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take:1 これは僕の非日常な日常の物語

「あなた……自分が何をしてしまったのか分かっているのかしら?罪を犯してしまったという、自覚はある?」


「…………いやいや、罪だなんて大袈裟すぎやしないですか?確かに、確かに悪いとは思ってるけどさ……ただ断っ」


「それ以上口答えするようなら、殺すわよ」


「…………っ」


 俺はというと、今、絶望的な状況に立たされていた。喉元にはつやつやと輝くナイフが突きつけられている。"死"との距離は約2、3mm。言うなれば絶体絶命、万事休す、カタストロフィ。俺はとんでもない罪、とやらを犯してしまったらしい。


「あなたは、私の崇高なる尊厳を傷つけたのよ?この罪のレベルだと流罪もいいところね。だから責任を取りなさいと言っているの」


「崇高って自分で言う言葉じゃねえぞ!しかも、責任取るって……島流しですか?」


「行きたい島はあなたが決めていいわよ。好きな島を選ばせてあげるわ」


「何そのバカンス感覚な流罪!?……いや、まあ落ち着いて!とりあえずこれ(・・)、どけてくれない?いや、お願いしますどけて下さい!」


「逃げない……と誓えるかしら」


「逃げ……ません」


 俺の喉元からナイフが離される。死からほんの少しだけ遠ざかった。


「それは、責任を取ってくれるという風に受け取っていいのかしら?」


「いや、でも島流しはちょっと…………俺サバイバルスキルとかないし、虫とか無理だしさ………………え?本気で流すの?」


「何を言っているの、あなたは?そんなの島までの飛行機をチャーターするお金が無駄だわ。泳いでいくというなら構わないけれど、多分それ途中で死んじゃうじゃない」


「チャーターって貸し切りなのなよ!リアルバカンスじゃねえか!…………というと責任取るって、いったいどうすればいいんだ?」


「あなたはさっきした会話をもう忘れてしまったの?風見(かざみ)くん、あなたのIQはハエ程度しか無いのかしら?もちろん、責任を取るっていうのは、私を彼女にするということに決まってるじゃないの。愚問だわ」


「いや、それはさっき断ったじゃな____」


気づいたらまた喉元にはナイフがやってきていた。その距離わずか1mm。さっきよりも確実に死に近づいているようだ。あゝ南無阿弥陀。


「あなたは何故そこまでして私に恥をかかせたいのかしら。あなたはSなの?風見くんがSなプレイを楽しみたいというなら、それは構わないわ。でも、それは私と付き合ってからにして頂戴。特に何の関係もない相手に対してSな態度をとるなんてのは、Sでもなんでもなくてただの嫌な奴よ、それ。」


「安心しろ!俺はSでもMでもねえよ!」


「じゃあ……Lなの?」


「何のサイズの話してんだよ!」


「月くん……あなたが、キラですね?」


「竜崎、馬鹿なことを言うのはやめてくれ。僕は竜崎と一緒にキラを……って、お前がLになってどうするんだよ!」


「素晴らしいツッコミスキルね、尊敬するわ。まあ、冗談はこのくらいにしておきましょう。話を戻すわ。風見くん、私が色恋沙汰だなんて、柄にも無いことは百も承知だわ。私は常に、誰にとっても高嶺の花であるべき存在。それでも、勇気を振り絞って告白したのよ?あなたに断る理由なんて、存在しないと思うのだけど」


東雲(しののめ)、高嶺の花も自分で言うセリフじゃないぞ!いや、しかしちょっと待ってくれ。お前の気持ちはよく分かった。すごく嬉しい。だけど…………何でよりにもよって俺なんだ?お前なんてすっげー美人だし頭もいいし、付き合おうと思えば俺なんかじゃなくて、もっとスペックの高い彼氏を作れるんじゃないのか?」


「急に美人なんて言われると照れるわ。録音しておけば良かったわね。でも一応言っておくけど風見くん、私はあなたのことが好きだから告白をしたのよ。だから、あなたがどれだけ低スペックな機体であろうと気にしないわ。別に罰ゲームで言わされてるわけじゃないのよ。安心して、私には罰ゲームジャンケンをする友達なんていないわ。いや、そもそも友達がいないわ」


「なんだ、これは喜んでいいのか?俺に告白するのは罰ゲーム位しか有り得ないとかいう偏見が見えたんだが。あと、さりげなくお前の悲しい一面を垣間見てしまった気がするんだが!」


「私にこんなことを言わせるなんて大したものよ、風見くん。そうね、枕に顔を(うず)めて足をバタバタさせるくらいには喜んでいいわよ」


「それは喜ぶっていうよりも、過去の黒歴史に悶えてる絵面に見えるな……」


「私には黒歴史なんて無いから、そんなこと言われても分からないわよ」


 長く伸ばされた艶やかな黒髪のツインテールが、窓から急に吹き込んだ風に揺れる。

 彼女の名前は東雲千春(しののめちはる)。俺が通っている小鳥鳴学園高校ことりなくがくえんこうこうの最優秀生徒ともいえる人物である。そして、今朝死ぬ予定だった人間でもある。


 彼女は本来であれば、今日の午前8時11分登校中に、大型トラックに轢かれて死んでいるはずであった。しかし、現在彼女は生きている。現に俺とこうして会話をしている。

 その理由は、たまたま運良く通りかかった俺が……いや、もうひとりの俺、と言った方が正確か。が、読書に夢中になってトラックに気付けない彼女を突き飛ばし、奇跡的にその命を救ったからである。どんだけかっこいいんだよ。

 しかし、そのもうひとりの俺はというと、無惨にもトラックに轢き殺されて死亡した。


 だから、東雲と俺が今会話できているということは、中々の奇跡なのである。もし、もうひとりの俺がそこをたまたま散歩していなかったら、今日彼女が教室にやってくることは無かっただろう。ましてや俺が、東雲に告白されるなんていうことも。


「風見くん、今朝のことは覚えているかしら?さすがの風見くんでも、あれだけの大事件を忘れることなんて有り得ないわよね?」


「何の……話だ?」


「風見くん、あなたは私の命を救ったはずなの。今朝、間違いなくあなたに背中を押されたわ。振り向いたときには、もう誰もいなかったのだけれど……」


「いや、それきっと俺じゃないと思うぞ。俺はすぐに消えたりできない。プリンセス天功じゃあるまいし。まあ存在感は常に薄い方だがな」


「あなた男なんだからプリンセスは無いでしょう……。でも、確かにそうね、普通なら死んでるはずの風見くんが今ここにいるんだもの。とはいっても間違いなく聞いたのよ。あなたの声で『東雲、危ないっ!』って。私が気付いた頃には、もう何もかもが終わっていて、正直訳がわからなかったわ」


「へぇ……不思議なこともあるもんだな。……まあなんにせよ、今東雲も、俺も、生きてる。とりあえずはそれで良いんじゃないか?そして、お前は命の恩人かもしれない人物に刃物を突きつけたという現実をよく自覚しておけ」


「……そうしておくわ。……誰しも多かれ少なかれ秘密というのは存在する、ということなのよね?風見くんがどんな秘密を持っていようと、それは私には関係ないもの。……一応言っておくわ、今朝はありがとう、風見くん」


「…………気にするな東雲。じゃあ、俺はそろそろ帰ろうと思う。また、明日な」


 俺は机にかけられたカバンを肩に背負い、教室を出ようと席を立った。が、東雲に強く腕を掴まれる。咄嗟に振り返ると、彼女の目は少し潤んでいるように見えた。


「待ちなさい、まだ答えを聞けていないわ」


「いや、だからそれはさっき……」


「それは、私と付き合うのは無理ということなのかしら?風見くんはやはり……私のことが嫌いということなの?」


「いや、全然嫌いじゃない!嫌う理由が無いしな。でも東雲、お前と付き合うのはやっぱり無理な話だ。ぼっちで地味な俺と、美人で優等生のお前とじゃ、釣り合わねえよ。悪いが、諦めてくれ」


「私はそんなの気にしないのだけれど…………。でも、どうしてもダメなら、仕方がないわね。…………正直、悔しい。あなたへの気持ちをどう消化すればいいか、全然わからない。今……人生で初めて泣きそうかもしれないわ。今まで辛いことなんて腐るほどあったけれど、こんな気持ちになるのは初めてよ。私をここまで追い詰めた人物は、私の歴史上あなたが初めてだわ、誇りに思っていいわよ風見くん」


「そんな……不名誉な……」


 東雲の頬をつたって、一筋の涙がこぼれた。地面に落ちると、それは小さな飛沫をあげる。俺の心はぎゅっと締め付けられるような気持ちになった。

 俺は家へ帰ろうと教室の外へ向けていた足を180度回転させ、東雲に向ける。このまま帰ったら、とめどない罪悪感で爆発してしまう気がしたのだ。俺は東雲の向かいの机に座り直した。


「東雲、ひとつ提案があるんだが」


「…………何かしら?」


「俺と、友達になってくれないか?」


「……友達?それは"friend"の方の友達でいいのかしら?」


「ああ、そうだ。お前の告白を断っておいて、自分勝手な意見かもしれないんだが、もし良かったら友達になってほしい。いや、迷惑だったら全然忘れてくれていいんだが……」


「これが俗に言う『友達じゃ……ダメかな?』ってやつなのかしら。実際にくらうと中々くるものがあるわね。…………でも、まずは友達から、という意味なら全然構わないわ。あなたのこと、もっと知りたいもの」


「おお……そうか、助かるよ東雲!」


「構わないわ。私も友達がいなくて困っていたところだったのよ。じゃあ風見くん、携帯を貸してもらえるかしら?」


「え、携帯?……別に構わないが?」


 俺は、東雲が差し出してきた手に携帯を乗せた。東雲は袖で涙の跡をゴシゴシとふくと、素早い手つきで何かを打ちだした。


「ありがとう風見くん、携帯を返すわ。あなたの連絡先リストに私の名前を入れておいたから、いつでも連絡してきていいわよ。あ、あと良く分からない女のアドレスがあったから、削除しておいたわ」


「ん、どれ?……って、それ妹のアドレスだから!ていうか妹じゃなくても消しちゃダメだろうが!」


「そうだったの。気づかなかったわごめんなさい。『ひよちゃん』なんて登録の仕方してるからてっきり勘違いしてしまったのよ。不覚にも少し『ひよちゃん』に殺意が湧いてしまったの。もし、風見くんの彼女だったら、間違いなく殺していたわ」


「なんか恥ずかしいから連呼するのやめてくれ!あと、妹のこと殺そうとするのもやめてくれ!」


 彼女から携帯を受け取ると、確かにそこには東雲のアドレスが存在していた。俺の少なすぎる残念なアドレス帳に、華が添えられたような気持ちがした。まあ妹のアドレスが消えたので数は変わらないが。

 しかし今日、ぼっちの俺に、なぜか友達ができた。しかも、それはそれは美少女の。

 …………これってもしかして俺の時代が、キタ━━━━━(((゜∀゜)))━━━━━ ⁉︎


空白


切風(きりかぜ)、お前には骨がないのか、それとも脳みそがないのか。どっちだ?」


「両方ちゃんと存在してるはずだが?」


「じゃあ、お前は相当の馬鹿なんだな。馬鹿を通り越してもはや馬鹿だな」


 目の前では、俺、いやもう一人の俺がけだるそうに煙草をふかしている。俺、がっつり未成年のはずなんだが。まだエロ本も買ったこと無いんだが。これはなんともイリーガルな行為だ、許せん。


「それ通り越すどころか一周して帰って来ちゃってるじゃないか。あと、俺の体で堂々とセブンスターを吸うのはやめてくれ。一応その体は貸してるだけなんだ。大切に扱ってくれないと困る」


「別にいいじゃねえかそんくらい。人間の楽しみなんて、これくらいしかねえだろ?それに俺はもう300歳は過ぎてる。お前みたいなガキとはちげえんだよガキとは」


「セブンスターしか楽しみが無い人間なんて中々いねえよ!楽しみの一部にしておいてくれ!しかもお前は300歳でも、お前に貸してる俺の体はまだ未成年なんだよ!未成年喫煙禁止法って知ってるか?」


「ぎゃあぎゃあやかましいな、お前。だからいつまでたっても童貞なんだよ。で、話を戻すけど、本当になんでフっちゃったんだよ?お前、このチャンス逃したら一生童貞だぞ」


 もう一人の俺は、短くなったセブンスターをぐしぐしと灰皿に押し付ける。そしてすかさず次の1本へと手を伸ばす。俺の言う事なんてさらさら聞く気はないようだ。


「別にもう童貞でもいいよ、この際。たとえ今だけ付き合ったとしても、結果的に彼女を悲しませるだけだし。なんにせよ、妹を救うまでは他のことを考える余裕なんて無い」


「お前、真面目なのな。ようやくお前ともダチになれたかと思ったけど、未だに俺はお前にとって監視役でしかないのか?」


「まあ……そうだな。だって実際お前も仕事が終われば俺から離れていくんだろ?そんなのは、友達とは呼べない」


「…………そりゃあいつまでも人間のいるとこに長居はできんだろうな。しかしな、お前に友達がいない理由が、よく分かった気がする」


「いないんじゃなくて、作らないんだ。ていうか二狐(ふたこ)はどこいったんだよ?早くあいつに体渡さねえとヤバイだろ。見つかったら速攻動物園行きだぜ」


「そういえば、さっき死んだきり見てないな。本体ごと死んじまったんじゃねえの?」


「縁起でもないこと言うなよ!……俺ちょっと探してくるわ、留守番頼んだ」


「…………あいよ」


 俺はいなくなった二狐(ふたこ)を探すために玄関へと向かった。そして、整然と並べられている靴の隊列の中から、一際輝く黄色のスニーカーを選ぶ。緩くなった靴紐を結び直し、俺はドアノブを捻る。


 ドアを開けると、気圧の関係で外から強めの風が吹き込んでくる。ドラクエで言うならバギマくらい。そんな強風にも打ち負けず、体でドアを強引に押し開ける。なんとかして外の世界に脱出することができた俺は、突き抜けるような空を見上げた。燦々(さんさん)と輝く太陽の光は、あらゆるものに反射して俺の瞳孔へと吸い込まれていく。眩しい。


 この辺りはエリア116地区といって、まあそこそこに都会であると言えるだろう。街中の至る所にTSUTAYAがある。急にマンガ・DVDを借りたくなっても、心配はご無用だ。少し歩けばTSUTAYAが見つかるはずだ。

 このエリア116には、俺の家も、小鳥鳴高校も、今日東雲が事故にあった交差点、すなわち二狐が死亡したであろう交差点も、すべて存在している。つまり、二狐はおそらくこのエリアの中にいるはずである。とりあえず、今朝の事故現場である交差点に向かうことにした。

 二狐というのは、今日東雲を救った張本人である。そして、さっきとは別の、もうひとりの俺である。



 二狐が死んだ場所がなぜ分かるのか、というのは、一狐(ひとこ)も二狐も俺の体を貸りている身だ。故に、完全ではないがあいつらの行動や感覚はある程度感じ取ることができる。今朝、二狐が死んだ瞬間の痛みも、あいつに貸している体の分、つまりは二狐が受けたダメージの3分の1程度は感じている。簡単に言っているが、これは正直かなり痛い。3分の1に軽減されているとはいえ、トラックに轢き殺される痛みだ。

 まあ若干そんな生活にも慣れつつあるのだが。


 とはいえ今、俺の体を失っている状態にある二狐が何処にいるかは、てんで検討もつかない。でも、まだそう遠くにはいってないはずだ。

 あ、ちなみに一狐とは、さっきのもう1人の俺である。つまり、今朝の事故の前までは、客観的に見れば俺が3人存在していたことになるな。どんなドッペルゲンガーだよ。


 ふいに目の前の信号が赤に変わる。俺は道路交通法にのっとって、その歩みを止める。別に、車が通る気配なんてのは皆無だったが、信号無視してしまえ、なんて気持ちは微塵も湧いてこなかった。そんなことをしようとすれば、俺の脳裏に今朝の事故の映像が浮かび上がる。一狐や二狐は、もし死んでしまっても、俺の体を貸してやれば何度でも蘇生できる。でも、俺は違う。死んだらもう復活なんてのはできない。絶対に事故なんかに遭うわけにはいかないのだ。


 信号が青く変わった。俺は道路交通法にのっとって、右足をまえに踏み出す。一定の間隔で白線が引かれている横断歩道。俺はその白線の上だけを歩くようにして進む。それ以外はマグマで落ちたら死亡するのだ。おーっとあぶね。うん、いい歳こいて何してんだ俺。


 その後もだらだらと歩き続けたが、二狐は見つからない。建物の陰に隠れていないか、側溝に落っこちてないか、向かいのホームにいないか、そして新聞の隅にもいないかくまなく探す。も、まるで二狐は見つからない。神隠しか。ジブリか。


 もう家を出てから10分ほど経ったろうか、とうとう事故現場の交差点まで到着してしまった。が、二狐の影は見当たらない。世界が二狐を隠してしまったのだろうか?なんかロマンチック?いや超迷惑だ、是非やめていただきたい。……しかたないので、俺はここで秘策を使うことにした。


「……しょうがない、少しだけなら許されるだろう。これ以上のかくれんぼは、さすがに面倒くさい……規模がでかすぎる」


 普段は禁じ手であるものの、"影"から得た力のひとつである、探索能力を使うことにしたのだ。探索能力というのは、目的地が人間版のグーグルマップである。探したいものを思い浮かべ、その能力を発動させれば、あっという間に位置を割り出してしまう。そのスピードもはやティファール並み。俺、なんとも恐るべしである。


 片目を臥せて、その探索術を発動させる。開いている左目は妖艶に赤く光り、ホームタウンであるエリア116を見渡す。二狐のわずかな感覚をその千里眼が探し求める。


「二狐はどこにいる……!感じろ……感じろ……。何処だ、見つけろ、見つけ出せ!」


 全神経を研ぎ澄ませ、術に集中する。

 …………ん…………見えたか⁉︎……いや、しかしここは、何処だ。でもかなり近い場所じゃないか?ここからもう、すぐそばの……。ましてや、半径5m以内?もしやもう見えている位置に?…………二狐の視線へと視覚を切り替えてみるか。


 ……ん?……この目の前に映ってる人物は誰だ?こいつ……誰かを追いかけてるのか。え…………それってもしかして


「あ、あの……!」


「……あ?」


 後ろからの呼び声に応じて振り向くと、そこには、1匹の化狐の姿があった。すなわち、二狐である。


「いや、お前…………何してんの?」


「い、いやあ何ていうか!その、あのーええと。あ、実はずっと後ろにいたっていうか、なんていうか……」


「うん、なんでお前声かけなかったの?なんなの?スネークなの?」


「いやあ……あはは。えっとなんか、凄い真剣に探してるみたいだったので……どのタイミングで声掛けたらいいかなあ……って」


「……いつから気付いてたんだ?」


「あ、えっと……あの白線以外マグマ?のとこからですかね……」


「いや、それめっちゃ序盤じゃねえか!そっからずっと黙ってついてくるとかタチ悪すぎるだろ!しかも何で俺の心の声が聞こえてんだよ!エスパーかお前!?」


「あ!あっ、あ、怒んないで!いや、はじめは何処いくんだろうなーって思ってついてったんですけど、これ私のこと探してるなって気付いたのは今さっきで……なんていうかそのー、申し開きがありません…………」


「……まあ反省しているなら許そう。俺も鬼じゃない。しかし、あまりにも鈍感すぎるたろ二狐。ラノベの主人公かお前は!」


「……そっくりそのままそのセリフを、風見くんにブーメラン返し!」


 俺の顔面に向かって巨大なブーメランが飛んできた。思わずふっとばされる。これは痛恨の一撃!


「がっ!……ぐふっ!…………お前なんてことしやがんだバカやろう!」


「あ、ごめんなさい、つい!いや、…………そうじゃなくて、あ、あの、また切風くんの体で死んじゃった…………それは本当に、ごめんなさい」


「ああ、いや気にしなくていいよそれは!お前の行動で人が1人救われてんだ。無駄死じゃあなかったと思うぜ!」


「…………切風くん」


「まあ、ともかく帰ろう!さすがにそのかっこのまま出歩いてると、まずいだろ?」


「そうですね…………帰りましょう!」


 無事二狐を回収した俺は、家路を目指して再び歩き出すのであった。

 

 ……こいつらと初めて出会ったのは、だいたい1ヶ月ほど前のことだったか。俺が60年の寿命と引き換えに手に入れた様々な能力。この力を得てしまった俺を殺すために、一狐と二狐はやってきた。最終的には監視下での生活という名目で、何とか命だけは救われたのだが。

 とはいえ、60年分の寿命を失ってしまった俺に残された時間は、あと1年ほどしかない。この限られた時間内に、なんとしても妹を、「風見ひよこ」を救わなければならない。


 俺は、夜にはじまる妹を救うための戦争に向けて、家路への足取りを速めるのであった。


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