴方の側にいてあげられていたならあんな不幸な最後にはならなかったかも知れない…


 それが魔女の語るオレの前世の最後だった。

 確かに人間に絶望したならそうなるのかも知れない。

 と言う事は今はその望みが叶っていると言う事になる。

 どうして今更その絶望した人間にもう一度ならなきゃいけないんだ。

 オレは勝手にオレの運命を弄ぼうとする魔女に腹が立ってきた。


もしそれが本当だとしてもそれは前世の話だ!今は関係ない!


私は人になりたかった!人間が羨ましかった!

でもそれはクロウ、貴方と一緒に暮らしたかったから!


 さっきまで冷静だった魔女がついに感情を表に出していた。

 オレは初めて見る魔女の表情に少したじろいでしまっていた。


女神に呼ばれた後に貴方も猫になっているって知ってすぐに私は行動に移したわ

私と貴方が共に人間になってそれで二人で仲良く暮らそうって

私の事を覚えてなくったっていい…思い出は今から作ればいいんだもの!


何で人間なんだよ…猫同士でだっていいじゃないか!


 オレは素直な想いを魔女に話した。

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